第14話 一つの道程標
この世界の馬車馬は、思ったよりブラック労働でした……。
まさか、治療術で体力回復させられて、移動距離を延ばされるなんて……。
作者は鬼なのでしょうか……治療術をこんな風に使うなんて(`・ω・´)
往路と復路でそれぞれ三日、現地で一日、計七日。
ルイとノエルによる竜の討伐は終わった。
もっとも、帰り着いた頃にはエテルナ冒険者ギルドの受付は閉じていた。
そのため、報告はその翌日になった。
ギルドの入口でノエルと待ち合わせていたルイは、合流して受付に向かった。
受付の前に立つと、ルナーク、リック、クラリスの三人が揃って二人を迎えた。
そして、ルナークが微笑した。
「お疲れ様です。――報告と言うことでよろしいですか?」
ルナークがそう尋ねると、ノエルがうなずいた。
「うん。――はい、これ。」
ノエルが受付台に大きな牙を置いた。
ルナークがその牙を手に取ってうなずいた。
「ええ、確かに。」
「――へえ、信じちゃうんだ?」
ルイが首をかしげてそう言うと、ルナークが微笑した。
「ええ。――竜の首級なんて、運ぶだけでも大変でしょう?」
「ま、まあね……」
ルイが苦笑すると、ルナークは肩をすくめた。
「万に一つ、虚偽報告であった場合は――」
「その場合は?」
ルイが再び首をかしげると、ルナークはくすっと笑った。
「それは、その時のお楽しみと言うことで。」
「――何だろう、生命の危機を感じたよ。」
ルイがそう言って身震いすると、ルナークは受付台に報酬を置いた。
ノエルの側に小金貨が3枚、ルイの側に大銀貨が5枚。
ルイはそれを見て固まった。
「えっ?……えっ?」
自分の目の前に置かれた5枚の大銀貨に、言葉を失うルイ。
すると、ルナークが首をかしげた。
「どうしました?」
「……大銀貨5枚も、もらっていいの?」
ルイが戸惑いながらそう言うと、ルナークは頭を振った。
「ギルド規定に基づいた金額ですよ。獣と化したとはいえ竜が相手でしたから。」
「だったら止めてよ……」
ルイがため息をつくと、ルナークは肩をすくめた。
「それに、今回は正式な依頼なので、報酬額はお伝えしたはずです。」
「あの時は、竜の討伐って言われて混乱してたんだよ……」
ルイがジト目でルナークを見ると、ルナークは言った。
「ちなみに、ノエルさんの報酬は、馬車代を引いたものになっています。」
「じゃあ、馬車代を引かなかったら?」
ルイが無邪気にたずねると、ルナークは微笑した。
「まあ、小金貨があと2枚ほど。――無意味な問いですが。」
「えええ……馬車ってそこまでかかるの?」
ルイが目を丸くすると、ルナークは肩をすくめた。
「普通の馬車ならば、請け負った冒険者の負担はより軽減されます。ただ、今回は時間短縮のために特別に手配していますから。」
「え?そうだったんだ。」
ルイが驚いたように言うと、ルナークはうなずいた。
「治療術の心得ある御者と、それを前提にした寿命が少々縮みやすい馬を手配していますから。」
「えええ……」
ルイが返す言葉を失うが、ルナークは構わず続けた。
「そのため、新しい馬を育てる費用を少々、負担していただくことになります。」
「うぅ……なんか申し訳ないけど……まあ、時間の方が大事……だよね。」
ルイがそう言いながら頭を抱えると、ルナークは言った。
「そういうことです。――もろもろ、いい経験になったのでは?」
「死ぬかもって思いながら向かったんだけどね?」
ルイが口を尖らせると、ルナークは苦笑した。
「いたずらに危険を冒せとは言いませんが、一つの道程標になるのでは?竜を討伐できるということは。」
「――いや、何年かかると思ってるの。」
ルイがこめかみを押さえると、ノエルは微笑した。
「なかなか言うね、ルイ。――「何年」で済むなら頼もしいよ。」
「ほほう……」
クラリスがルイとノエルを見ながらつぶやいた。
すると、ルナークが言った。
「クラリスさん、この書類をあげますから黙って仕事してください。」
ルナークの言葉に、クラリスは口を尖らせる。
「ルナーク君のいじわる。」
「はいはい。」
ルナークとクラリスがそんなやり取りをしていると、ノエルは報酬の金貨を受付台から拾い上げて、それから踵を返した。
「あっ……ノエルさん。」
「どうしたの?」
ノエルが振り返ってルイに微笑を向けると、ルイは言った。
「いろいろと、ありがとうございました。」
「――こっちこそ。ごめんね?いきなり無茶な駆り出し方をして。」
ノエルが肩をすくめると、ルイは激しく頭を振った。
「あのっ……またいつか、ご一緒できますか?」
ルイの言葉に、ノエルは少しだけ驚いた様子を見せた。
それから目を細めると、言った。
「とりあえず、青銅の第一位くらいまでは上がっておいで。――ついでに、新しい技も身につけてほしいかな?」
ノエルがニヤリと笑うと、ルイはうなずいた。
「はいっ。――頑張ります。」
「いい返事だね。――待ってあげるつもりはないけど、その日が来るのを楽しみにしてるよ、ルイ。」
ノエルはそう言って、再び踵を返すと、ギルドの外へと姿を消した。
そして、リックが苦笑した。
「――で、カッコつけるのはいいけど、依頼を受けずに行ってどうするのかな?」
ルイはジト目でリックの方を見た。
「リック君。もう少し、空気読んでよ。」
リックは肩をすくめて片目を瞑った。
「あいにくと、ここをどこだと思ってるんだい?」
すると、ルイが口を尖らせた。
「リック君は絶対にモテそうにないね。」
「君に言われても悔しさがわかないなぁ。」
リックがニヤリと笑って切り返す。
「ぐぐぐ……」
そして、ルイはリックに背を向けて、ギルドの入り口に目を向けた。
それからしばらくの間、ルイは入り口を眺め続けていた。
現地研修が終わって、当面の目標ができた様子のルイ。
――誰もが、自分で掲げた大きな目標に向かって歩いているわけではありません。
しかし、時には小さな道程標でも十分なのです(`・ω・´)




