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09

 開始前に多少の騒ぎがあったものの、入学式はアンソニー殿下の隣に見知らぬ女生徒が座っていると話題になった位で、無事に恙無く終わった。


 その話題も新入生代表としてアンソニー殿下が挨拶をしたのち、特待生代表…最優秀生徒としてサーモンピンク髪の彼女が答弁の挨拶を行ったことで「ああ、成績優秀生だから、殿下の隣に座っていたのだな」と納得している様子だった。


 彼女の名前はマイア=ウェルチ。


 平民でも優秀な者には勉学の機会をという事で設けられている特待生制度。専用の試験で最優秀の成績であったため、特待生代表として選ばれた程の学力の持ち主。アンソニー殿下がお忍びの旅で出会ったという平民の少女である。平民だからなのか、細くて華奢な事が美徳とされがちな貴族令嬢とは違い、どちらかというとしっかりとした健康的な体格で、それが彼女の持つ気さくな態度や雰囲気ともよく合っており、誰もが話しかけやすく好感を持ちやすい人なのだろうと感じた。


「ねえ、トニー。私も学院の図書館を利用して良いの?」


「ああ勿論だ。マイアだってこの学院のれっきとした生徒なんだ、施設や設備は遠慮することなく存分に使うといいさ。」


「本当?嬉しい!でも、使い方が判らなくて迷惑をかけるといけないから案内してもらえると嬉しいかな!」


 入学式が終わってからというもの、サマンサ嬢をことさら避けるようになったアンソニー殿下は、その一方で常にマイア嬢を傍に侍らしていた。マイア嬢も最初は戸惑っていたものの、今ではすっかりそれを受け入れ、僕以外の側近候補たちもそれを当然のものとしていた。


 特に彼女が特待生として優秀な成績を残したという事もあって、先生方(教師や講師)の中には「優秀な平民生徒をアンソニー殿下が保護し手助け(サポート)するのは良いことではないか?」と発言する者もいるくらいだ。


 マイア嬢自身も人当たりが良くいつも快活で、何事にも物おじせず堂々としていることもあって、次第に多くの生徒からの注目を集めるようになった。


 授業においても的確な質問や困っている他の特待生への助言(アドバイス)や貴族生徒はあまりやりたがらない先生方(教師や講師)の手伝いなどにも嫌がらず積極的に行っている。そういった彼女の明るくてハキハキとした態度や行動に好感を持たないものは少なく、特に男子生徒でマイア嬢の事が人気になるのには時間はかからなかった。


 しかし


「マイアさん、ちょっとよろしい?」


「は、はい何でしょう?」


 ある日の放課後、僕がとある講師の先生の手伝いの後、アンソニー殿下専用の談話室(殿下と側近候補達専用の生徒交流室・サロンのような場所)に向かおうとして中庭を通り抜けようとした時、窓から授業後の誰もいないはずの教室から女生徒たちの声が聞こえた。


 思わず外壁と植栽の隙間に入り、気付かれないように覗き込むと女生徒たちに囲まれているマイア嬢の姿があった。


「マイアさん、いい加減にしてくださる?いくらあなたが成績優秀だからと言ってアンソニー殿下に近付き過ぎでしてよ!」


「そうよそうよ、王太子であるアンソニー殿下にはそのお立場にさわしい女性(お方)がいらっしゃるのよ。なのにこれ見よがしに取り入るなんて!」


「そ、そんなつもりでは…。」


「はっ、殊勝な振りをしていらっしゃるようですけど、この前もお話ししましたわよね?アンソニー殿下に近付き過ぎです、と。」


「まったく、平民のくせに殿下に馴れ馴れしいったらありゃしない。」


「ほんと、図々しくて、その上面の皮も厚くていらっしゃる。」


「私はただ…。」


「いい加減に立場というものを理解して頂きたいものよ!」


 一方的に言いたいだけ言ったと思わしき令嬢たちは、マイア嬢を置いて教室から去って行った。


 彼女たちはとても見覚えがあり…サマンサ嬢の取り巻きの令嬢たちだ、入学式に制服を汚されたという令嬢もいる。恐らくあの頃からひそかにマイア嬢に絡んでいるのだろうか。まさかサマンサ嬢がやらせている訳ではないだろう、近頃はアンソニー殿下とサマンサ嬢の交流はほとんどなく、サマンサ嬢は簡易石鹸の普及の為、授業終了後(放課後)も忙しくしている。


