01
初恋は実らないって言うけれど、僕の場合は初恋を自覚する前に失恋した。
「ねえヒューゴ様、アンソニー殿下って素敵な方ね!」
その瞬間、僕の淡い初恋は言葉にすることも出来ずに終わった…。
ここはバルチェスター王国、縦長の台形を湾曲させたような…強いて言えば洋梨のような形をしていて、その右側の下半分が大陸の中央諸国と接している。元々ば北部、東部(中央)、南西部で其々の諸侯が立っていたが数百年前に起こった大陸中央諸国との争いの際、今の王家であるボールドウィン家の青年がこの地を纏めたことが、このバルチェスター王国の始まりである、
そのボールドウィン家単語には今年10歳になる第一子アンソニー王子がいらっしゃり、彼の為に誕生日祝い兼将来の側近候補選び兼婚約者選びの顔合わせ会が開かれることになった。アンソニー王子の付き添いとして6年前に第二子の弟殿下を出産されてから体調を崩したため、公務を控えている王妃殿下が久しぶりに貴族たちの前にいらっしゃるという事もあって、アンソニー王子と近い年の子供を持つ貴族家の殆どが参加するそうだ。
僕…コリンズ公爵家嫡男ヒューゴも彼と同じ年なので、その顔合わせ会に参加するために両親であるコリンズ公爵夫妻と共に王宮へやってきた。なのでこうやってバルチェスター王国の歴史を学びなおしているところである。
僕の家のコリンズ公爵家はバルチェスター王国が成立してからしばらくたったころ、北部の中でも豪族だった先祖が北部諸侯をまとめ上げ、洋梨の上部の中央右下にある都市アディンバラから、東に向けて大規模な運河を建築した。もちろん何も無い所から作ったのではなく、元々船艇(約20-30人乗りのボート)なら航行可能な河川を利用して川幅や川底。そして曳舟道を整備した。その功績によってボールドウィン王家から姫君を迎え、公爵の爵位を得たのだ。後にアディンバラから西へ向けて街道を築き、アディンバラはバルチェスター王国北部の交易の中心地として栄え、現在に至るという訳だ。
ちなみによく聞かれることとしては、運河自体はアディンバラまでで、曳舟道はアディンバラを通じて街道として東西につながっている。その為、僕の高祖父が曳舟道や街道をさらに拡張し、当時王国南西部で利用され始めた駅馬車とその運用方法を導入し曳舟道でも運河に劣らないくらいの移動・輸送手段を確立させたのだ。その結果当時の姫君が高祖父の元に降嫁し、その二人の息子である曾祖父がアディンバラから王都まで駅馬車を利用可能な街道を引き、その街道を使って僕と両親はアディンバラにある領地屋敷から王都にやってきたのだ。
「ヒューゴ、準備はいいかい?」
コリンズ公爵が、王宮の控室で姿見とにらめっこしている僕の様子を伺いに来た、
鏡に映った僕と同じグレーがかったブロンドを親子そろって短くまとめ、父上は砂のような薄茶の瞳、僕は冬のモミの木の葉っぱのような濃い緑で母上と同じ瞳の色である。
「はい、父上。準備は万端です!」
本当は首元のタイが少し収まりが悪い気がして、さっきからいじっているけれど、どうしてもうまくいかないのであきらめたところだ。
「タイが少しずれているね、ほら、こっちにおいで。」
父上の元に向かうと、膝を落として手早くタイを結びなおしてくれて、さっきまで収まりが悪かったタイはバランスよく僕の首元に収まっていた。
「ありがとうございます、父上。」
「どういたしまして。これからパーティー会場に向かうけれど、無理はしなくていいからね?」
「僕の名前を覚えてもらうようにすればいい、ですよね?」
「ああ、16歳になればこの王都の学院に2年通う事になるから、それまでに顔見知りや親しい人を作れると良いのだが…。」
「仲良くなれる人が居たらいいなあ。」
僕はそう答えた後、やや緊張しながら父上に連れられて控室から会場である庭園へ向かった。
庭園の一角には天幕で仕切られた会見の間のような場所があり、そこには母上と王妃様と今日のパーティーの主役であるアンソニー王子が居て、僕たちがやってきたのを見つけると手を振って呼び寄せた。
王妃様と母上はお互いの祖母が姉妹だからか、父上以外…つまり王妃様とアンソニー王子に母上と僕は多少の濃淡はあれど濃い緑色の瞳だ。同じ緑の瞳と言えどアッシュブロンドとグレーブロンドでは雰囲気がまるで違っていて、彼の方が短く刈り上げた髪形をしているせいか、活発で力強くて僕からはとても眩しく思えた。
父上と共に王妃様とアンソニー王子への挨拶を済ませると、
「これからもコリンズ公爵家の献身を期待します。そしてアンソニーの事をよろしくね。」
「ヒューゴは私と同じ年なのだろう?学院では一緒だな。これからも頼んだぞ!」
と王妃様とアンソニー王子に激励を貰い、両親と共にその場を辞して庭園のパーティー会場の席へ向かおうとした時、ホワイトブロンドの髪にマンダリンオレンジ色の瞳をもった僕と同い年位のそっくりな兄妹がアッシュブロンドの髪にオレンジ色の瞳をした婦人と共に入れ違いで王妃様とアンソニー王子の元へ向かっていった。少年の方は長めの前髪を緩く左に流して纏め、少女の方は前髪を全て上げたポンパドゥールスタイルのロングヘアでキラキラと輝く細工のピンをバッテン印の様に髪のあちこちにちりばめている。
僕たちは軽く礼をして彼らが通り過ぎるのを待っていたので、僕たちを気にも留めずに通り過ぎていった彼らを見送った後で、その疑問を父上に話すと、
「さっき通っていったのはブライス公爵夫人とその双子の兄妹でガブリエル令息とガブリエラ令嬢だ。ブライス公爵は判るかい?この国の南西部を纏める…北部にとってのコリンズ公爵家の様に…公爵家の当主夫人とその御子達だ。夫人はブライス公爵家に降嫁なさった元王女殿下だから、爵位としては同格だけれど敬意を払ってウチが一歩引いているんだ。特に今日のパーティーでは王妃殿下の体調がすぐれない様なら、叔母にあたるブライス公爵夫人がアンソニー殿下の付き添いをされただろうからね。」
「じゃあ、公爵家同士で位が同じという訳ではないのですか?」
「どちらが上という訳ではないんだけど、意地の張り合いを起こすわけにはいかないからね。こういう時…特に王宮内や国の行事等ではより王家の血に近い方を慮るのが慣習だね。何らかの規則などで決まっている事では無いけれど。」
「じゃあ、そうじゃないとき、王宮外ならどうなるんですか?」
「それぞれの領地やその周辺域だと、その地方の盟主たる公爵に敬意を払ってその地を治める公爵が優先される。例えばブライス公爵家が治める西南地方…特に領地屋敷のある都市カーディフィーではブライス公爵家が慮られて、北部地方ではコリンズ公爵家が慮られることになる。」
「うーん、王都に来たからには、こういった貴族間の機微を学ぶ機会も増やさないとな…。」
続けてそう言った父上は顎に手を当てて少し考え込みながら呟いた。
僕は余計な事を言ってしまったと肩をすくめた時、一人の少女の姿が目に付いた。
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