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特別区分

王都の喧騒から少し離れた通り。

石造りの大きな建物を前に、蓮は思わず立ち止まった。


「‥‥‥‥でか」



「当然だ」


隣で、涼しい顔の男ーーエルメスが言う。


「商売をするなら、まず"身分"がいる。

特に奴隷商はな。無登録でやれば即刻犯罪者扱いだ」


「つまり‥‥‥‥」


「商人ギルドへの登録が必須だ。

 奴隷商は"商人の中でも特別区分"になる」


エルメスは少しだけ口角を上げた。


「まぁ‥‥‥普通は、最初から弾かれるが」


「‥‥‥‥俺、弾かれます?」


「さぁ。どうかな」


(絶対なんかあるだろこの人‥‥‥‥)


マーリンは、蓮の背後で小さくマントを握り締めている。




***




ギルド内は広く、天井も高い。

受付窓口がいくつも並び、商人や冒険者が行き交っていた。


「次の方どうぞ〜」


呼ばれて、蓮が前に出る。


「えっと‥‥‥‥商人登録を‥‥‥」


受付嬢は慣れた手つきで書類を取り出す。


「はい。取り扱い品目は?」


「‥‥奴隷、です」


 一瞬。

 受付嬢の手が、止まった。




「‥‥‥失礼ですが、

 奴隷商登録は特別区分になります」


声のトーンが、明らかに変わる。


「保証人、もしくは推薦人は?」


蓮は、ちらっと後ろを見る。

エルメスが、一歩前に出た。


「推薦人なら、私だ」


受付嬢は顔を上げーー

そして、目を見開いた。


「‥‥‥え?」


「エルメス様‥‥‥」


 数秒の沈黙。


 次の瞬間。


「ーーっ!?」


受付嬢は慌てて立ち上がった。


「し、失礼いたしました!!

 まさか、エルメス様のーー」


「弟子だ」



その一言で。


ギルド内が、ざわついた。



「‥‥‥今、エルメスって‥‥」

「エルメスの弟子って言ったか?」

「ハイクラス奴隷商の‥‥‥?」



 受付嬢は、声を潜める。


「‥‥‥‥登録、すぐに通します。

 奥の窓口へ‥‥‥」


(なにこの空気!?)


蓮は完全に置いていかれていた。




登録手続きが終わった後、

蓮は掲示板の前に立っていた。


「商人でも、依頼を受けられるんですね」


「当然だ。

 情報、護送、交渉、回収ーー商売の延長だからな」


エルメスの言葉に、蓮は納得したように頷きながら、

掲示板に貼られた依頼書へ視線を走らせた。


「薬草採取に‥‥‥鉱石の採掘と‥‥‥魔石集めまであるな」


どれも冒険者向けの定番依頼だ。

どれも魔物が出る可能性がある。

戦えない自分には、正直どれも縁遠い。


「そういう場合は、冒険者パーティと同行するんだ」


エルメスが説明してくれた。

商人ギルドはほとんどが"戦えない商人"ばかり

そんな時は、冒険者と旅をするが、

旅の準備(装備や食料)諸々の費用は商人側が払うのが一般的だ。


「うぅ‥‥‥利益でるか?これ」



その横で。


マーリンが、じっと動けなくなっていた。


「‥‥‥マーリン?」


呼びかけても、返事はない。

彼女の翡翠色の瞳は、一枚の依頼書に釘付けになっていた。


________________________

【盗賊団による誘拐事件】


人質:子供複数

生存優先

交渉可


________________________



「‥‥‥‥‥」


マーリンの指先が、わずかに震える。


「‥‥‥マスター」


小さな声だった。


「これ‥‥‥‥」


蓮も、その紙に目を落とす。


「子供、か‥‥‥」


胸の奥が、少しだけ重くなる。

マーリンは、ぎゅっとローブの裾を握り締めた。


「‥‥‥放っておけない‥‥‥。」


その言葉は、まるで自分自身に言い聞かせるようだった。


蓮はしばらく黙り込みーー

やがて、依頼書をゆっくりと剥がした。



掲示板の前で依頼書を手に取った蓮の背後から、

エルメスが低く呟いた。


「‥‥‥妙だな」


「え?」


「商人ギルドで、盗賊団の人質救出か」


エルメスは受付嬢の方へ視線を向け、歩み寄る。


「失礼。

 この依頼、どうして商人ギルドに?」


受付嬢は一瞬、言葉を選ぶように視線を伏せた。


「‥‥‥本来は、冒険者ギルド案件です」


「やはりか」


「ですが‥‥‥

 相手が"貴族領内の盗賊"でして」


エルメスの眉が、わずかに動く。


「貴族、か」


「はい。しかも‥‥‥人質の扱いが問題になっていまして。

 下手に討伐すると、後が面倒になる‥‥と」


「なるほど‥‥‥」


エルメスは、蓮の方をちらりと見る。


「戦闘ではなく、

 交渉・回収・責任処理を求められているわけだ」


「‥‥‥‥商人向け、ってことですか」


「そうだ。

 そしてーー」


エルメスは小さく笑った。


「厄介だから、押し付けられたみたいだ」


(やっぱりか‥‥‥)




蓮はこの依頼を受けることにした。

マーリンが救いたいと言う気持ちを

無碍にすることはできなかった。

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