第8話 二つ名を自ら名乗る冒険者
「雅客」――風雅を理解し愛好する人。つまり風流人。
あと、水仙の別名でもあります。
まあ、ナルキッソス神話を共有しているわけではないので、メタですが(`・ω・´)
朝、冒険者ギルドの受付に訪れたルイは、ルナークにたずねた。
「ねえ、ルナーク君。ギルドの受付って、郵便機能はあるの?」
「ええ、あります。――冒険者の確実性の高い連絡先の一つなので。」
ルナークがうなずくと、ルイは安心した様子で封筒を差し出した。
「よかった。じゃあ、この手紙を送ってほしいな。」
ルイが差し出した封筒を一瞥して、ルナークは微笑した。
「祖国への手紙ですね。――緊急性のほどは?」
「低いね。もちろん、早く届いてくれるに越したことはないけど。」
ルイがそう言うと、ルナークはうなずいた。
「わかりました。中銅貨と小銅貨、それぞれ1枚ずつお願いします。」
「うん。わかった。」
ルイは中銅貨と小銅貨を1枚ずつ取り出すと、ルナークに渡した。
ルナークはそれを受け取って微笑した。
「それでは、承りました。」
ルナークは席を立ち、封筒を受付の背後にある戸棚に収納した。
それから、戻ってきて席につくと、ルイがたずねた。
「でも、思ったより安いね。」
ルイが不思議そうな様子で言うと、ルナークは肩をすくめた。
「緊急性が低ければ、陸路にせよ海路にせよ、定期便に乗せるだけですから。」
「なるほどね。」
ルイは相槌を打った。
不意に、ルナークは何かに気づいたかのように、ルイの後ろに目をやった。
その様子を見て、ルイはたずねた。
「どうしたの?」
「今日から組んでいただく白銀の冒険者の方が来ましたよ。」
ルナークの言葉を受けて、ルイは振り返った。
頭部以外の全身を覆う紋様付きの白い鎧を纏った、金髪碧眼の青年が歩いてくる。
しかし、その足取りは鎧の重量を感じさせないほどに軽やかだった。
ルイが言葉を失っていると、青年はそのまま受付台に向かって歩いてきた。
青年は、ルイの隣に立つとルイに視線を落として微笑した。
それから、ルナークの側に向き直った。
ルナークが頭を下げた。
「ノエルさん。突然のお願いにもかかわらず、快諾いただき感謝いたします。」
「どういたしまして。ルナーク君の頼みだからね。」
金髪の青年・ノエルが微笑すると、ルナークは肩をすくめた。
「それでは、紹介しましょう。ノエルさん、こちらがルイくん――先日、青銅階位に認定されたエテルナ冒険者ギルドの参入者です。」
「あっ、よろしくお願いします。ルイです。」
ルイが我に返って名乗ると、ノエルは微笑した。
それから、ルナークは続けた。
「そしてルイくん、こちらがノエルさん。現在、白銀の第一位の冒険者です。」
ルナークの言葉を受けて、ノエルはルイに手を差し出した。
「こちらこそよろしく。ルイ君。僕はノエル。人呼んで『雅客のノエル』。」
ルイがノエルの手を取り、握手を交わしていると、怪訝な顔をした。
「……え?……が、雅客……?」
見るからに困惑した様子のルイに、リックが軽く肩をすくめながら言った。
「あまり深く考えない方がいいよ、ルイ。それ、自称だから。」
「あっ?……えっ?じ、自称……?」
ルイは完全に混乱してしまったのか、目を白黒させていた。
そんなルイをしり目に、ノエルは苦笑した。
「自称で結構さ。呼ばれるならば、望む通り名で呼ばれたいからね。」
ルイは、ルナークとリックに助けを求めるように目配せした。
しかし、ルナークがため息をついて頭を振った。
「同感ですね。ぼくなどこんなにもかわいらしいのに、一部の方は『受付の暴君』などと、甚だ心外な渾名で呼んでくださるのですから。」
リックはこめかみを押さえて、それからルイに言った。
「ルイ、ルナークがこれじゃ収拾がつかないから僕が説明するね。」
「あっ、うん。よろしく。」
ルイがリックに目をやった――というよりも他の二人から目をそらした。
すると、リックが続けた。
「まず、冒険者が編成を組むことはできる。で、昨日のルナークの補足をすると、青銅の冒険者以下の階位だと、編成が必要な依頼を受けられないんだ。」
リックの言葉に、ルイはポンと手を叩いた。
「ああ、編成が求められる――ある程度、高難度の依頼ってことだね。」
「……まあ、大雑把にはそういうことだね。」
ルイの応答にうなずいて、リックは続けた。
「ただ今回の場合、依頼を複数名で受けるだけだから問題ない。」
「それなら、青銅階位同士でもできるってことだね?」
ルイが念を押すようにたずねると、リックはうなずいた。
「ああ。ただ、その場合は、受付で編成と報酬の配分を決めておくんだけどね。」
「報酬の配分。」
ルイが繰り返すと、リックは苦笑した。
「予め決めて、証人を立てておかないと揉めることもあるからね。」
「そういうことはあるよね……」
ルイが神妙な顔でうなずくと、リックは苦笑した。
「まあ、今回のルイの取り分は、報酬から計算される最低の金額だけどね。」
「あー……階位の差かぁ……」
ルイが苦笑すると、リックは微笑した。
「そういうこと。さすがに五階位も違うと、依頼の難易度に対して下の階位の人が本質的な貢献はできない前提だから。」
「たしかに、例外中の例外を全部気にしていると、基準を決められないよね。」
ルイが納得したようにうなずくと、ノエルが唐突に言った。
「じゃあ、ルイ君の取り分に配慮して、竜の討伐依頼でも受けようか。」
「――はい?」
ルイは、ノエルの突然の発言に間の抜けた声を漏らしたあと、絶句した。
それから、リックに目を向けた。
ルイと目が合ったリックは、すぐに瞑目して頭を振った。
ルイは、その場に膝をついて打ちひしがれた。
ルナークがボケに回ると、進行が難しくなります。
安定のツッコミはリックだけです。
まあ、最後はさじを投げましたが(`・ω・´)




