第18話 青水の洞窟
洞窟の探索が始まろうとしています。
第11話の後書きでほんのり言及しましたが、本作では、一般的な魔法は物理現象に干渉できません。
光を発することは物理現象なので、「魔法の明かり」なんてアウトです。
……なんでこんな面倒な制約を課してしまったんでしょうか。
それはそれで調べ物をするしかなくなるので、勉強にはなりますが(`・ω・´)
エテルナ王国のアークス侯爵領に含まれる青水の洞窟は、レティが手配した高速馬車で約二日かかる。
馬車の中では、ルイとウィルがレティと向かい合うように座っていた。
しかし、二人の間に会話はなかった。
レティが馬車に乗るなり、書類仕事を始めていることが理由だった。
「私のことなら気にしなくていいわよ。」
――と、いくらレティが許可をくれたとしても、二人は遠慮していた。
馬車の中には、筆が紙を走る音と、めくられる紙の音がいやに響く。
ルイとウィルはやることもなく黙っていたが、レティも二度は言わなかった。
そんなわけで、ルイとウィルは馬車の中で沈黙に耐えていた。
――近隣の街で馬車を降りて、まずは身体を休めるために宿を取った。
食事の席では、他愛ない話もした。
レティが気さくであるほど、ルイとウィルはかえって混乱したわけだが。
その翌日、徒歩で多少歩くと、目的地の青水の洞窟があった。
入り口の幅は、三人が横並びになっても余裕をもって動けるほどだった。
ルイが誰にともなく言った。
「ここが、青水の洞窟ですか……」
「ええ。名前の由来はそのまま。奥の開けた場所の湖の水の色が青いのよ。」
レティがそう返すと、ウィルが言った。
「すげー!記念に持って帰っていい?」
「やめておきなさい。青とか緑とか、水の色だと思えば触らない方がいいわ。」
レティの言葉に、ウィルは目を丸くした。
「……え、そんな怖いところなのか?ここ?」
「誰かれ構わず立ち入りを許可していないわよ。魔物も棲んでいるのだから。」
ルイはため息をついた。
「はぁ……だから、冒険者が必要だったんですね。」
「そういうこと。私も荒事の心得はあるけど、心得があったって、こういう地形は一人で入り込む場所じゃないからね。」
レティの言葉に、ルイは苦笑した。
「貴族令嬢って、もっとおしとやかだと思ってました。」
「そうね、私もおしとやかなだけで居られたら気楽なのだけど。」
レティはふっと息を吐いた。
そして、荷物から紐がついた太い筒状の物体を取り出した。
回転式の取っ手がついており、片方の端は硝子で覆われていた。
――いわゆる、手回し式の懐中電灯だった。
ルイは目を丸くした。
「な、なんですか?それ?」
「携帯用の光源よ。こうやってこの取っ手を握って回すと――」
ガラスの内側が発光して、その前方に光が発せられた。
その様子に、ルイとウィルは驚き、ルイが思わずたずねた。
「え?そんなものがあったんですか?」
ルイの問いに、レティは微笑した。
「ええ。――覚えておきなさい。洞窟を探索する時に、うかつに松明や角灯なんて使ったら、空気の流れにもよるけど死ぬわよ?」
その言葉を聞いて、ウィルはポカンとしながら言った。
「え、オレ、松明持ってきたのに……」
「命拾いしたわね。――まあ、冒険者ギルド街でも取り扱ってるわよ。洞窟を探索することが仕事になる冒険者には必需品だもの。」
レティの言葉に、ウィルはそのままうなずいた。
「そうだったのか……」
「――今回は私が教えると思っていたから、ルナーク君も黙っていたのね。彼なら洞窟の探索をする依頼の際には、携帯光源のことを教えるはずだもの。」
ルイは頭を抱えていた。
「しまった……光源なんて考えてなかった。」
「……ま、まぁ、冒険者になって1か月くらいよね。仕方ないと思うわ。」
レティが落ち込むルイに慰めの言葉をかけ、ウィルも同様にした。
「でも、オレの松明だってまずかったから……気にすんなって、ルイ。」
「あ、ありがとう……」
それからレティは、鈍色の球体がはめ込まれた腕輪を左手にはめた。
「後はまあ、これの出番かしらね。」
「それは?」
ルイが首をかしげると、レティは微笑した。
「戦場で使われている索敵用の増幅器を携帯用にしたものよ。――魔力による気配の感知の範囲を広げて、情報共有を助けるために使うわ。」
「え?そんなものまで?」
ルイが目を丸くすると、レティは苦笑した。
「念のためよ。明かりがあればある程度は見通せるけれど、魔物がいる以上、その気配を察知すれば、不意打ちを避けやすいでしょう?」
「へー。そこまでやるのか。」
ウィルが何となく感心していると、レティはうなずいた。
「勇気と蛮勇は別物。――備えで回避できるなら、いくらでも備えるわよ。」
それから、一息つくとレティは続けた。
「改めて言っておくわ。私の目的は魔石。――この洞窟は銅の鉱床でもあるけど、魔石が採れる場所でもあるからね。」
「魔石?」
ルイが首をかしげると、レティはうなずいた。
「ええ。魔石は、魔力に感応できるようになった特殊な石。私が趣味でやっている研究に使いたいのよ。」
「研究……ですか。」
ルイが目を丸くして相槌を打つと、レティは肩をすくめた。
「ええ、操呪兵の研究。――今の段階では、好事家ですらも投資しない、物好きのやることではあるけれど。」
「完全に趣味か道楽の範疇ですよね……」
ルイが呆れ気味に言うと、レティは悪戯っぽく笑って続けた。
「人生には潤いが必要なの。――ちなみに、魔石が採れる場所は魔物も集まって、しかも強くなるから、ついでに定期的な討伐にもなるわよ。」
「そっちがついでなんですね……」
ルイとウィルは、互いに顔を見合わせて、ため息をつきながら肩を落とした。
今回は、しっかり自然科学に負けました。
改めて感じる、懐中電灯という道具の便利さです。
開けた空間では、松明だろうが角灯つまりランタンだろうが、酸欠とかそれに伴う不完全燃焼――一酸化炭素中毒――とかを心配しなくてすみますが。
まさか、ファンタジー執筆で改めて電気の偉大さを思い知るとは(ーー;)
ちなみに、操呪兵とは、日本語にしていますが、いわゆる「ゴーレム」です。
土の塊を魔力で動かすアレの類推としてのカラクリ人形――つまり魔法ロボット。
もちろん、魔法に対する縛りが妙に強い本作の世界。
カラクリ人形という概念は当然あるので、魔力で駆動するメリットとは一体何か。
――まあ、多分、本作では語られません。
それが語られるならば、好事家ですら投資しない研究ではないので(`・ω・´)




