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王宮

王都ーー

その中心にそびえる、白亜の王宮。


高い天井、磨き抜かれた大理石の床。

一歩踏み出すたびに、靴音がやけに響く。


「‥‥‥‥場違い感、すごいな」


蓮は思わず小声で呟いた。


「慣れるよ。

 最初はみんな、そんな顔をする」


隣を歩くエルメスは、どこか他人事のように笑っている。


「いや師匠は慣れすぎですって‥‥‥」


マーリンは、きょろきょろと落ち着きなく周囲を見回していた。

豪奢な装飾、近衛兵たちの視線。

無意識に、蓮の袖を掴む。


「‥‥‥‥マスター。ここ、こわい」


「大丈夫大丈夫。

 今さら俺たちをどうこうする理由もないし」


そう言いつつ、内心は同じだった。


(盗賊団の一つで、王宮直々の呼び出しって‥‥‥‥

 どんだけデカい話になってるんだよ)


やがて案内されたのは、謁見用の広間ではなく、

やや私的なーーそれでも十分すぎるほど格式ある応接室だった。




「ーー以上が、今回の事件の顛末です」


憲兵隊長の報告が終わる。


視線の先には、王都関係者、文官、そして数名の貴族。


その中にーー

見覚えのある緋色の瞳があった。


「‥‥‥‥」


マーリンが、ぴくりと反応する。


蓮も気づいた。


(あの時の‥‥‥‥)


リディア・メルセデス。


あの盗賊団のアジトで、

怯えながらも気丈に立っていた少女。


彼女は今、

王宮にふさわしいドレスを纏い、

しかし視線は、はっきりと蓮に向けられていた。


軽く、頭を下げられる。


蓮も慌てて、ぎこちなく会釈を返した。


「‥‥‥‥やっぱり貴族だったんだな」


小声で呟くと、エルメスが肩をすくめる。


「伯爵家だよ。

 それも、王宮と縁の深い家だ」


(そりゃ王宮が動くわけだ‥‥‥)



謁見後、控え室。


「改めて‥‥‥‥ありがとうございました」


リディアは、深く一礼した。


「いえ、その‥‥‥無事でよかったです」


少し間を置いて、彼女は続ける。


「私があの場所にいた理由、

 ‥‥‥気になっていましたよね?」


蓮は正直に頷いた。


「はい。正直、かなり」


リディアは、一瞬だけ視線を伏せる。


「王都から、地方の領地へ向かう途中でした」


「視察、という名目で」


その言葉に、エルメスが静かに補足する。


「表向きはな。

 実際はーー内部調査だ」


リディアは、はっきりと頷いた。


「はい。

 最近、盗賊団と"繋がっている"貴族の噂がありました」


「父‥‥‥ベンツ・メルセデス伯爵は、

 それを確かめるために、私を囮として同行させました」


「結果として‥‥‥

 囮にされたのは、私自身でしたけれど」


自嘲気味に微笑む。


(囮に、伯爵令嬢を使うとか‥‥‥

 この世界、思ってた以上にエグいな)


「ですが」


リディアは、まっすぐ蓮を見る。


「あなたが来てくれた。

 それで、全てが変わりました」


「ーー娘が世話になったな」


低く、よく通る声。


振り返ると、

威厳をそのまま形にしたような男が立っていた。


「私は、ベンツ・メルセデス。

 リディアの父だ」


伯爵は、深々と頭を下げた。


「命を救ってくれたこと、

 そして、この件を王宮まで引き上げてくれたこと。

 心から感謝する」


蓮は慌てて、頭を下げ返す。


「い、いえ!

 たまたま居合わせただけで‥‥‥」


伯爵は、じっと蓮を見る。


「‥‥‥エルメス」


「なんだい」


「君が弟子にした理由が、よく分かった」


エルメスは、楽しそうに笑った。


「だろ?」


伯爵は続ける。


「この一件で、噂になっていた貴族は動けなくなった。

 王宮が介入した以上、もう裏では手を出せない」


「それだけの"波紋"を、君は起こしたんだよ」


蓮は、息を呑んだ。


(知らないうちに‥‥‥

 世界、動いて他のかよ)



王宮を出る頃には、

周囲の視線が明らかに変わっていた。


「あれが‥‥‥‥」

「エルメスの弟子だ」

「例外の契約を結んだって噂の‥‥‥」


小さな囁きが、確かに耳に届く。


「‥‥‥俺、有名人?」


「悪い意味でもな」


エルメスは肩を叩く。


「だが、それが王都だ。

 目立つ者から、世界は回り始める」


マーリンが、ぎゅっと袖を掴んだ。


「マスター‥‥‥

 なんだか、遠くに行っちゃいそう」


「行かねぇよ」


蓮は即答した。


「マーリンは、俺の隣だ」


彼女は、少しだけ安心したように頷いた。


***


「さて」


エルメスが伸びをする。


「王都に来たからには、やることは山ほどある」


「商会、ギルド、王宮対応‥‥‥

 正直、面倒だ」


「ですよね」


その時。


「エ・ル・メ・ス。様ぁ〜〜〜っ!!!」


甲高い声。


振り返ると

きっちりとしたスーツ姿の女性が、

書類の山を抱えて立っていた。


「やっと見つけましたよ!!」


「随分前に王都へ戻ってきているみたいなのに、

 一向に商会には顔見せないし!」


エルメスは、露骨に目を逸らす。


「あー‥‥‥君か」


「"君か"じゃありませんよ!!」


秘書は、ずいっと詰め寄る。


「エルメスさんが抜けた穴を埋めるの、

 すっっっごく大変なんですから!!」


「監査!契約!クレーム!

 全部私が処理してるんですよ!?」


「‥‥‥‥優秀だなぁ」


「褒めても許しません!!」


そして、ようやく蓮を見る。


「‥‥‥‥で?」


「その子が?」


エルメスは、にやりと笑った。


「そう。

 俺の弟子ーー蓮だ」


秘書は、深くため息をついた。


「‥‥‥‥はぁ。

 また、とんでもない爆弾を拾ってきましたね」


蓮は、苦笑するしかなかった。




(王都編‥‥‥

 絶対、平穏じゃ終わらねぇな)

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