第35話 リックへの報告
作戦が始まってまだ四日目。
平野や道路のようには行きませんが、それなりの距離は進んでいます。
この段階で、遭遇率が低すぎる感はありますが(`・ω・´)
「アルト班、戻ったよ。」
天幕の中、台の上に頬杖をついていたリックがうなずいた。
「ご苦労様です。――まず、小鬼との交戦はありましたか?」
リックがたずねると、アルトが苦笑した。
「向かうときに五体。戻ってくるときには運よく遭遇なしだよ。」
「……それを聞いて安心しました。伝令にやる方角は、索敵の射程外ですからね。思いもよらない危険が常に付きまといますから。」
リックが微笑すると、アルトが言った。
「でも、誰かがやらなきゃいけない役割だからね。わかってるよ。」
「感謝します。――では、王国軍第三部隊の進軍予定を見せてください。」
リックがそう言って手を差し出すと、アルトは丸められた地図をリックに渡した。
「これだよ。――王国軍の隊長は不満そうにしていたけどね。」
「それはそうです。あれだけ果敢な予定を組む隊長です。今回のギルド側の予定に満足するはずがありませんよ。」
リックが肩をすくめると、アルトはこめかみを押さえた。
「居心地、悪かったんだけどね?」
「生存第一ですから。――だから、こちらから先に伝令を飛ばしたんですよ。」
リックの言葉に、アルトは首をかしげた。
「どういうことかな?」
「こちらが受けた場合、あちらの予定に合わせる羽目になりますから。」
リックはアルトから受け取った地図を広げて、微笑した。
「まあ、こちらの意図が伝わって何よりです。――そういえば、向こうから伝言をもらっていませんか?」
「いや、何も。いわれた通りに子供の使いで終わりだったよ。」
アルトがそう返すと、リックはうなずいた。
「よかったです。生半可に話の分かる友軍だ、なんて思われると面倒ですからね。とはいえ――」
リックは自分たちの予定を記した地図を取り出して、少しだけ印の間隔を広げた。
「一日当たりの最大進撃時間を3時間半にします。」
「こっちも、わざわざ進撃を早めるのかい?」
アルトが首をかしげると、リックは肩をすくめた。
「頑なになり過ぎると、影響力を失いますからね。――それに、やるとするなら今しかありません。ね、ルナーク?」
「そうだね。約5時間分の進撃距離を射程に索敵した結果を踏まえると、今の段階では、小さな集団が点在する程度だから。」
ルナークがそう言うと、セルヴァの声が裏返った。
「ご……5時間分……?」
「ええ、本当に、総指揮官殿は人遣いが荒くてかないません。」
淡々と、苦笑交じりに言うルナークに、セルヴァがジト目で言った。
「いや、君、自分が言ってる意味、わかってるかい?」
「射程の広さは承知していますが、情報解像度を下げて、方角を絞れば負荷は軽減できますよ。もちろん、基礎にただ忠実に使えば、気を失うでしょうが。」
ルナークが肩をすくめると、セルヴァはこめかみを押さえた。
「いや、それって、感応術士の技巧だよね……?」
「まあ、自分磨きの一環で学んだことが、思いがけず役に立ったということで。」
ルナークの言葉に、セルヴァは頭を振った。
「うん、もう僕から言うべき言葉はないよ……」
「わかりました。――では、閑話休題。リックくんがいいたいのは、戦いが激しくなれば嫌でも進撃は遅くなるから、構わないということです。」
ルナークがそう言うと、リックは苦笑しつつその言葉を引き取った。
「ルナーク、それだとわかんないよ。――狙いをいえば、今のうちに陣形を二重にしておきたいんです。」
「陣形を二重にするって、どうするんだい?」
アルトが首をかしげると、リックはうなずいた。
「アルト班で言えば、アルト班が最前列、その後ろでヒューズさんが直接指揮するように数班を預けて、その後ろに今までのヒューズさん役を置きます。」
「……間延びして孤立させるのを防ぐってわけだね。」
アルトがそう言うと、リックは微笑した。
「ええ。人の回転率は上がりますけどね。――小鬼との遭遇回数が増え始めてから手を打つようだと、浮足立ってしまいますからね。」
「なるほどね。――いや、それって貸しを作るフリしてこっちの都合じゃん。」
アルトが呆れた様子で言うと、リックは肩をすくめた。
「そうともいいますね。」
リックはそう言うと、一息置いて続けた。
「――それでは、お疲れ様でした。ヒューズさんには、アルト班は明日、明後日は休ませると伝えさせています。」
「えっ!?二日も休んでいいのか?」
ウィルが驚いたように言うと、リックはうなずいた。
「当たり前だろ。往復で、治療術を前提に走らせておいて、それで休ませないほど僕は物分かりが悪くないぞ?」
「なんか、リック君が知らない人みたいなんだけど。」
ルイがそう言うと、リックは肩をすくめた。
「まだ二か月になるかならないかの付き合いだろ?お互いに、知らないことの方が多いと思うけどね?」
「うーん……それはそうだね。」
相槌を打つルイに、リックは苦笑した。
「まあ、僕だっていきなり数百人単位――正確には357名の生死を左右する立場になってるんだ。これでも気負ってるんだよ。」
ルイ、ウィル、アルト、セルヴァの声と、恐らく心は一つになった。
「「「「いや、それはない。」」」」
リックはルナークの方を向いて、情けない声で言った。
「ルナークぅ……僕、泣いていい?」
「指揮に支障がなければ構わないよ。」
泣くな、リック(`・ω・´)
どう考えても軽口兄ちゃんの印象を積み上げてきた君の敗北(勝利)だ。




