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第6話 販売させてはいけない男

作者は厨二病をこじらせることがあります。

その際には妙なルビを打ちますが、お許しくださいませ(`・ω・´)

三つ目の課題――

ギルド街の商店のうち、50軒の手伝いをして回ること。

今回は、ルナークがルイと同行して、一軒一軒、顔合わせをして回った。


『たまにはすべてのお店を回って、雰囲気(ふんいき)を見ておかなくては。』

さびれているとか、逆に不自然に繁盛はんじょうしているとか。』

『人種のるつぼである冒険者ギルド街。思わぬ変化があるものですから。』


などなど、道中でルナークは同行の意図を伝えていた。


三つ目の課題の初日は、ルナークがルイを紹介して回る形で終わった。

初対面の相手との気遣いで気を張っていたのか。

解散する頃には、ルイはルナークと比べてひどく疲れた様子だった。


そして、二日目――

「期限は設けません。50軒、好みで構いませんのでお手伝いしてくださいね。」

ルイは、そう言われてギルド街に放り出された。


――しかし、ルイにとってこの課題は難しいものではなかった。

破門されたとはいえ、五芒星ごぼうせい教団の司祭だった。

布教うりこみには慣れていた――入信率せいやくりつはともかくとして。


武器屋、防具屋、それから薬屋――いわゆる冒険者御用達(ごようたし)の店。

この種の商店は複数あり、ルイはそのすべてを手伝った。

それぞれの店の仕事ぶり、商品の内訳、などを観察するためだった。


敬虔けいけんな五芒星教団の司祭だったルイは、自分の無知に慎重だった。

それは、神性への畏敬(いけい)を叩きこまれた副産物だった。

勢いと思い余って破門されたわけだが――ともかく、作業そのものはさばけた。


しかし人には、向き不向きというものがある。

ある武器屋にて――

ルイは、受付台で接客をしていた。


「この長剣、安くしてくれないかな?」

冒険者と思われる金髪の青年が、受付に立つルイに値切りを要求してきた。

いたずら心だったのかもしれない。


「お断りします。」

「へ?」

ルイがあまりにもはっきりと言い切るので、冒険者は間の抜けた声を出した。


ルイは、息をゆっくりと吸って、言った。

「まずこの剣、見事に左右対称な両刃りょうばの剣です。」

「……ん?」


それから、ルイは頭を振った。

「確かに、ボクは剣を得物えものとはしていません。」


ルイは一息置いて、続けた。

「しかし、持ちやすさくらいはわかります。」


宣言通り、まるで様にならないものではあったが――

見た目だけ、剣を構える風に装いながら、ルイは言った。

「極力、均一(きんいつ)な材質で、丹念(たんねん)かつ精密せいみつきたえられているのでしょう。」


それから、剣の刻印(こくいん)を見せつけながら言う。

「そして、刻印もまた見事に対称性を持たせています。」


ルイは、どこかうっとりしながら続けた。

「魔力伝導の損失を低減し、活動時間を少しは延ばしてくれるでしょう。」

「お、おぅ……」


冒険者が言葉を失うが、ルイは続けた。

「正直なところ、ボクが店主であれば、この倍額はいただきたいところです。」


それから、ルイは首をかしげた。

「――いったい、どのようにして融通(ゆうずう)を利かせているのか、本当に興味深い。」

「わ、わかったよ……ちゃんと払うから……」


金髪の青年は、おずおずと銀貨を取り出して、差し出した。

「お買い上げ、ありがとうございます。」

ルイは、銀貨を受け取りながらニッコリと笑った。


その後も、ルイは手伝いのために店を回った。

しかし、この武器屋以降、ルイが接客を任されることはなかった。


武器屋だけではない。

防具屋や薬屋、それからその他の道具屋も。

果ては、飲食店から雑貨屋まで。


冒険者ギルド街の情報が回るのも早い。

その武器屋での一件は、早々(そうそう)にギルド街の各店舗に伝わった。

そして、ルイは決して販売を任せてはいけない人物と見なされた。


その結果、ルイの仕事は、力仕事や雑用など裏方仕事が主になった。

時には、目を引くためだけの「置物」に。

まれに、販売をしない「喋り相手」としての仕事が与えられた。


初日を除いて、十日かけてルイはギルド街の商店50軒の手伝いを終えた。


「どうやら、ルイくんは販売させてはいけない人として、認定されたようです。」

「なんでっ!?」

ギルドの受付でルナークが苦笑すると、ルイは悲鳴を上げた。


ルナークは肩をすくめた。

「販売者の資質はありますが、ある種の才能がいちじるしく欠乏していますから。」

「なにそれ……」


ルイがジト目でルナークを見ると、ルナークは頭を振った。

「お客さんの価値観を思いはかる姿勢ですね、端的たんてきに言えば。」

「うぅぅ……」


ルイが頭を抱えると、ルナークは苦笑した。

「まあ、ルイくんがギルド職員になる場合は、営業をお願いしますね。しっかりと依頼料をいただけそうですから。」

「あ、あのねえ……」


ルイはこめかみを押さえた。

それから、ため息を一つつくと、言った。

「――それでも、仕事の価値は正当に評価されるべきだと思う。」


その言葉に、ルナークは微笑した。

「ええ。同感です。しかし、その仕事を必要としている人のすべてが正当に価値を評価できるとは限りません。」

「うっ……」


ルイが言葉を失うと、ルナークは肩をすくめた。

「しかし、正当に評価できなくても、それを必要とするのであれば――受け取れるくらいの価格設定ではあってもいいのかもしれませんね。」


それから、一息置いて、再びルイに微笑を向けた。

「いずれにせよ、お疲れ様でした。これで、すべての課題は終了です。」

ルイは発症しましたが、これでもだいぶ自重しています。

これで、冒険者としての前線から退しりぞいても、しれっとギルドの営業係になっているかもしれません(`・ω・´)


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