 とは言っても、取り巻き達がその状況を憂いて勝手に行動したと推測されかねない状況ではあるが、入学式の一件以降、サマンサ嬢も思う所があるのか、定期的に開催されていたサマンサ嬢主催のお茶会も開催されていない。


 まあだから余計に暴走したと勘繰る人が出てもおかしくは…


「おーいヒューゴ、どこにいるんだ?」


 令嬢達が去った廊下(方向)とは逆の廊下(方向)からアンソニー殿下の声がする。しまった、連絡を入れずに講師の先生の手伝いに行ってしまっていたな…。


 僕が隠れた場所から出ようかどうしようか逡巡しているうちに、アンソニー殿下は教室内で泣いているマイア嬢を見つけてしまっていた。


「マ、マイア?こんなところで一体どうして…泣いてなんかいるんだ?」


「ト、トニー。ごめんなさい、何でもないの…。」


「そんな顔をしてなんでもない、なんてことはないだろう、何があったんだ?正直に話してくれ。」


「そ、それは…。その、私が悪い事だから…。トニー、ごめんなさいっ。」


 マイア嬢は小さく叫ぶと、小走りに教室を出て廊下を駆けていった。


「マイア、待ってくれ、一体どうしたんだ!?」


 アンソニー殿下も教室を出てマイア嬢の後を追った。


 これはとても厄介なことになってしまったんじゃないかと、けれどどうすればいいのか僕には何もわからなかった。


 一呼吸おいて、僕の周囲にも教室にも誰もいないことを確認してからアンソニー殿下専用の談話室(殿下と側近候補達専用の生徒交流室)へ向かうと、中央のソファに座って泣いているマイア嬢と隣で彼女を落ち着かせようとしているアンソニー殿下。そして室内には心配そうに二人を見守る側近候補たちが居た。


「ああ、ヒューゴか、今まで一体どこに行っていたんだ?」


 僕が入室したことに気付いたアンソニー殿下から軽く問われたので


「ここへ向かう途中で講師の先生に授業で使った教材の整理の手伝いを頼まれてしまいまして…。すぐに終わるという話だったんですが思ったより量が多くて。」


「そうか、それならしょうがないな。でもお陰でマイアの事を助けられ…てはいないな、だが状況を知る事が出来て良かったよ。」


 二人とも僕が教室の外に居たことには気づいていない様だし、僕は知らないふりをする事にして尋ねた。


「何かあったのですか?」


「何か、も何も!」


 アンソニー殿下は憤りながら僕が見たこととほぼ同じ内容を語った、ほぼ、というのは令嬢たちをそそのかしたか暴走させたのはサマンサ嬢である、という決めつけにも近い推測があったからだ。


「トニー、私が悪いの。だから誰も責めないで…。」


 泣きながらアンソニー殿下を宥めようと自分に非があると言い切るマイア嬢にアンソニー殿下を始め側近候補(周囲の者)たちは胸がいっぱいの様だ。


「マイア、あんな目にあってもサマンサの事を悪く言わないなんて。君はなんて心優しい人なんだ。」


「そんなこと言わないでトニー…。」


 アンソニー殿下に手を握られ、潤んだ瞳で返答しているマイア嬢の髪にガブリエラ嬢と同じ文様(デザイン)の細工ピンが付けられているのを僕は見逃さなかった。


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