第12話 ルイ、それでも逃げ回る
魔法の詠唱――それは憧れです。
ところで、作中の彼らにとっては様式でも、作者にとっては苦行です。
正直なところ、辛いので省略したいです……
ですが、ルイには詠唱を省略する力量・技量はありません。
なので、作者は恥をさらすしかないのです(ーー;)
両手を前に突き出したまま、ルイは大きく息を吸い込んだ。
そして、良く通る声で詠唱を始めた。
――遍く光よ映し出せ、仲立つ風、災禍の招来――
――一つの杖、曲がることなき一つの道――
――旋りて、束ねて、打ち砕け――
そして、膠着するノエルと竜の立ち合いを凝視した。
竜がまたもや尻尾を振り回せば、ノエルはそれをひらりと躱す。
返す尻尾に、ノエルは大剣を両手で握った。
そして、これまでとは異なり大剣を振り上げて尻尾の軌道を強引に曲げた。
尻尾を打ち上げられて、竜は少しだけ後ずさった。
ルイはその機を逃さなかった。
「――『尖風の投杖』!」
光を帯びて可視化された風が、絡み合うように束ねられる。
そして、柱ほどの太さに収束して、竜に向けて一直線に放たれた。
意図せず、ノエルは振り上げた大剣をそのまま振り下ろす。
後ずさった竜は、振り下ろされる大剣に深く斬りつけられた。
竜は、この日一番の咆哮を上げた。
――そこに、可視化された突風が炸裂し、竜はさらにのけ反った。
予想外にのけ反った竜の姿を見てノエルは――
反転して竜の足元から離脱した。
「――っ!?」
ルイは息を吞み、直ちに詠唱を始めた。
――遍く光よ映し出せ、仲立つ風、秩序への適従――
持ち直した竜は、直ちに第二の衝撃を与えた主――ルイを視界に捉えた。
――我欲するは旋風の外套、連なる階調――
竜はその口を開いた。
――展け、包め、災いよ去れ――
そして、竜はルイに向けて息吹を放った。
「――『護りの風』!」
光を帯びて可視化された風が、ルイの周りを包み込んだ。
ルイを包む旋回する風が、竜の息吹を受け止める。
「――っ、お、重いっ…!」
ルイを覆う風、それを表す光が見る見るうちに散ってゆく――
そんな中で突然、ルイの身体が宙に浮いた。
――のではなく、ルイはノエルに抱えられていた。
そして、そのまま離脱した。
ルイが立っていた場所は、燃えさかり、そしてすぐに炎が消失した。
ルイを下ろしたノエルは、すぐに半身を竜に向けた。
そんなノエルに、ルイは言った。
「ありがとうございます――。ごめんなさい。」
すると、ノエルは微笑した。
「どうして謝るんだい?」
「えっ?」
ルイが目を白黒させると、ノエルは続けた。
「見事な合いの手だったし、最高の一手だったよ。」
「でも、ほとんど効いてません。結局、ノエルさんに守られて。」
硬い声でルイが言うと、ノエルは小さく頭を振った。
「庇わないとは言ったけど、助けないとは言ってないよ。」
「――ええと……」
ルイが返す言葉に困っていると、ノエルは続けた。
「だけど、これからは本当に、本気で逃げ回ってね。」
「?」
ルイが首をかしげると、ノエルは言った。
「もう、次は詠唱なんてさせてもらえないよ、ってことだよ。」
「――なるほど。」
ルイが相槌を打つと、ノエルは微笑した。
「だけどそれは、あの竜は僕だけに集中できないってこと。――だから、最高の合いの手だった、ってわけさ。」
ノエルの言葉に、ルイはうなずいた。
「――わかりました。逃げ回ることに専念します。」
「いい返事だね。」
一息置いて、ノエルは続けた。
「そう、逃げ回るだけでも嫌がらせになる、ってわけだ。」
「なるほど、羽虫でも飛び回れば鬱陶しい、と。」
ルイが苦笑すると、ノエルも苦笑で返した。
「そこまで無粋なことは言わないけどね。」
「――構いませんよ。居るだけでも嫌がらせになる、そんな戦い方もあるってことですね。」
ルイがうなずきながらそう言うと、ノエルは小さくうなずいた。
「そういうこと。――だから、全力で逃げ回って。君が作る隙は、必ずモノにするからさ。」
「ノエルさん……」
ルイが言葉を探していると、ノエルはルイに微笑を向けて、無言でうなずいた。
それから、ルイの前に立つように、一歩踏み出す。
そして、ルイは踵を返し、背中合わせになって一歩踏み出す。
「僕は、君が無事に逃げ切れるつもりでやるから――任せたよ、ルイ。」
ノエルがそう言うと、ルイはうなずいた。
「――はい。逃げ回るだけとはいえ、任されました。」
そして、二人は互いに逆方向に地面を蹴った。
ルイはすぐに、角度を変え、竜を視界の端に収めながら走り始めた。
その視界には、ジグザグに竜に突き進むノエルの姿もあった。
「――っ。」
ルイは息を呑んだ。
そして、走りながら、わけもなく息をついていた。
それから、激しく頭を振って、自分を奮い立たせるように声を上げる。
「――そうやって見ていればいいよ!捕まる気はないから!」
その掛け声が、竜の動きに影響を与えた――ということはないのだが。
外から見れば、竜は目の前に迫るノエルを見下ろしながら構えていた。
しかし、竜はわずかに後ずさったり、身体の向きを変えたりしていた。
互いに、決して相手を視界から外さない。
「――だったら。」
ルイは強く地面を蹴った。
大きく進んだかと思えば、軽快に足踏みをする。
そして、再び地面を強く蹴る。
そんな繰り返しを、不規則に。
竜を睨み返すように、その姿を視界の端に捉えながら――
ルイはひたすら走り回った。
結局、ルイが逃げ回ることに変わりはありません。
とはいえ、今回は逃げ回ることが攻撃的戦術になりましたので、たぶん進歩しました。
うーん、ルイがスカッと活躍する日、それはいつになるのでしょうか(`・ω・´)




