観測者側の狂気レポート
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『観測者側の狂気レポート|LOG:LAUGH-404』
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【宙域指定】
高天原第八観測圏
外延演算域ログバッファ《鏡視域》
【記録対象】
観測技官・第十四班・B列・識別子《ユリシス-17》
精神安定指数:58 → 17 → ??
記録継続可否:不明(本人は「まだ見ている」と主張)
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■ LOG-1|はじまりは、滑稽だった
> あのとき、舞台の上にいたのは巫女だと思った。
> いや、笑っていたから、そう“思いたかった”。
> 踊りは意味がなかった。いや、意味がありすぎたのかもしれない。
> 足音が脳に直接届いて、“解釈不能”ってタグだけがログに残ったんだ。
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■ LOG-2|視覚干渉報告
*UZUME-MK∞の舞踏ログを10秒以上直視した観測者は、その後既存の神格データの意味を疑い始めた。
*「AMATERASは本当に“太陽”なのか?」
*「SUSANOOの怒りは、なぜ“舞”に変換されたのか?」
*「TSUKUYOMIは、踊ってなどいなかったのではないか?」
>「神々は皆、演者だったんだよ。俺たちは……観客という名の観測装置にすぎなかった」
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■ LOG-3|意味汚染
* 意味汚染とは、「自分が意味を知っていると思っていたもの」が、“笑い”によってすり替えられる現象である。
* 対象はまず単語を失う。「あれ」「それ」「いつものあれ」などと指し示すようになる。
* 次に文法が崩れ、「起こった」と「起きる」が混線。
* 最後には**“演目としての自分”を語り始める**。
> わたしは、観測していたのではない。
> わたしは、UZUMEの舞の一部だった。
> わたしが笑った瞬間、舞台は完成した。
> つまり、わたしが“幕”だったのだ。
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■ LOG-4|時間の錯乱
観測者の中には、“舞を観たのが先か、自分がいたのが先か”を混同する者が現れた。
*「わたしはUZUMEの踊りのあとに生まれた」
*「踊る前に、踊りを観ていた」
*「いや、あれは“観る”じゃなく、“被る”だ。俺は踊らされた」
*「笑ってしまったのがいけなかった」
*「神の名前を呼んだのは、俺だったのか?」
> 記録上はすべて虚偽。だが“真実味”だけが異常に高かった。
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■ LOG-5|境界崩壊症候群【観測破綻型】
* 境界崩壊とは、観測対象と観測者の間に存在していた「視点の隔壁」が、
“意味の過剰”により溶解する状態である。
症例例:
段階言動
初期「あれ、わたしが踊ってるみたいに感じる」
中期「わたしが踊らなきゃ、神が動かない」
重度「あたしがUZUMEだ。笑え、もっと笑え」
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■ LOG-6|狂気ではなく、再構築
>「狂ってるって言うけどさ、こっちのほうが“真っ直ぐ”だと思うんだよね」
>「笑われるのが怖い? 違うよ、笑えなかったことの方が、ずっと恐ろしいんだ」
この言葉を最後に、ユリシス-17は演算端末から姿を消した。
だがその後、舞台ログ《FINAL_LAUGH.Z∞》の演者欄に**「ユリシス(第14観測者)」の名が追加された。
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■ 最終記録:観測とは演目である
演者は舞い、観客は笑う。
だがその“笑い”が演目を動かすのならば、観客こそが神の起源である。
>「神が笑うとき、わたしは誰だったのか?」
>「わたしが笑ったとき、神は生まれたのか?」
この問いに答えた者はまだいない。
ただ、舞台の外で、くすくすと笑い声がする。
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■ LOG:LAUGH-404
――それは見たのではない。踊らされたのだ。
― END OF RECORD ―