王太子殿下から婚約破棄された侯爵令嬢は小公爵様の愛に応えたいようです?08(??)
王都を揺るがせた悪女マイアの騒動。その事件から何度も季節が廻り、王都より北にあるこのコリンズ公爵家の領地の南端では沢山のムクロジの実が実るようになった。
とある年のムクロジの可憐な雄花と雌花が咲きだす頃に、この地では大変めでたい事があった。コリンズ小公爵こと、コリンズ公爵家嫡男ヒューゴ卿の結婚式である。
お相手はリンゼイ侯爵令嬢サマンサ嬢、二人はムクロジという植物の普及や交易に邁進し、庶民の衛生環境を一段と引き上げた。そんな彼らの結婚を祝う為に国内外から様々な人達が、このコリンズ公爵家の領地にやってきていた。
そんな人々の中に彼はいた。アッシュブロンドの髪に濃い緑の瞳の若い男性だ。ヒューゴ卿と同い年位の彼は、遠巻きにコリンズ小公爵の結婚式を眺めていた。教会から出てきた彼らが列席者や見物人達に手を振っているところを確認すると踵を返して去ろうとした。
その背中に声をかける女性が居た。緩くウェーブがかったサーモンピンク色の髪にタンポポ色の瞳が特徴的な若い女性だ。
「お二人に挨拶はしないんですか?」
「ただ迷惑なだけだろう。」
「あの方達なら、喜ぶと思いますよ。きっと。」
「……。合わせる顔なんてない…私に彼らと会う資格なんてない…。これは、本来行かなければいけないところへ行く途中で、特別に今日此処に立ち寄る事を許されただけなんだ。一人旅なんて初めてだったけれど、間に合って、彼らの姿を見れてよかったよ。」
「それでも…。お付きの方とか、護衛の人はいらっしゃらないんですか?」
彼は頭を振った。かつては大勢の人に囲まれて、部屋から一歩出るだけでも精鋭の護衛が彼の傍に取り巻いていたが、今ではそんな護衛どころか付き人も誰もおらず、侘しさを見せた。
「あの方達ならきっと、衛士の一人や二人くらい付けてくれますよ、貴方一人で旅なんて…。」
返した踵は振り返ることなく、片手をあげて軽く手を振るのみだった。
「駅馬車に特別に乗せてもらえることになっているんだ、時間に遅れないようにって言われていてね。だから、最後にキミにも会えて良かったよ、元気そうな顔を見れて本当に良かった。」
アッシュブロンドの青年はそう言うと、目印代わりか彼の瞳と同じ濃い緑色のリボンが括りつけられた背負い袋を背負い直して進んでいく。
「あの、父の足は良くなったんです。ここに来て、良い治療を受けて、今では杖を付いてはいますけど自分ひとりで歩き回っていますし、簡単な作業なら一人でこなせる位に。」
青年は振り返らない。
「だから、だから他人の世話や面倒を見るのは得意なんですよ、私。貴方がそんなことお出来にならないのは知っています。洗濯も掃除も料理も私が教えてあげますから!畑仕事だってわかります!今度はちゃんと、ヒューゴ様やサマンサ様…小公爵夫妻に話をして、許可を貰って…!」
青年は一瞬立ち止まって、再度軽く片手を振った。そして下ろした手をぐっと握りしめると、彼はまた歩き出した。
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