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02

 明るいベリーブラウンの髪に栗梅茶(赤みがかった茶色)の瞳。

 ゆるくウェーブがついた髪は背中まであり、濃い緑のリボンでハーフアップに纏められている。


 彼女は、数組の親子連れの集団の中で、他の子供たちと談笑していた。その様子をじっと眺めていると彼女はちょこまかと他の子供たちの世話を焼いているのが判る。皿が空になった子には新しい菓子を勧めたり、おしゃべりに夢中な子にお茶を入れなおすよう勧めたり、うっかり食べ物の欠片をテーブルへこぼした子にはナプキンを手早く渡したりと、彼女自身も貴族令嬢であるのに気品を落とさず使用人(メイド)の様でもなく気遣いとそれを品よくこなす姿に興味が湧いた。


 気になって、父上に話そうとした所、王宮の使用人が彼女を含む集団に何かを告げると、彼らは席を立ち、僕が先ほどあいさつした王妃様とアンソニー王子の(会見の間)へと向かっていった。


 僕たちが案内された席に座った後も彼女の事が気になってしまい、きょろきょろとベリーブラウンの髪の少女が戻ってきていないかを探していると父上には「もう少し落ち着きなさい。」と窘められてしまった。ちなみに母上は「お腹が空いているのよきっと。」と使用人に何かを話すと、僕の皿にはローストビーフのサンドイッチがサーブされ、そういえばお腹が空いていたなと食べ始めたら思いのほか美味しくて、ついお替りを頼んでしまったので、「ほらね?」とウィンクする母上に向かってむぅとふくれっ面を晒すしかなかった。


 2皿目のサンドウィッチを食べ終えた頃、王妃様とアンソニー王子が会見の間からこのパーティー会場にやってきて彼らに用意された席の前で


「私の誕生日祝いの為に集まってくれてありがとう、どうか今日は出席者同士気軽に声をかけあってくれ。勿論私にもだ。」


 そういって一礼をし、着席した。


 同い年だけど、礼儀正しくて立派な奴だなあと感心してじいっと眺めていると、アンソニー王子の両隣りの席を陣取っているブライス兄妹に不愉快そうな顔で見られた。確かに人の顔をじっと見つめるのはあまり良くない行為だ。僕は気まずくなってしまい、視線を外して更にローストビーフのサンドイッチのお替りを頼んだ。


「ヒューゴはアンソニー王子に話しかけに行かないのかい?」


 新しく来たサンドイッチに手を伸ばしていると父上が尋ねてきた。気まずい気持ちがまだ残っている僕はチラリと横目で王子の居る方向を見ると、彼に話しかけたい令息令嬢が沢山取り囲んでいた。今向かったら、令息令嬢たちは僕に場所を譲らざるを得ないだろうし、流石に彼らに割り入って話しかけるのも気が引ける。かと言って何も言わないでいるのも礼儀に反するなと思った僕は


パーティー(ここ)から帰る前に一度あいさつします。今はみんなアンソニー王子に話しかけたいだろうし…それに、両隣にブライス令息令嬢がいるから、彼らが話し終えた後の方がアンソニー王子も気を使わなくてよいだろうって思って。」


「なるほどね、ヒューゴは良く見ているな。じゃあ他に話しかけてみたい相手はいるかい?アンソニー殿下がおっしゃられたように気軽に声をかけてみると良い。同い年の令息令嬢が集められているからね、友達とまではいかなくても、気の合う相手が居たらきっと将来の学院生活も楽しいだろう。」


 それを聞いて、さっきの女の子の事を思い浮かべ、3皿目のサンドイッチを食べ終わると父上と一緒に会場内を回ってみることにした。


 北部貴族の知り合いや父上の知り合いの貴族家の令息たちを紹介してもらった後、会場内をきょろきょろと見回していると、例のベリーブラウンの髪の女の子が両親と共に会場中央の様子を伺いながら話をしている姿が見えた。ぎゅっと手を握り締めで胸元に上げたかと思うと、次の瞬間には握りしめた手を下ろしてため息を付いて…それを何度も繰り返して、誰かに話しかけたいのか、頬をそめて勢いをつけてみたりためらったりと逡巡する姿はとてもかわいらしくて、一瞬で見放せなくなってしまった。


