第5話 薬草千本、ギルドに納品
しれっと「銃弾」という単語が出てきますが――
典型的なファンタジー武器だけではなく、銃火器もあることはあります。
ルイのまわりで出てくるかは、今のところ不明ですが(`・ω・´)
ルイがスライム討伐を終えたその三日後――
ギルドの受付台には、約100本の薬草が三つの束に分けて置かれていた。
ルイは、受付台に縋りながら、しゃがみ込んでいた。
「ルイ~?生きてるかい?」
受付台ごしに、リックが呑気に声をかけた。
「生きてるよ……死ぬかと思ったけど。もう、何回も。」
リックを見上げる力もわかないのか、ルイはしゃがみ込んだままで答えた。
そんなルイに、リックはケラケラと笑いながら言った。
「アハハ!仕方ないさ。冒険者の採取なんてそういうものだから。」
「いや、もっとましな採取場所、あったよねっ!?」
ようやく立ち上がって、しかし悲鳴を上げるルイに、リックは首をかしげた。
「昨日と一昨日で、一緒に十か所くらい回っただろ?」
「全部、結構な魔物の縄張りだったんだけど!?」
ルイはなおも声を張り上げるが、リックは肩をすくめた。
「いや、ルイならそれなりに戦えそうな場所を選んだつもりだよ?」
「それ、討伐に専念できる場合の話だよね……」
声を上げるのに疲れてきたのか、ルイはジト目でリックを見た。
しかし、リックは肩をすくめて言った。
「昨日までの段階で、集中力を保っていればよかったんだけどね。」
ルイはため息をついた。
「はぁ……どうせ、難癖付けられて、やり直しなんでしょ?」
すると、薬草の確認を終えたルナークが、悪びれもせずに言った。
「おやおや、わかってきましたね、ルイくん。」
「やっぱり!?」
ルナークの言葉を受けたルイは、再び悲鳴を上げた。
すると、ルナークは頭を振った。
「いえ、今回は事実、薬草ですらないものが混ざっていました。」
「ぐぐぐ……」
淡々と言い切ったルナークに、ルイが歯ぎしりする。
それから、ルナークはニヤリと笑って、言った。
「もちろん、品質に問題がなくても難癖は付けますが。」
「やっぱり、難癖をつけるんだね……」
ルイが口を尖らせると、ルナークは肩をすくめた。
「リックくんの護衛があって採取できても、意味がありませんから。」
「……まあ、採取に専念できると思うな――ってことは痛感したよ。」
ルイが諦め気味にそう返すと、ルナークは苦笑した。
「そういうことです。間違った成功体験ほど性質の悪いものはありませんから。」
「……もうちょっと、気持ちよくしてくれてもいいんだよ?」
ジト目を向けるルイに、ルナークは肩をすくめた。
「あいにくと、銃弾にすらならないヘタレは無駄死ににしかなりませんので。」
「なんてこと言うのさ……」
絶句するルイに、ルナークは構わずに続けた。
「きみは合格ですよ。薬草採取で音を上げて冒険者を諦める人もいますから。」
「それはそうだろうねっ!?」
再び悲鳴を上げ始めたルイに、ルナークは頭を振った。
「冗談ではなく、ギルドの名の下で、無駄に死なれては士気にかかわります。」
「そうですか……」
ルイが何かを諦めたのか敬語になると、ルナークは苦笑した。
「体制が縦ならば、冒険者は横です。従って、冒険者の組織であるギルドは、それ自体が強靭でなければ話になりません。」
「……ま、だったら、ボクは幸運だと思うべきなんだろうね。」
ルイが肩をすくめた。
ルナークはうなずくと、隣のクラリスに三つの薬草袋を渡した。
「クラリスさん、こちら、キリル先生に届けてやってください。」
「わかったわ。」
クラリスが薬草袋を手に席を立ち、ギルドの奥へと消えていった。
その様子を見ながら、ルイは首をかしげた。
「キリル先生……って、誰?」
ルイの問いに、ルナークはうなずいて答えた。
「このギルドのお抱えの薬師ですよ。」
「えっ……意外なんだけど。」
ルイがそう言うと、ルナークは苦笑した。
「ええ。それを先入観と断じるつもりはありませんよ。――それはそれとして。」
ルナークは引き出しから、大小含めて6枚の銀貨を取り出した。
そして、それをルイに手渡した。
「はい、今回の報酬です。」
銀貨を受け取って、ルイはうなずいた。
「少し、多いのかな?」
「ええ。ギルドへの貢献度では、スライム討伐よりはこちらの方が高いので。」
ルナークがそう言うと、ルイは首をかしげた。
「どういう内訳?」
「いいですね。価値の基準を知ろうとする姿勢はさすがと言うべきですか。」
ルイは黙って苦笑するが、ルナークは続けた。
「十か所を指定したのは、野生の薬草の成分の地域差を調査するためです。」
「え?そうだとすると、一か所100本くらいで大丈夫なの?」
ルイがそう返すと、ルナークは苦笑した。
「これまでも地道にやっていて、分析結果は貯まっていますから。」
「……なるほど、余計な心配だったね。」
ルイが肩をすくめると、ルナークは微笑した。
「いえ、統計を踏まえて意味を考える、いい発言です。」
「それで、ボクはあちこち走り回らされたから、その分ってことね……」
ルイがジト目でルナークを見ると、ルナークはニヤリと笑った。
「そういうことです。」
「その割には報われない気がするけどなぁ……」
ルイがそう言うと、ルナークはニッコリと笑った。
「きみの苦労と、しょせんは薬草採取だということは別ですから。」
「ちぇっ。」
ルイは彼の信仰が絡まなければ、いい子なのかもしれません。
ただ、信仰が絡むとプロローグみたいなことになります(`・ω・´)