盗賊団
「よし!早速聞き込みからだな」
マーリンと蓮は情報集めから始めることにした。
その夜。
ギルド近くの酒場。
「盗賊団?」
カウンターの男が鼻で笑う。
「あぁ、最近調子に乗っている連中だ。
街外れの廃砦を根城にしている」
「人質を取るって‥‥‥‥」
「子供だ。
売るか、脅しに使うか‥‥‥ロクなもんじゃねぇ」
酒場の空気が、少し重くなる。
***
裏路地の一角。
「‥‥‥‥銀貨三枚だ」
フードを被った情報屋が、低い声で言う。
「人数は7。
頭目は交渉好きだが、弱い相手には容赦しない」
「奴隷売買も?」
「やってる。
だから"商人"が来る可能性も想定してる」
蓮は、静かに息を吐いた。
***
街を出る前、
マーリンがぽつりと口を開く。
「‥‥‥‥もしもの時は」
彼女の指先に、小さな火が灯る。
「低級魔法だけど‥‥‥
ファイヤーボールくらいなら」
蓮は驚いた。
「もう魔法覚えたのか!?すごいぞっマーリン!!」
しかし蓮はすぐに首を振り、
マーリンの頭を撫で始めた。
「無理はしないでいい。
今回は‥‥‥戦わない」
マーリンは少しだけ、安心したように頷いた。
その背後で、エルメスが小さく呟く。
「‥‥‥‥さて。
どうやって解決するか
見せてもらおうか」
***
街を出て半日。
荒れた道に進むにつれ、人気は完全に途絶えていた。
崩れかけた見張り塔。
かつて砦だったであろう石壁は、今では盗賊の根城だ。
「‥‥‥あそこですね」
マーリンが小さく呟く。
彼女の表情は落ち着いているが、
ローブの内側で、指先がわずかに熱を帯びていた。
(ファイヤーボール‥‥‥使えるとは言ったけど)
蓮は無意識に一歩、彼女の前に出る。
「無理はするな。
今日は‥‥‥‥話をしに来ただけだから」
マーリンは一瞬驚いたように蓮を見て、
小さく、頷いた。
「‥‥‥‥はい。マス‥‥‥でもっ」
言いかけて、言葉を飲み込む。
そのやり取りを、少し離れた場所から
エルメスが無言で見ていた。
***
「ーー誰だ」
砦の前。
剣を担いだ盗賊が二人、道を塞ぐ。
「俺は商人だ」
蓮は、はっきりと名乗った。
「商人?」
盗賊の一人が鼻で笑う。
「こんなところに?
肝が据わってんな」
「用件を言え」
蓮は、目を逸らさずに答えた。
「人質の件で話がある」
その瞬間、空気が変わった。
「‥‥あぁ?」
やがて、奥から現れた男ーー
体格のいい、いかにも頭目と分かる人物が口を開いた。
「ほう‥‥‥商人か」
視線が、マーリンへ移る。
一瞬だけ、値踏みするような目。
「‥‥‥‥なるほどな」
そして、ニヤリと笑った。
「お前も奴隷商人なら、分かるだろ?」
頭目は肩をすくめ、平然と言い放つ。
「子供は"高く売れる"んだよ」
背後で、子供の小さな泣き声が聞こえた。
マーリンの肩が、ぴくりと揺れる。
(‥‥くそっ)
蓮の胸の奥で、何かが強く軋んだ。
だが、叫ばない。
殴らない。
代わりに、深く息を吸った。
「‥‥‥確かに」
盗賊たちが、意外そうな顔をする。
「商売として見れば、
子供は"商品価値"が高い」
「ほらな?」
頭目は勝ち誇ったように笑う。
だが。
「でも、俺は」
蓮は、一歩前に出た。
「俺は‥‥そんな奴隷商人にはならない」
砦の前に、沈黙が落ちた。
「人を売る仕事を否定つもりはない。
でもーー」
蓮は、檻の方を見た。
「弱いものを狙って、泣いてる子供を金に換えるのは
"商売"じゃない」
「ただの、盗みだ」
盗賊の一人が、怒鳴る。
「ガキが‥‥‥‥!
綺麗事言ってんじゃねぇ!」
「綺麗事でいい」
蓮は、目を逸らさない。
「俺はーー
そういう綺麗事を通すために、
ここに来た」
マーリンが、思わず蓮を見る。
その横顔を。
初めて見る、
商人としての顔を。
頭目は、舌打ちしながら笑った。
「‥‥‥面白ぇな」
「じゃあ聞こう。
力もねぇ、兵もねぇ商人がーー」
「どうやって、俺たちを"納得"させる?」
背後で、エルメスが小さく呟いた。
「‥‥‥‥さぁ、ここからだぞ」
盗賊団の頭目は、蓮を見下ろすように腕を組んだ。
「悪いが、話は終わりだ。
ガキどもは"商品"だ。
お前みたいな甘ちゃん商人に、渡す理由がねぇ」
周囲の盗賊たちが、じり、と距離を詰める。
剣が抜かれる音。
棍棒が地面を叩く音。
「‥‥‥やっぱり、こうなるのか」
蓮は小さく呟いた。
(交渉は失敗ーーいや、最初から聞く気がなかった)
頭目が吐き捨てる。
「最後に一つだけ聞いてやる。
そのエルフ、護衛だろ?」
視線がマーリンに向く。
「だったらーー」
「殺せ」
その瞬間だった。




