第13話 奔走の中での決着
ようやく決着です。
――いや、ルイの目線だと三話で竜に勝利って、むしろ早いのかも。
とはいえ、今回は主人公ではあっても主体ではないですから(`・ω・´)
再び、竜の目の前に迫ったノエルは、大剣を片手に竜を見上げた。
しかし、まだ竜の尻尾は動かなかった。
竜はノエルを見下ろしつつ、微かに身体の向きを変え、目を動かしていた。
その様子を見ながら、ノエルは口元を小さくつり上げた。
そして、竜からの距離を保ちながら、流れるように右へ、左へ、動き始めた。
竜の身体が、小刻みに動き始めた。
ノエルは変わらず、左右に動き続ける。
竜は足踏みを始め、次第にそれが不規則になってゆく――
竜の足踏みが乱れてきた頃合いで、ノエルが地面を蹴った。
ノエルが瞬く間に竜の側面に滑り込めば、反射的に竜は尻尾でノエルを薙ぎ払おうとした。
一歩踏み込み、身体をひねりながらノエルは軽やかに尻尾を飛び越えた。
その後、大剣を両手で握って振るい、竜の脇腹を切り裂くと、その勢いでノエルは竜の後方に位置どった。
これまでよりも深い傷を負って、竜は大きく身体を揺らして咆哮する。
――その様子を遠巻きに見たルイが、足を止める。
すると、竜が直ちにルイに視線を向けた。
「――っ。お生憎さま!」
ルイは竜の視線を受けて息を呑み、すぐに地面を蹴って走り始める。
撃ち合いになれば、確実に押し負ける――ルイはそれをすでに体験していた。
「――どこを見ているのかな?」
しかし竜は、ノエルが自らの後方に位置取ったことに対応するよりも、足を止めたルイに視線を送ってしまっていた。
ノエルは、両手持ちで大剣を振り上げて――
竜の尻尾、その根元に振り下ろした。
そして、竜の尻尾は斬り落とされ、これまでにない咆哮を上げ、身体を捩らせた。
すると、ルイはまた足を止めた。
そして、両手を前に突き出して――
――光醒めて今満ちる、覆える水、混沌への放縦――
それでも、今度は竜がルイに視線を向けることはなかった。
ルイは、小さく頭を振って詠唱を止めた。
「――やめた。もう、ボクの出る幕はないみたい。」
それから、微笑すると、再び地面を蹴って走り出した。
尻尾を失った竜には、もはや脚しかなかった。
とはいえ、尻尾に比べれば長さの足りない脚を、これまで、尻尾をもいなして来たノエル相手に繰り出せばどうなるか――標的にしかならない。
しかし、竜は詠唱を始めたルイにすら反応できなかった。
尻尾を失った動揺が、残されていた知能による判断すら鈍らせていたのだろうか。
竜は、ノエルに向き直って、前脚で襲いかかる。
それに対して、ノエルは口元を小さく吊り上げると――
両手で握った大剣を溜めて、振るって、正面から竜の前脚をはじき返した。
それから、竜を見上げて言った。
「最後は、力づくでやろうか。せめてもの餞だよ。」
――ルイは、もう足を止めていた。
油断したわけではなかった。
しかし、竜の注意がもはや自分に向かないこともよくわかっていたのだろう。
そして、呆れたように苦笑しながら、独り言を言った。
「雅客……ねぇ。確かにそうかもしれない。」
脚を振り回す竜と、それを真正面から大剣で打ち返すノエルと――
その様子を見ながら、ルイは頭を振った。
「少なくとも、ボクにあんな真似はできないよ。」
そうつぶやいて、それからため息をついた。
「だけど、詠唱を止めた時点で、ボクも毒されちゃってるのかな。」
言葉とは裏腹に、ルイはノエルに目をやって、目を細めた。
そして、ノエルの大剣と竜の前脚とで打ち合うこと十数回――
竜は、持ち直す力すら失ったかのように、よろめいた。
ノエルが地面を蹴って、竜の後方に回り込んだ。
それから、即座に飛び上がると――
必殺を期して竜の首に大剣を振り下ろして、その首を斬り落とした。
首を斬り落とされた竜の胴体は、そのままその場に倒れ込む。
――そして、動かなくなった。
ノエルは、しばらくの間、その身体を見やっていた。
ルイがノエルに駆け寄る。
竜の絶命を確信していたのか、その足取りに迷いはなかった。
「――これで、終わったんですね。」
ノエルの隣に立ったルイがそう言うと、ノエルはうなずいた。
「うん。少なくとも、死んだふりでもなさそうだね。」
「首が落ちても、そんな可能性があるんですかね……」
ルイが苦笑すると、ノエルは肩をすくめた。
「この竜の場合は冗談だけど、世の中、何があるかわからないよ。」
「そういうものですか?」
ルイが首をかしげると、ノエルはうなずいた。
「七年も冒険者を、それなりに精力的にやってると、多彩な依頼を経験するからね。嫌でも警戒心は強くなるよ。」
「七年……え?」
ルイが目を丸くすると、ノエルは首をかしげた。
「どうしたんだい?」
「いえ、その倍くらいかな、と思ってました。」
ルイが苦笑すると、ノエルも苦笑で返した。
「僕が三十歳にでも見える?」
「見た目以外は。」
ルイの言葉を聞いて、ノエルは声を上げて笑った。
「あっはっは!――それはうれしい褒め言葉だね!」
それから、ノエルは一息置くと、肩をすくめて続けた。
「でも、ルイは立派な上澄みだよ?――青銅階位で竜の討伐に駆り出されたって、もっと動けなくなるから。」
「褒めた後に余計なことを言わないでください……もう。」
ルイは、ジト目でノエルを見ながら口を尖らせた。
そんなルイに、ノエルは目を細める。
「ごめんごめん。――それじゃあ、凱旋と行こうか。」
単騎で比べると、圧倒的に格上の竜。
そんな相手に、見栄えはしなくてもできることを積み上げたルイ。
だからノエルに少しだけ認められて、そしてルイもノエルに少しだけ感化されて。
――さて、ルイはこれから冒険者として何を目指すのでしょうか(`・ω・´)




