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「まったく、昨日の今日でまたこんなことをするとは!」


 僕は食堂に向かうアンソニー殿下に付き従いながら、彼の憤りを聞かされていた。


 授業が終わり皆が帰り支度をしていた際、サマンサ嬢がマイア嬢に「話を聞きたい。」と言って食堂のテラス席へ連れて行ったというのだ。マイア嬢と同じ教室で学ぶ側近候補の一人からそのことを聞いたアンソニー殿下は僕たち専用の談話室から飛び出し、僕はその後を慌てて追いかけていた。


 食堂に着くと、流石にテラス席にまで野次馬をしに行くものはいなかったようだが、テラス席の見えるあたりに何人かが集まっているのが見えた。


 その人だかりを殿下と共にかき分けて向かった先には、皆が遠慮したのか数あるテラス席にはサマンサ嬢とマイア嬢が対面で座っている一卓(テーブル)以外には誰もおらず、その一卓(テーブル)で何事かを話しているサマンサ嬢と俯いて涙ぐんでいるマイア嬢の姿があった。


 何かを話しかけたサマンサ嬢は手を伸ばして、マイア嬢が俯きながら握りしめている手に触れようとしたその時。


「何をしているんだサマンサ嬢!こんなところで暴力を振るうとは!」


 僕の隣にいるアンソニー殿下が大声をあげてそれを制した。


「アンソニー殿下…?」


「ト、トニー?」


 二人とも驚いた顔でこちらを…アンソニー殿下の方を向いた。


「あの、私はただ…マイア様の状況(こと)についてお聞きさせて頂いていたのですわ。」


「違うの、これは。私が勝手に泣いちゃって…。」


「違うも何も、快活で明るいマイアが涙ぐむほどの事をサマンサ嬢は言った、それに違いはあるまい!」


「その、それは。」


「違うっていうか、その、違くて、サマンサ様が悪いわけじゃなくて…。」


 サマンサ嬢もマイア嬢もお互い言い淀み、アンソニー殿下から目をそらすと顔を俯かせた。


「ほらな、違いはないのだろう?」


 アンソニー殿下はそう得心し、サマンサ嬢へ向き直っていった。


「サマンサ嬢よ、いくら私の婚約者とはいえ、その立場を笠に着て、このように平民への甚振りや躊躇なく暴力をふるおうとするその態度は目に余る、少なくとも私との茶会(定期の交流)は中止だ。しばらく反省するがいい!」


 そしてマイア嬢を立たせ、けがなどは無いかを確認するとマイア嬢の肩を抱いてテラス席から去っていった。取り残されたサマンサ嬢は愕然とした表情で放心し、今にも泣きだしそうな状態だった。


 少し離れた食堂にいる野次馬たちは殿下が来たことでより一層、見物人が増えており、このまま彼女をここに残しておくわけにはいかない。


「サマンサ嬢、大丈夫…ではないかもしれないけど、一旦この場を離れませんか?」


「ヒューゴ様…。そう、そう…ですわね。」


 流石に食堂に戻るわけにもいかなかったので、テラス席と校庭を繋ぐ別の出口(通り道)から去ることにした。


 何を話しかけて良いかも判らず、おそらくサマンサ嬢もショックで言葉が出てこないのであろう僕たちはだた黙ったまま、どこに向かえばいいか目的地も決めかねたまま学院の敷地内をただ歩いていた。


 連れ出したはいいもののどこに向かうか悩みながら歩いていると、後ろからついて来ていたサマンサ嬢が辺りを見渡し誰もいないことを確認すると、恐る恐る僕に話し出した。


「あの、出来る限り内密で、ヒューゴ様を見込んでのお願いがありますわ…。こんなことを私が言うなんてと思われるかもしれませんけれど…。」


「うん?どうしたんだい?」


「マイア様のご両親はどちらにおいでなのかしら、と…。」


「マイア嬢の両親?」


「はい、詳しい事は判らないのですけれど、先ほどマイア様と話をさせていただきましたわ。その際に思わずご両親が気にかかると言った事を話されましたの。何でも随分前にお怪我なされたとか。ですからマイア様に『いっそアンソニー殿下にご相談しましょう?』と言っていたところ、殿下がいらして、その…もう、アンソニー殿下に私の話は聞いていただけないでしょうから…。」


 サマンサ嬢は寂しげに言うと、


「ここからは馬車の待機所も近いですし、私はこのまま帰宅することにしますわ。ご配慮ありがとうございます。」


 と礼をして、校舎とは反対側にある馬車の待機場所のある方へ体を向けた。


「あ、ああ、あまり役に立てなくてごめん。」


 と右手を振ると、以前サマンサ嬢から強引に貰ったムクロジのブレスレットが袖から顔を覗かせた。


「ふふ、着けて下さっているんですね、ありがとうございます。」


 泣き笑いのような、少し困ったような悲し気な複雑な笑顔でサマンサ嬢はその場を後にした。彼女の後姿を見送りながら先ほど尋ねられたこと…マイア嬢の両親の居場所について考えてみた。


「マイア嬢の両親?そりゃあ地元にいるんじゃないのか?アンソニー殿下がお忍びの旅で滞在したのは確かニアポートという街のはず…。港に近くて街道を繋ぐちょっとした交易都市だ。そう、王都とブライス公爵家の領地を繋ぐ街道のブライス公爵家の領地の手前にある街で…。」


 僕は嫌な予感がしたと同時に、誰にも言ってはいけないこどだと理解した。まだ日が高いというのになぜか肌寒く感じた。


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