表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

第一王女

王都から半日ほど離れた、街道沿いの村。


最近この村では、

夜な夜な現れていた魔物が、忽然と姿を消していた。


「‥‥‥本当に、助かってるよ」


「脇目も振らずに、黙って魔物を倒していくんだ。」


「ただ一言だけ言うんだよ。

 "通りすがりのアーサーだ"って」


そんな噂を、

蓮たちは酒場で聞いていた。


「‥‥‥黙って魔物討伐、か」


蓮は、木製のジョッキを置く。


「目立つことは避けている。

 それでいて、力は隠せていない」


エルメスが、楽しそうに言った。


「王宮が警戒するわけだ」


マーリンは、少しだけ不安そうに袖を掴む。


「‥‥‥その人、強い?」


「ああ。たぶん」


蓮は、静かに答えた。


「あんたら‥‥ここいらの人間じゃないだろ?」


酒場で話しかけてきた男性は

どうやらこの村の住人らしい。

手には木製のジョッキを持っており飲みながら話す。


「そのお方なら会ったことあるぜ」


「本当ですか!?」


「あぁ。隣国の街道でさ‥‥‥

 魔物だけじゃなく、ならず物まで片付けてくれるんだ」


「名乗るときは、決まって一言だけ」


「ーー"アーサー"だ」


エルメスは、顎に手を当てる。


「アルトリア王国方面か‥‥‥

 あそこは、王族が前に出過ぎる国だ」


「隣国、ですよね?」



「最近は、敵国のバルカス国との関係が、

 かなりきな臭いらしいがな」


酒場の空気が、わずかに重くなる。


「噂によると、あの国はーー

 魔物を"討つ"より、"使う"ことを選んだらしい」


「使う‥‥?」


「意図的に魔物を流す。

 村を荒らし、街道を封鎖し、

 混乱したところを、盗賊や傭兵に漁らせる」


エルメスは、肩をすくめた。


「証拠は残らない。

 残るのは、魔物に壊された村と、消えた人間の跡だけだ」


酒場の男が、低く唸る。


「‥‥‥最近、街道で馬車が襲われるって話もある」


「護衛付きでもか?」


「ああ。

 特に、隣国へ向かう貴族の馬車がな」


蓮は、無言で立ち上がった。


「‥‥行こう」


「え?」


「噂を聞いた以上、無視できない」


エルメスは、にやりと笑う。


「勘がいいな、蓮。

 ちょうどーー今夜通る予定の馬車がある」


***


夜の街道。


月明かりに照らされ、

一台の馬車が、静かに進んでいた。


周囲には、最低限の護衛。


だがーー


ガサッ。


茂みが揺れる。


次の瞬間。


「止まれぇぇぇっ!!」


闇の中から、ならず者たちが躍り出た。


「馬車を囲め!」


「抵抗するな!

 命までは取らねぇ!」


護衛が剣を抜くが、数が足りない。

馬が嘶き、馬車が急停止する。


その中から、

控えめな装いの侍女が叫んだ。


「ひ、姫様‥‥‥!」


ーー姫様?


蓮は、目を細める。


「‥‥‥来たな」


次の瞬間。


「そこまでだ」


澄んだ声が、夜に響いた。


馬車の扉が開き、

一人の少女が、静かに降り立つ。


月光を受けて揺れる髪。

凛とした立ち姿。


侍女が、慌てて頭を下げる。


「こちらはーー

 アルトリア王国第一王女、セレシア殿下であらせられます」


ならず者たちが、凍りついた。



「‥‥‥は?」


「姫、だと‥‥‥‥?」


セレシアは、一歩前に出る。


「この街道は、王国の管理下にある。

 剣を収めなさい」


その背に、迷いはない。


「これはヤベェ!!」


闇の中へと逃げ出しそうとする、ならず者たち。


ーーだが。


「逃しません」


静かな声。

その一言で、空気が凍った。


セレシアは、剣を抜いた。


刃が月光を反射し、淡く光る。


次の瞬間ーー

彼女の姿が、掻き消された。


「ーーっ!?」


気づいた時には、

逃げ遅れた男の足元に影が落ちている。


「な、何ーー」


剣は振るわれなかった。

ただ、柄で鳩尾を打ち抜かれる。


「ぐっはーー!」


男が崩れ落ちるのと同時に、

別の男の手首が、正確に打ち払われた。


剣が地面に転がる。


「う、うわあああっ!」


恐慌。


ならず物たちは、完全に統制を失った。


「囲め!数でーー」


言い終わる前に、

セレシアは背後へ回り込んでいた。


「遅い」


低く、短い一言。


足払い。

膝蹴り。

肩を掴み、地面へ叩き伏せる。


致命傷は与えない。

だが、二度と立てない。


それだけの技量。


数十秒後ーー

街道には、呻く男たちがだけが残った。


剣を収め、セレシアは深く息を吐く。


「‥‥‥終わりました」


蓮は、しばらく言葉を失っていた。


(剣の腕だけじゃない‥‥‥)


(完全に"戦場慣れ"してる‥‥‥)


ならず者たちが地に伏せし、

街道に静寂が戻る。


セレシアは剣を鞘に納め、

あらためて蓮たちへと向き直った。


月明かりの下、

その立ち姿は凛としている。


「‥‥‥君たちは?」


短く、だが警戒を含んだ問い。

蓮は一歩前に出て、軽く頭を下げた。


「俺は蓮です。旅の途中でーー」


言葉を選びながら、正直に続ける。


「向こうの馬車が襲われているのが見えて」


視線で、街道の先を示す。


「助けようとして‥‥‥‥」


少し苦笑して、肩をすくめた。


「正直に言うと、俺たちだけじゃ危なかったです」


マーリンも、蓮の横で小さく頷く。


「‥‥間に合ってよかった」


セレシアはそう言ってから、

一瞬だけ馬車の方を振り返った。


「無謀だが‥‥‥」


視線を戻し、静かに告げる。


「その行動は、無駄ではなかった」




そのときーー

馬車の扉が開き、控えていた侍女が一歩前に出る。


「失礼いたします」


深く一礼してから、はっきりと告げた。


「こちらは

 アルトリア王国第一王女ーー

 セレシア・アルトリア殿下にあらせられます」


空気が、変わった。


蓮は一瞬だけ目を見開き、

すぐに頭を下げる。


「‥‥‥これは、ご無礼を」


マーリンも慌てて姿勢を正す。


だがーー

彼女は、少しだけ迷ってから、口を開いた。


「‥‥‥あの。」


小さく、けれどはっきりとした声。

マーリンは、セレシアを見上げる。


「どうして‥‥‥殿下ほどの方が」


言葉を探すように、一拍置いてから続けた。


「‥‥‥あのような危ない場所に、

 いらしたんですか?」



侍女が一瞬、口を挟もうとするがーー

セレシアが、静かに手で制した。


「‥‥‥理由がなければ、ここには来ない」


そう答えてから、わずかに目を伏せる。


「だが、それを今、語る必要はない」


そして、蓮たちをまっすぐ見た。


「ただ一つだけ、言えることがある‥‥」


「私はーー

 "自分の意思"で、ここにいる」



 その声に、迷いはなかった。

 

 蓮は、心の中で確信する。



(やっぱり‥‥‥)


(この人が‥‥通りすがりの”アーサー”だ)






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