第3話 ただいま、スライム討伐中
本作では「ギルド」は字義通りの「同業者組合」です。
そのため、受付だろうがなんだろうが、冒険者としての心得・力量は一定以上あります(`・ω・´)
ルイがスライム討伐を始めて二日目――
リックに引率された先の森で、柄を短く持って槍を振り回していた。
一日目、ルイはスライムを百体ほど討伐していた。
討伐目標である千体の10分の1。
その理由は、ルイの腰が引けていた点にあった。
柄を長く持って構えて、狙いをつけて、踏み込んで、核を正確に貫いて、引く。
これを愚直に繰り返せば、安全に討伐ができた。
しかし同時に、一日で百体とは言え、十日、これを繰り返せるだろうか。
スライムの動きは鈍い。
それを踏まえた結果としての、討伐の時間効率向上の策だった。
平たく言えば、小慣れてきた結果、間合いが狭まった。
「頑張れ~。応援してるよ~」
言葉のわりには、まるで熱がこもっていないリックの声が飛ぶ。
しかし、ルイは聞こえないふりをして、自分の討伐行動に集中した。
斬撃を主体にしながら、距離により刺突、体勢により石突きでの殴打――
的確にスライムの核を破壊しながら、ルイは呟いた。
「……黒魔法を使えたら、もっと早く討伐できるのに……」
* * * * *
時間は少しだけ遡り、ギルドの受付にて――
ルナークがルイにたずねた。
「ところで、ルイくんは魔法を扱えますか?」
ルイは反射的に答えた。
「あ、うん。黒魔法が少し。」
「なるほど、中級魔法は使えますか?」
ルナークの問いに、ルイは頭を振った。
「いやぁ……そこまでは使えないよ。下級魔法ならある程度は、ってところ。」
「なるほど、それは困りましたね。」
ルナークがそう言うと、ルイは首をかしげた。
「どうして?」
「下級魔法とはいえ、スライムが相手ならば、広域に作用する魔法であれ抵抗なく通ります。――それは都合が悪い。」
そして、ルナークはルイに手をかざした。
「失礼。」
「??」
ルイは、首をかしげていた。
「詠唱は省略しますね――『焦魔の雷』。」
ルナークの手のひらから閃光が迸った。
ルイは思わず目を閉じた。
その後、恐る恐る目を開けて、ルナークに食ってかかった。
「何するのさ!?」
ルナークは肩をすくめて微笑した。
「魔法をしばらく封じただけです。解除しなければ数日は使えませんが、スライム討伐を終えれば解除しますよ。」
ルナークがそう言うと、ルイはジト目で言った。
「なんで魔法を使っちゃダメなのさ?」
「それは体感した方が早いです。それでは、スライム討伐に向かってください。」
ルナークがニッコリと笑うと、ルイは食い下がった。
「そもそも、スライムを千体も討伐したって、何の価値があるのさ。」
「ルイくんの言う“価値”が金銭的な価値を意味しているならば、ありませんね。」
ルナークは、言い切った後に、ニヤリと笑って続けた。
「つまり、わかりやすく言い直せば、ただ働きをしていただきます。」
「え?ボク、ケンカ売られてるの?」
ルイがルナークを睨むと、ルナークは苦笑した。
「それこそ無価値なことですよ。ぼくは、取引にならない営みだと言っているだけなのですが。」
「どういうこと?」
ルイは消化不良気味にたずねると、ルナークはうなずいた。
「スライムは放置して量が積もれば、稀に群体化します。そうなれば、討伐依頼が持ち込まれることになるでしょうね。」
「じゃあその時にやれば、取引になるよね?」
ルイが口を尖らせると、ルナークは頭を振った。
「討伐依頼が出されるということは、姿が確認されたということです。それは往々にして、何らかの悲劇が起きた後のことです。」
「あっ……」
ルイが絶句すると、ルナークはニッコリと笑った。
「そういうわけなので、スライム千体討伐、頑張ってくださいね。」
* * * * *
そういった経緯で、ルイは魔法を封じられながらスライム討伐を進めていた。
そして、間合いを狭めて槍を扱うことで、討伐速度を高めていた。
その様子を見ていたリックは、周囲を見渡して、それからうなずいた。
周囲に、他の魔物の姿はなかった。
それから、夕方に差し掛かっていた空を見上げた。
ルイが、累計で500体近く討伐した頃だった。
リックはルイに目をやって、それから呟いた。
「――そろそろ、かな。」
ルイにその声が聞こえるわけはなく、ひたすら槍を振り回し続ける。
それは、疲労の結果だったのか、それとも集中が途切れた結果だったのか、それはわからない。
ルイが振り下ろした槍は、スライムの核を外してスライムを切り裂いた。
しかし、ルイは仕留め損ねたスライムに一瞥もくれなかった。
そして、次のスライムに視線を移した。
「うわっ!?」
仕留め損ねたスライムから粘液を浴びせられて、ルイは悲鳴を上げた。
すぐさまルイは、仕留め損ねたスライムに向き直って、再び槍を振り下ろした。
スライムの核は切り裂かれ、崩壊した。
それからルイは、スライムが残っているにもかかわらず、茫然とした。
不意に、ルイの横を風が撫でるように吹き抜けた。
我に返ったルイが顔を上げると、細剣を手にしたリックの姿が視線の先にあった。
リックは振り返って、苦笑した。
「今日はここまでだね。――対人戦との違い、感じてもらえたかな?」
RPGだと、逃げない魔物は経験値になるのでありがたいのですが。
どこまでが「無力化」なのかは相手によって違うから難しいところです(`・ω・´)