第2話 最初の課題
ルナークとリックの教養は、わりとある方です。
冒険者ギルドの受付は、冒険者・依頼人、いろんな人が来る場所で、彼らはそれに対応する必要があるので(`・ω・´)
全員が静かになると、リックは、手をポンと叩いて言った。
「五芒星教団と言えば、疑問に思っていたことがあったんだ。」
「何がわからないの?」
ルイが促すと、リックは肩をすくめた。
「僕も以前、教義を勉強したことがあるけど。」
「……えっ?」
ルイが意外そうな目をリックに向けると、リックはジト目でルイを見返した。
「なんだよ、その反応。」
「あ、いやー……それより、何がわからないの?」
ルイがわざとらしく聞き直すと、リックは言った。
「宗教なのか、哲学なのか、ってこと。」
「あー……えーっと……うーん……」
ルイは、言葉を探すように考え込むが、そのまま唸り続けていた。
その様子を見て、ルナークが横から口を挟んだ。
「それ自体は、宗教だと思っていいよ。」
ルナークの言葉に、リックは苦笑した。
「そうなのかい?けど、いわゆる神様が出てこないんだけど?」
「それ、二段階の修正が必要だね。」
ルナークが苦笑すると、リックは肩をすくめた。
「あぁ、一段階目――宗教に神性が必須じゃないことは心得てるよ。」
「――とすると、五芒星教団は純粋な神性の存在、それを教義の前提にしてるって言えば大丈夫?」
ルナークの言葉に、リックはうなずいた。
「なるほどね。神様――つまり、人格神が出てこなかったから、結びつかなかったのか。」
「そういうこと。」
ルナークは肩をすくめて、それから続けた。
「哲学との違いに戻すなら――五芒星教団はぼくらの存在を、神性を信じることで基礎づけてる。」
「ふむふむ。」
リックが相槌を打ち、ルナークが続ける。
「その上で教えを組んだ――というか、預かった教えを大事にしてるわけだね。」
「哲学みたいに証明を求めてないってわけだ。」
そして、ルナークは微笑した。
「これでいいかな?ぼくらの関心はルイくん自身にあるわけだからね。」
リックが肩をすくめた。
「そうだね。この際だから聞いちゃったけど、かなり脱線しちゃったかな。」
ルナークも肩をすくめて言った。
「時間つぶしにはちょうどよかったと思うよ?」
「――ルナーク君、ギルド長から承認、もらってきたわよ。」
いつの間にか姿を消していたクラリスが、受付台に戻ってきた。
「ありがとうございます、クラリスさん。」
ルナークは、ルイの登録用紙の承認印を一瞥して、登録用紙を机に置いた。
それから、ルイの方に向き直って言った。
「それでは、登録後の通過儀礼を通ってもらいましょうか。」
ルイが首をかしげた。
「通過儀礼?」
すると、ルナークは肩をすくめた。
「ええ。冒険者登録が完了したので、最初に三つ、依頼したいことがあります。」
「三つ。」
ルイがそのまま反芻すると、ルナークは人差し指を立てた。
「一つ目は、スライムを約千体、討伐していただきます。」
「約……?え?……せ、千体……?」
ルイが目を白黒させているが、ルナークは次に中指も立てて、言った。
「二つ目は、薬草を千本、指定区域から採取していただきます。」
「えっ?ちょ……薬草……も?」
目に見えて混乱している様子のルイを置き去りにして、ルナークは薬指も立てた。
「三つ目は、ギルド街でお店回りと、お手伝い行脚を最低で五十件。」
「……」
ルイは絶句した。
そして、リックやクラリスに目をやるが、二人とも表情を動かさない。
強張っている様子はなく、極めて自然体だった。
ルイが、こわごわと口を開いた。
「……え?もしかして、冗談じゃ……ない?」
「ぼくが冗談を言うように見えますか?」
ルナークは、心の底から意味が分からないと言いたげに首をかしげた。
ルイは、その場にがく、と膝をついた。
その様子を見下ろしていたはずのルナークは、リックの方を向く。
「リックくん。ルイくんに付き合ってやってください。」
「また僕かよ……わかった。」
リックがそう言って腰を上げると、受付を出てルイの側に立つ。
ルイはリックを見上げるが、リックは微笑を返すだけだった。
「はぁ……」
ルイは諦めたかのように立ち上がった。
すると、ルナークは肩をすくめて言った。
「どうやら、説明が少しばかり不親切だったようですね。」
「少しばかり……?」
ルイがジト目でルナークを見つめるが、ルナークは微笑して言った。
「先ほど少し触れましたが、今は、冒険者登録試験が中止されていますからね。」
「それは聞いたよ。」
相槌を打つルイに、ルナークは続けた。
「そのため、ある程度はふるいにかけざるを得ないのですよ。」
「五芒星教団の元司祭、ってだけじゃダメ?」
ルイの問いに、ルナークはうなずいた。
「それは、五芒星教団に対する信用であって、きみ自身の評価ではありません。」
「うっ……」
ルイが言葉に詰まると、ルナークは苦笑した。
「結局のところは、論より証拠、やってもらうのが一番ですから。」
「それはそうだけど……」
口を尖らせるルイに、ルナークは言った。
「きみは、冒険者としてのルイくんです。当然、五芒星教団が積み上げてきた信頼に与ることはできません。」
「……わかってるよ。」
ルイがうなずくと、ルナークはにっこりと笑った。
「それはいいことです。――ご心配なく。誰でも通れるほど甘くはありませんが、誰でも通る道ですから。」
基本って、気がついたら千回どころじゃないくらい繰り返してますよね(`・ω・´)