第4話 スライム討伐完了
しれっと、「刻印」とかいうキーワードが出てきますが……
多分、ルイの物語では掘り下げることはないと思っています。
ただ、いわゆる魔力付与の類とは似て非なるもので考えています(`・ω・´)
ルイのスライム討伐、三日目の朝――
「おはよう。リック君。」
「おはよう。ルイ。」
ギルドの入り口で、ルイとリックは互いに挨拶を交わした。
そして、リックはルイの表情を見て、微かに口元をつりあげて言った。
「思ったよりも、立ち直りが早いね?」
ルイは肩をすくめた。
「びっくりしたけどね。でも、あれくらいで意気消沈すると思うの?」
「それは頼もしいね。期待してるよ。」
リックも肩をすくめて応えると、続けて言った。
「ところで、武器はまだ使えそうかな?」
「そうだね。刻印はまだ劣化してないから、大丈夫だよ。」
ルイがそう答えると、リックはうなずいた。
「それはよかった――武器の手入れの説明が省けて助かるよ。」
「これでも僧兵だったからね。」
ルイが苦笑すると、リックは苦笑した。
「まあ、スライムを千体も討伐させてると、いろいろあるんだよ。」
「へえ?」
相槌を打つルイに、リックはうなずいた。
「例えば、力を入れすぎて、刻印を無駄に劣化させる新人とか。」
「あぁ……それはボクもわかる。」
ゆっくりとうなずくルイに、リックは続けた。
「それから、そもそも刻印自体が粗悪な場合もあるね。」
「そうなんだ?」
ルイが首をかしげると、リックはうなずいた。
「誰もが、準備万端で冒険者ギルドに来るわけじゃないってことさ。」
「なるほどね……」
うなずくルイに、リックは言った。
「それじゃあ、今日もスライム討伐、頑張ろうか。」
「了解。――ま、今日で終わりにするけどね。」
* * * * *
朝の宣言通りに、ルイは危なげなくスライムの討伐を終えた。
二日目の苦い経験は、しっかりとルイの血肉になっていた。
柄を短く持って繰り出す槍術による討伐速度と、確実に止めを刺す抜け目なさとが見事に両立していた。
――そして、夕方に差し掛かる前には、ギルドの受付の前に立って報告していた。
「スライム討伐、終わったから報告に来たよ。」
「ええ、ご苦労様です。」
ルナークは、ルイの報告に微笑してうなずいた。
それから、大小合わせて銀貨を5枚差し出した。
「これは?」
ルイがたずねると、ルナークは言った。
「もちろん、報酬です。」
「ただ働きじゃなかったの?」
ルイが首をかしげると、ルナークは頭を振った。
「ギルドが世の中に対してただ働きであることと、ルイくんがギルドに対してただ働きであることとは別ですよ。」
「なるほどね。」
ルイがなんとなくうなずくと、ルナークは苦笑した。
「今の課題は、ギルドが拘束していますから。武具の手入れのための費用や宿泊費くらいは織り込んでいますよ。もちろん、相場の範囲内で。」
「ずいぶんと手厚いんだね。」
ルイがそう言うと、ルナークは頭を振った。
「こちらから課題を出しておいて、すべて自己負担では筋が通りませんから。」
「もう少し、横暴だと思ってたんだけどね。」
ルイが苦笑すると、ルナークは肩をすくめた。
「それでは、ついでに魔法の封印解除もしておきましょうか。」
「誰が解除するの?」
首をかしげたルイに、ルナークはキョトンとして言った。
「もちろん、ぼくですが?」
「……え?」
ルイが固まった。
その様子に、ルナークは苦笑した。
「解除できない封印など、こんなところでしませんよ。」
それから、ルナークはルイを手招きした。
「はい、解除しますよ。もう少し頭をぼくの手に近づけてくださいね。」
「うぅ……」
ルナークの手に頭を近づけたルイは、恐る恐る目を閉じた。
ルナークは苦笑しながら、ルイの頭に手をかざした。
「さて、例によって詠唱は省略――『解呪の聖光』。」
ルナークの手のひらから、青い光がルイに降り注ぐ。
光が止むと、ルイは目を恐る恐る開けた。
「も、もう終わったよね……?」
ルイのその様子に、ルナークを含めた受付の三人は微笑した。
そして、ルナークがうなずいた。
「ええ、終わりましたよ。」
ルナークのその言葉に、ルイはほっと胸を撫でおろした。
それから、誰にともなく尋ねた。
「……ねえ、キミたち、どうして受付やってるの?」
すると、ルナークは肩をすくめた。
「それはもちろん、受付だけに、いろいろと対処できた方がいいですから。」
「……そういう水準じゃないよね?」
ルイがジト目でルナークを見ると、ルナークは苦笑した。
「きみが考える最適配置が、冒険者ギルドにおけるそれと同じではない。それだけですよ。」
「納得いかないなぁ……」
ルイが食い下がると、ルナークは頭を振った。
「英雄譚でも、想起しているのかもしれませんが――」
ルナークは、そこで一息ついて、それから続けた。
「英雄が必要な異常事態でもない限り、一人の英雄よりも十人の傑物です。」
「それはそうだけどさ……」
ルイが口を尖らせつつも言葉を継げずにいると、ルナークは言った。
「冒険者でも、組合の成員が増えれば世話役は必要です。つまり、ぼくがたまたま小回りの利く人材だったというだけのことです。」
「うーん……」
ルイが、まだ納得しきれない様子でいると、ルナークは肩をすくめた。
「まぁ、それはそれとして、今日は休んではどうですか?――明日からの薬草採取は、少しばかり苦労するでしょうから。」
ルナークの言葉に、ルイはジト目で言った。
「うん、お気遣いと余計なひと言、ありがとう。」
冒険者に焦点を当ててはいますが……
それが英雄譚になるかどうかは、彼ら次第でございますな(`・ω・´)