第26話 小鬼は蠢く?
小鬼ネタはもう少し続きます。
ほどよい知能、ほどよい数、ほどよい階級制の可能性。
作劇上、便利なんですよね、ファンタジーのゴブリンって(`・ω・´)
――キリル先生が開発してる新薬を試すためには、怪我人が必要だろ?――
「……やれやれ、頭が痛くなるね。」
隣の四人のやり取り――とりわけ、アルトの発言を横で聞きながら、キリルは頭を抱えていた。
そんなキリルに、リックがたずねた。
「そういえば、注射型回復薬の開発は順調ですか?」
「ああ、おかげさまでね。――試作品であれば、現場に投入できる水準には達しているよ。」
キリルの言葉に、リックは微笑した。
「それはいい報せですね。――量産を期待できませんか?」
「品質の安定化が課題だね。いろいろな場所で野生の薬草を採取してもらっているけれど、また品質との相関を取れる要因が見えてこない。」
キリルが頭を振ると、リックは唸った。
「つまり、品質ムラが大きいってわけですか。悩ましいですね。安全に量産しようと思えば、平均的な品質が犠牲になる、と。」
「そういうことだね。」
キリルは相槌を打った後、苦笑して続けた。
「量産は遠いだろうね。技術以前の問題で。――ただ、親身になって考えてくれていることに、感謝するよ。」
キリルの言葉に、リックは肩をすくめた。
「まぁ、ボロボロの姿で帰ってくるアルトさんの応対が面倒なので。新薬の開発が一段落ついてくれたらいいのに、と思っているだけです。」
「な、なるほど……」
――そして、キリルとリックは、お互いに沈黙した。
やがて、クラリスが口を開いた。
「そう言えば、キリル先生?その新薬の開発に影響しそうなのでお伝えしますが、少しの間、薬草採取の依頼を止めることになりますよ?」
「えっ?どうして?」
クラリスの言葉に反応したのは、アルトだった。
しかし、答えたのはクラリスではなく、キリルだった。
「エテルナ王国から通達があったんだよ、アルト君。小鬼の活動に対して最大限の警戒をするようにね。」
キリルがそう言うと、アルトが情けない声を出した。
「そんなぁ……薬草採取ができないなんて。」
「いや、その前に、依頼を止めるってどういうことだ?ルナーク?」
ウィルがルナークにたずねると、ルナークは一息置いて、言った。
「――エテルナ王国から、要請を受けています。哨戒のために、冒険者を派遣してほしいと。」
「いや、それ、エテルナ王国側の仕事でしょ?」
ルナークの言葉にルイが返すと、ルナークは少しだけこめかみを押さえた。
それから、小さく息を吐くと、口を開いた。
「体制が対応するのは魔物だけではありませんよ。――それは、ルイくんも知っているはずです。」
ルナークがそう言うと、ルイは言葉に詰まった。
「そ、それはそうだけど……」
「そこで、キリル先生はアルトさんを伴ってこの夕食会に混ざった――と。」
ルナークの口から脈絡なく出てきた自分の名前に、アルトは一拍遅れて反応した。
「…………えっ?」
「お見通しか。――さすがだね。」
キリルが肩をすくめると、ルナークは頭を振った。
「当て推量ですよ。」
「ルナーク君の当て推量ほど怖いものはないのだけどね……」
キリルは苦笑して、それからルイとウィルに頭を下げた。
「ウィル君、ルイ君。勝手を言っているのはわかっている。――けれど、今だけで構わないから、アルト君を同行させてやってほしい。」
「……」
アルトが黙っていると、ウィルは勢いよく答えた。
「いいよ!……あ、でも、ルイはいいのか?」
「わかりました。」
即答するルイに、ウィルは首をかしげた。
「本当にいいのか?ルイ?」
「風評被害や先入観の煩わしさは、ボクも知ってる。――よく知らない人を、渾名だけで断じることはできないよ。」
ルイがそう言うと、ルナークがアルトに微笑を向けた。
「アルトさん?――アルトさんは、構いませんか?」
「えっ……あ、うん。オレは……ありがたい……かな?」
そう答えたアルトに、キリルは言った。
「すまないね、アルト君。これが、君にとっていいことか、僕にはわからない。」
「キリル先生……」
アルトが返す言葉を探していると、キリルは続けた。
「君のおかげで捗っているのは事実だけど――薬師としては、自分の研究のために救うべき相手、つまり人が怪我をして喜べるわけがない。」
「……っ。」
アルトが言葉に詰まっていると、リックがことさら軽薄な物言いで口を挟んだ。
「あー、はいはい。そういうまじめな話は、あとでお願いしますね。」
「リック君……君ってほんと……」
クラリスからジト目で見られたリックは、肩をすくめた。
「いや、アルトさん、困ってるでしょ。世の中には、重苦しい空気だと死ぬやつもいるんですよ。」
「それはキミだけでしょ。」
即座に切り返したルイに、アルトが乗っかった。
「うん、オレもリックと一緒にされるのはどうかと思う。」
「ええっ!?アルトさんまで!背中から斬られた気分なんだけど!?」
悲鳴を上げるリックに、ルナークはこめかみを押さえた。
――そして、口元を小さくつり上げた。
「まあ、そういうわけですから。三人で十分かどうか、検討の余地はありますが、明日以降、少しだけ皆さんの時間を、ギルドの都合でいただきますね?」
口を尖らせるリック、ニヤニヤしながら切り返すルイと、悪ノリするアルト――
その様子を苦笑しながら見守る、ウィルとキリルとクラリスと。
――誰も、ルナークの言葉を聞いていなかった。
なんということでしょう。
キリル先生、座薬を卒業していたんですね(`・ω・´)
ええ、卒業してもらわなければ困ります――アルトを連れてきた以上は。




