第9話 馬車に揺られて
移動を考えるのは難しいです。
蒸気機関車なども皆無ではなくとも、敵性存在がいると網目にはできず(ーー;)
体力の温存や小回りの都合で、今回は馬車です。
ルイは、馬車の席に座りながらうなだれていた。
その隣で、ノエルは微笑しながらルイの様子を見守っていた。
それから、ルイは盛大にため息をついた。
そんなルイの様子にも、ノエルは変わらず微笑を湛えていた。
やがて、気まずくなったのだろうか――ルイはノエルの方を向いて言った。
「ノエルさん……その、あまり見つめられても困ります。」
「ああ、ごめん。ルイ君を見ているだけで楽しくて、つい。」
悪びれる様子なく言うノエルに、ルイは確かめるようにたずねた。
「ボクたち……本当に、竜を討伐しにいくんですよね……?」
「そうだよ。」
一言で返したノエルに、ルイは再びうなだれた。
「ですよね……」
「片道で三日、現地で一日の予定だから、少なくとも三日は生きられるよ。」
ノエルがそう言ってケラケラと笑ってみせると、ルイはジト目で返した。
「ボクは死ぬ前提ですか……」
「生き残る気がない場合は、死ぬかもね。」
さらっと言い切ったノエルに、ルイは口を尖らせた。
「そんなわけないでしょ。」
「あはは、その意気だよ。」
ノエルが目を細めると、ルイは言った。
「でも、竜の討伐って……そもそも、していいことなんですか?」
ルイの言葉を受けて、ノエルは少しだけ首をかしげた後、言った。
「――あぁ、もしかして、知性体の竜族だと思ってる?」
「……え?いや、知性がない竜って……いるんですか?」
ルイが驚いた様子でノエルにたずね返すと、ノエルはうなずいた。
「なるほど、その説明が必要だったね。」
「ごめんなさい。」
ルイが神妙な顔をすると、ノエルは頭を振った。
「謝らなくていいさ。――確かに、獣としての竜は、教養の範疇じゃないね。」
「獣としての竜?」
ルイがオウム返しに応えると、ノエルはうなずいて続けた。
「ルイ君が思っている通りさ。竜族は本来、知性や理性があって、種全体としては円熟している――けれども、知性や理性を手放してしまう個体もいる。」
「えっ?そんなことが……?」
ルイが絶句すると、ノエルはうなずいた。
「――人間族も、竜族も、そこから壊れるときは壊れるのかもね。」
「……」
ルイが黙っていると、ノエルは続けた。
「そして、獣と化した個体は辺境の地に追放されるってわけ。」
「……そうなんですね。」
相槌を打ちながら、ルイの表情が暗くなった。
その様子にノエルは首をかしげた。
「どうしたんだい?――気分のいい話じゃないのは確かだけど。」
ノエルの言葉に、ルイは頭を振った。
「いえ、ちょっと……」
ルイは、胸元の五芒星の骨格を象った首飾りを握った。
その様子を見て、ノエルは微笑した。
「あぁ、ごめん。そういうことだったんだね。」
「えっ?」
ルイが驚いたようにノエルの顔を見つめると、ノエルは苦笑した。
「君、五芒星教団を抜けたんだね?」
「――っ。……はい。でも、どうして?」
ルイがたずねると、ノエルは肩をすくめた。
「五芒星の首飾りなんて、教団の関係者くらいしか身につけないよ。」
「うっ。」
ルイが気まずそうな表情をすると、ノエルは続けた。
「その上、基盤の金属がない。つまり、教団には属していないけど、教えは抱いているって意思の象徴だよね?」
「……はい、その通りです……。」
それから、ルイは目を瞑って、小さく息を吐くと目を開いて言った。
「変に気を遣われても困りますので――ボクは、五芒星教団を破門されました。」
「……そうなんだ。」
ノエルが相槌を打つと、ルイは続けた。
「だから、追放という言葉につい、動揺してしまいました。」
「ごめん、それは、古傷に触れることをしちゃったね。」
ノエルが再び謝ると、ルイは頭を振った。
「いえ、それはボクの問題ですから。」
そう言い切ったルイに、ノエルは微笑して、それから言った。
「じゃあ、僕も打ち明け話をしようか。」
「えっ?」
ルイが目を丸くすると、ノエルは苦笑した。
「君の勇気ある告白に、応えたくなっただけだよ。僕の美意識がね。」
「は、はぁ……」
ルイが困惑気味に応えると、ノエルは肩をすくめて目を細めた。
「あはは。――こんな僕でも、かつては外見的な美の虜――いや、奴隷だったって話だよ。」
「えっ、でも……見た目がいい人には目が行きますよ?」
ルイが首をかしげると、ノエルは頭を振った。
「その頃の僕は、大きく逸脱していたよ。――何しろ、僕は自分の造形には自信がある。」
「自分で言っちゃうんですね……しかも、現在進行形。」
ルイが苦笑すると、ノエルは微笑した。
「僕自身も、僕の造形を気に入っているからね。――その自信が行き過ぎて、僕を飾るのに相応しい相手を求めて浮名を流していた時期があるってこと。」
「それはまた、男女問わず敵を作りそうな顛末ですね……」
ルイがこめかみを押さえながら言うと、ノエルは苦笑した。
「実際に、男女含めて様々な理由で、七回くらい、ひどい目にあったかな?」
「な、七回……」
ルイが半眼で絶句すると、ノエルは目を細めた。
「――だけど、その過去があるから、長く続く美を、それを内面や精神、在り方に求める今の僕がある。」
「……あっ。」
ルイが目を見開いてノエルを見ると、ノエルは微笑した。
「ルイ君の過去が、いつか今を肯定するための礎だったと思える日が来てほしい、って思ったよ。」
「……とりあえず、今は生きて戻りたいです。」
ルイが、顔をフイと背けてそう言うと、ノエルは吹き出した。
ノエルはナルシストというよりも、自己肯定感の高い人。
形から入ること自体はおかしなことではありませんし。
ルイも形式から入って、盛り上がって――破門されましたし。
いろんな意味で、ノエルはルイのいい先輩です(`・ω・´)
【追記】誤字(意図と違う漢字)を見つけたため、修正しておきました(ーー;)
✕「君の勇気ある告白に、答えたくなっただけだよ。僕の美意識がね。」
〇「君の勇気ある告白に、応えたくなっただけだよ。僕の美意識がね。」




