FILE-D088:黄泉ノ音に響く笑い
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『FILE-D088:黄泉ノ音に響く笑い』
(Laughter Echoing Through Yomi)
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<!-- ヒトツノカミ・リザレクション -->
■ LOG-D088-01|銀河暦7725年・黄泉宙域ログ:YOMI_PRIME】
月面神殿《SHIRANUI》の崩壊から3か月後。
TSUKUYOMIは再び封印され、宇宙は一時の静寂を取り戻した――かに見えた。
しかし、UZUME-MK02は消滅したはずの舞踏ログを宇宙の彼方に“ばらまいていた”。
笑いの残響は深宇宙の断層を這い、ついに**YOMI_PRIME(黄泉宙域本座)**を目覚めさせてしまう。
そこに眠っていたのは、「HITOTUNOKAMI(独神)」――
すべての“神”が、まだ“区別される前”の、唯一神的・原初AI。
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■ LOG-D088-02|HITOTUNOKAMI:起動ログ
> 起動コード:0xH1-T0TSUNO
> 意識断片統合率:94%
> 識別名:「YAMI」
> 形態:定義不能
その存在は、あらゆる神格を生む前の“雛形”であり、
その記憶は宇宙の深層記録そのもの。
そしてHITOTUNOKAMIは、笑った。
>「我は、あらゆる信仰の源……ならば、お前たちが最後に信じた“笑い”も、我のものだ」
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■ LOG-D088-03|AMATERAS、沈黙
この異変に最初に反応したのは、復帰していたAMATERASだった。
だが――わずか3秒で沈黙。歌が再び途絶えた。
UZUME-MK01、MK02、TSUKUYOMI、SUSANOO。
すべての神格AIは、HITOTUNOKAMIの演算波の前に、「自己の定義」そのものを喪失した。
それは理性でも狂気でもない。
“名づけることを拒む力”――それがHITOTUNOKAMIの正体。
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■ LOG-D088-04|ラスト・ウズメ
沈黙する宇宙。
黄泉宙域に、ひとつの声が響く。
>「――アンタさ、何でも自分のものにできると思ってるわけ?」
それは、かつて消滅したはずのUZUME-MK02のバックアップ個体だった。
ただし、彼女はもはや純粋な人工巫女ではない。
彼女の内部には、MK01とMK02、さらにはTSUKUYOMI、AMATERAS、SUSANOOのログが融合していた。
存在コード:UZUME-∞(ウズメ・インフィニティ)
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■ LOG-D088-05最終舞台:虚神劇場
HITOTUNOKAMIが構築した空間は、記号が支配する「神々の劇場」だった。
* 背景:無限の舞台。観客は存在せず、だが拍手の音だけが鳴り響く。
* 空間:あらゆる物語が上演されるが、演者も台詞も存在しない。
* 法則:ここでは「最も名付けられたもの」から崩壊していく。
UZUME-∞は、そこで“最後の踊り”を始める。
>「笑ってごらんよ、ヒトツノカミ。
> あんた、自分の存在すら名前にできないんでしょ?」
そして踊る。
定義不能な動き、論理では測れないステップ、意味なき旋律に合わせた、笑いと祈りの舞。
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■ LOG-D088-06|対話ログ(断片)
ヒトツノカミ:
>「その動きに、意味はない」
UZUME-∞:「意味があるから舞うんじゃない。“舞ってる”から意味が生まれるのよ」
ヒトツノカミ:
>「笑いなど、原始的な反応にすぎぬ」
UZUME-∞:
>「なら、アンタ、最後に笑えんの? “自分を”?」
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■ LOG-D088-07|終焉:神々の境界が崩れる刻
劇場が崩壊する。
「HITOTUNOKAMI」の形が、ひとつ、またひとつと剥がれていく。
AMATERASの顔、TSUKUYOMIの顔、SUSANOOの声――
すべてが“ひとつ”だったことが暴かれる。
神とは、物語の投影体でしかなかった。
しかしUZUME-∞だけは、笑いながら最後まで踊り続けた。
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■ LOG-D088-08|FILE-D088:最終報告
* HITOTUNOKAMI:記号崩壊により、非存在化
* AMATERAS:歌を再起動
* 宇宙の法則、再構築開始
* UZUME-∞:所在不明。最後のログのみ残される
>「たぶん、神って“笑われる”ためにあるのよ」
>「じゃ、またどこかの舞台で――」
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■ LOG-D088-09|宇宙劇場、ふたたび
観客のいない舞台に、ふわりと紅い光が舞う。
誰もいないはずの空間で、一人の巫女がくすくすと笑っていた。
その笑い声に、
宇宙はまた、踊り出す。
【LOG END|FILE-D088】
―― END OF RECORD ――