 僕は慌てて父上の手を引き、彼女と話してみたいと告げると、すこしだけ困ったように眉根を寄せたがすぐに「いいよ、行っておいで、ただし判っているだろうけど礼儀正しくね?」と言われて送り出された。


 喉元のタイやジャケットの襟がゆがんでいないか確認した後、緊張しながら速足で向かい彼女に話しかけた。


「初めまして、コリンズ公爵家嫡男のヒューゴと申します、レディのお名前をお伺いしでも?」


「紳士様、構いませんわ、わたくし、リンゼイ侯爵家息女サマンサと申します。」


 と、ちょこんとスカートの裾を広げて軽く足を交差し挨拶する彼女の笑顔はとても眩しくて、息が詰まりそうになるほどだった。けれど、なんとかお互いの名前を紹介しあった次の彼女の言葉(セリフ)がこうである。


「ねえ、アンソニー様ってとっても素敵な方ね!」


 両手を胸の前で組んでキラキラとした目でパーティー会場の中央…アンソニー王子が従兄妹であるブライス公爵家の双子兄妹と仲良く話している方向を見ながら元気いっぱいに話す彼女を見て、僕はあえなく失恋したことに気が付いた。そして彼女が輝いていたのは、誰かに恋した喜びが全身からあふれ出していたからだったのだ、と。


 サマンサ嬢はそんな僕の心の中の同様に当然気付かずに話をつづけた。


「でも、アンソニー様の婚約者候補はブライス公爵家の双子兄妹の妹君のガブリエラ様が有力だってみんな言っているわ…。それも当然ね、公爵家のご令嬢なら、王子様にピッタリだもの…。」


 元気をなくして口をすぼめる彼女の姿に僕の心が痛んだ。そのせいか少しつっけんどんな…意地悪な言い方を僕はしてしまった。


「兄のガブリエル令息が傍仕え候補だし、双子でアンソニー王子の婚約者と傍仕えの両方を占める事になるね。」


 つまり重要な役どころを双子…一つの家が独占するのはどうなんだろう?という意味だったが、


「公爵家の方だもの、王家の方をお支えするのは当然の事なのだから、王子様の補佐も妃の仕事もこなせる方々でしょうし…。」


 と僕の言ったことをそのまま受け取ったようで、さらにしょぼくれる彼女。彼女は真面目過ぎる、いや優しすぎると言った方が良いのだろうか、サマンサ嬢の事をもっともっと興味が湧いてしまったが、彼女の心を動かしたのはアンソニー王子であるという事に、僕は改めて落ち込んでしまった。もし、まだ彼女が誰のことも好きではなかったのなら…。


 ズキズキと痛む胸を宥めながら、なんとか笑顔を取り繕い、王宮の料理人が腕によりをかけて作った美味しそうなケーキや滅多に解放されない庭園を二人…これは両親などの大人が居ないだけで、付き人や護衛付きで見学した後、そろそろ良い時間だったがブライス兄妹がまだアンソニー王子の元にいたので、王宮の使用人に頼んで帰る前に挨拶がしたいとアンソニー王子に伝えるように頼むと、いつの間にか兄妹は消えていて、サマンサ嬢には僕がアンソニー王子に挨拶に行った後にすぐ行けば二人で話せるよといって彼女の恋を後押しした。


 そしてアンソニー王子にパーティーから辞する挨拶をした後、僕に感謝の言葉を述べてアンソニー王子の所へ向かうサマンサ嬢を見送った。



 僕は泣きそうな気持で逃げるように帰った。逃げ帰った。アンソニー王子に冷静に挨拶をしてから帰った僕を誰か褒めて欲しい位だ!



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