第31話 第一の夜を超えて
時間の単位などは、例によって例のごとく現代に合わせます。
まあ、手回し式の懐中電灯が使われる世界観(第18話~第19話より)です。
手巻き式の懐中時計くらいは、あっても問題ないでしょう。
多分(`・ω・´)
夜が明けた。
ウィルと共に焚き火の前で腰かけていたルイが、あくびをした。
「――結局、夜襲はなしかぁ……」
すると、ウィルが声を落としつつ、陽気に言った。
「そうだな。……でも、なんか楽しいな?」
「あははっ、そうだね。」
ルイは笑いながら相槌を打った。
焚き火から少し離れて立っていたセルヴァはアルトに言った。
「――たまたま、見回っていた集団と当たった、ってところかな。」
アルトはふわっと笑った。
「そんなところだろうね。――もしも統率されてるのなら、仕掛けてくるにしても踏み込んでからだと思うよ。」
「最悪の場合、数の上の不利、地の利なし、その上相手は死兵――かぁ。」
セルヴァが頭を振ると、アルトは肩をすくめた。
「――数だけの、膨らみ過ぎた群れだと助かるんだけどなぁ。」
「そうだね。それなら、つつけば逃げてくれるから。」
気のない様子で相槌を打ったセルヴァ。
それから、アルトとセルヴァがほぼ同時に、歩いてきた方角に向き直った。
四人の冒険者が、歩いてきていた。
ルイとウィルが立ち上がって手を振った。
* * * * *
革鎧を纏った茶色の髪の青年が、ルイたちの前に立っていた。
アルトが頭を下げて、それから口を開いた。
「アルト班、報告しますね。ヒューズさん。」
アルトの言葉を受けて、茶色の髪の青年・ヒューズがうなずいた。
「頼む、アルト。」
「約1時間半歩いて、10体の小鬼と遭遇――全滅させました。その後、その場で野営を張って留まっていました。」
アルトがそう言うと、ヒューズが懐中時計に目を落とした。
「ボルス班が向かって約3時間――思ったより早かったんだな?」
「はい。オレたちも少し驚きました。」
微笑を湛えるアルトに、ヒューズは言った。
「そうだな。進むのは最大で3時間までだと言われている。だが、初日で遭遇するとは思わなかったな。」
「はい。――驚きついでに、気になることがあります。」
アルトがそう言うと、ヒューズは眉をひそめた。
「なんだ?」
「小鬼はセルヴァの詠唱に反応しませんでした。」
ヒューズは首をかしげて、それからアルトの発言を促した。
「――続きを聞かせてくれ。」
「ありがとうございます。――小鬼にも魔法を使うやつはいると聞いています。」
アルトの言葉に、ヒューズは言った。
「だから、詠唱に反応しなかったことがおかしいと思ったのか。」
「はい。」
うなずくアルトに、ヒューズは苦笑した。
「すまない、結論を教えてくれ。」
「はい。――小鬼は統制されているかもしれない、って考えてます。」
アルトがそう言うと、ヒューズは少しだけ唸った後に、微笑した。
「わかった。――ただ、俺が後ろに伝えるかは俺が判断する。だから、お前たちは今から本陣に戻れ。」
「えっ?……どういうことですか?」
アルトが首をかしげると、ヒューズは言った。
「本陣から、王国軍への伝令役を出すように言われているからな。――ついでに、今の話をルナークに伝えておいてくれ。」
* * * * *
やや大きな天幕の中で、ルナークの前にルイたちは立っていた。
その隣では、駒が置かれた地図を眺めながら、リックが口笛を吹いていた。
「ボクたちは、ヒューズさんの指示で、伝令役を引き受けるために戻ってきたはずなんだけど……?」
ルイが口笛を吹くリックをジト目で見ると、リックはそのまま肩をすくめた。
「その前に、ルナークに言いたいことがあるんだろ?そっちは聞かないから。」
すると、ルナークが苦笑した。
「気を悪くしないように。今のリックくんは総指揮官です。報告は直下の白銀階位三名か、ぼく経由なので。まずは、ぼくが聞きましょう。」
「なるほどね……実は、遭遇した小鬼たちが僕の詠唱に反応しなかったんだ。」
今度はセルヴァが直に伝えると、ルナークはうなずいた。
「そうですか。――それでは、その事実をどう解釈しましたか?」
「結論から言えば、敵は統率されている可能性がある――ってことだね。」
セルヴァがそう言うと、ルナークは自分の口元に手を当てた。
「――小鬼は、魔法を扱える知能を持つ種なのに詠唱に反応しなかった。だから、危険予知の観点から、演技か情報統制の可能性を考慮すべき、と?」
「そういうことだね。」
肩をすくめたセルヴァに、ルナークは微笑した。
「お見事です。――あるいは、魔法を使わない個体が無関心過ぎただけの可能性もありますが、代償が生命と考えれば、個人単位では重要な提案です。」
「全体への周知を望むよ、僕としてはね。」
セルヴァがそう言うと、ルナークは肩をすくめた。
「周知は当然ですが、戦略単位で反映されるかどうかはお隣さん次第です。」
「リック君かい?」
そうたずねたセルヴァに、ルナークは首を横に振った。
「いいえ、南西から突入した王国軍です。――彼らの進軍の度合いによります。」
「足並みを合わせるために、無茶も必要かもしれないってことかな?」
セルヴァが眉をひそめると、ルナークはうなずいた。
「良くも悪くも、やる気にあふれた指揮官なので。個人的には好感を持ちますが、それはそれとしてギルドとして見れば難儀な友軍ですよ。」
「なるほどね……」
セルヴァが苦笑しながら相槌を打つと、ルナークは言った。
「――まあ、そういうわけなので、王国軍への伝令については、リックくんに指示をもらってください。」
――リックの口笛が、止んだ。
頼む側からすれば、考える人や、誠実に取り組む人に頼みたくなるのは人情以前の問題かもしれません。
仕事で、しかも生き死にかかっている状態ならなおのこと。
こうして、友軍への伝令で走らされることになったルイたちです(`・ω・´)




