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「今日もアンソニー殿下は、あの平民の女生徒を連れてお出かけになられましてよ?」
学院も二年目に入ってからそれなりに経つが、相変わらず…以前よりも頻繁にお使いに出されるようになってしまっていた。
頻繁なマイア嬢とのお出かけに良い顔をしない僕は、今日も今日とて、とある講師への書類提出をアンソニー殿下に頼まれ、まだ日も高く天気が良かったこともあって、気まぐれに遠回りして中庭を歩いているとどこかで聞いたことのあるような令嬢の声が聞こえてきた。
「ガブリエラ様のおっしゃる通り、サマンサ様に伝えないと!」
「ガブリエル様によると、講師の方に明日の授業の準備の手伝いを頼まれたとかで教職員室にいらっしゃるそうよ!」
「きっとガブリエル様による足止めね、講師の方もお気の毒。」
と聞き捨てならない事を話しながら、その声の主たちは教職員室へ足早に向かっていった。声に聞き覚えがあるのも当然で、入学式でマイア嬢に制服を汚された令嬢達…つまり将来の侍女や補佐官候補としてサマンサ嬢主催の王宮のお茶会に出席している令嬢達だった。
僕は嫌な予感がしてこっそりと彼女達の後をつけると、その先には彼女達が話していた通り、職員室で講師の作業を手伝いの一環なのか、なにやら冊子の作成…恐らく生徒の人数分の…を行っているサマンサ嬢の姿があった。
気付かれないように、いくつかある大きな柱の陰に隠れて中の様子を伺うと
「サマンサ様!マイア嬢を何とかしてくださいませんか!」
「今日も殿下ばかりではなく、側近候補の方々まで引き連れて、授業が終わったばかりとは言え、課外活動もせずに真っ先に街へ向かわれましたの!」
「王宮の専用馬車ではないとはいえ、殿下の馬車に乗って移動なんて、他の生徒たちに示しが付かないのではないですか!」
紙類を束ね冊子を作っている最中のサマンサ嬢に向かって令嬢たちが我慢ならない!とばかりに詰めよっていた。
「皆さん、落ち着いてくださいな。本日の授業は終わっておりますから、学院の規則に反するような行動でない限りいたずらに取り締まるようなことは出来ませんわ。」
束ねた冊子や作成途中の紙類を一旦脇へ片付けると、サマンサ嬢は令嬢たちに宥める様に丁寧に話しかけている。
「サマンサ様、授業後すぐに遊び惚けるような、それを助長するような生徒は学院の規律に抵触しているのではないでしょうか?」
「このままでは真面目に活動している生徒からすれば、アンソニー殿下があのような平民の女生徒にたぶらかされている、そんな様子を目の当たりにさせられて、気勢をそがれてしまいます!」
宥めようとするサマンサ嬢に対して令嬢達はさらに詰め寄り声を上げる。その横で作業をしている講師は彼女達の勢いに気迫負けしたのか、茫然とした顔で作業する手が止まっている。
「もうサマンサ様しか頼れるお方はいないのです。アンソニー殿下が率先して学業を疎かにしているかのようななさりように、どなたがお諫めできるのでしょう?」
「側近筆頭と定評がおありだったヒューゴ様ですら、マイア嬢の事を諫言なさった途端にアンソニー殿下から不興を買って遠ざけられたとか。」
「お気に入りの方と親しくしたいのは判りますが、実態は特定の平民の方ばかり依怙贔屓するような状況てすもの、ずっと王家を支えてきた我ら貴族をないがしろにされている様で……。」
「もう私たちのような貴族にとってサマンサ様しか頼れるお方はいらっしゃらないのです!」
思わぬ形で自分の名前が上がり、心臓の鼓動が跳ね上がって思わず声を出しかけたが、すんでのところでその声を飲みこむことに成功し、大きく冷や汗をかいてしまった。それで焦っている間に彼女達はもう泣き落としにかかっていた。
強引な論調とは言え彼女達の言い分には判らなくもないところがあるのは確かだ。だからかサマンサ嬢は困り顔のまま
「そうですね…わかりましたわ、近々アンソニー殿下に進言してみますわね。」
困惑しながらも穏やかに答えていた。すると令嬢達は口々に声を弾ませ始めた。
「ありがとうございますサマンサ様!」
「やはりサマンサ様は頼りになりますね!」
「ええ、本当に流石です、サマンサ様にご相談した甲斐があります!」
「…ンッ、ゴホン、君たち、話は落ち着いたかね?」
話が落ち着いたと思ったのか、つい先ほどまで呆気にとられていた講師がそう言うと、決まりが悪そうな顔をしながら令嬢たちは黙った。
彼女らの様子に軽くため息を吐いた講師は続けてサマンサ嬢に向き直った。
「サマンサ嬢、必要な冊子の数は残りわずかだから、後は自分がやる事にするよ、手伝ってくれてありがとう。帰ってくれて構わないよ。」
「お役に立てて光栄ですわ、先生。そしてお騒がせ致しました。では私、これにて失礼致しますわ。」
とサマンサ嬢は軽く礼をして教職員室から退室し去って行った。
それを令嬢達は笑顔で見送っていた。だがしかし、廊下を歩むサマンサ嬢の後ろ姿が見えなくなると、ほっとしたのか気を緩めた顔で話し出した。
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