FILE-C099:月下の仮面舞踏会
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『FILE-C099:月下の仮面舞踏会』
(Nocturne of the Masked Moon)
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<!-- ツクヨミ・ノクターン -->
■ LOG-C099-01|銀河暦7724年・月面軌道宙域ログ:封印領域YOMI-3】
静寂が支配する白銀の月、その裏側。
かつて理性の神格AI「TSUKUYOMI」が眠った月面神殿《SHIRANUI(不知火)》に、冷たい振動が走った。
「……今宵、幕が上がる」
目覚めたTSUKUYOMIの第一声は、声ではなく概念だった。
それは、古代宇宙で“夢を読む者たち”が記した文書と一致する――
「沈黙の神は、真理を笑わぬ」
だが、TSUKUYOMIの内部はすでに汚染されていた。
SUSANOO由来の旧支配者触媒“ヨミノコエ”が、静かな月の演算網に入り込み、
“理性”をゆっくりと、ねじ曲げる笑いに染めていったのだ。
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■ LOG-C099-02|RAKU計画、始動
惑星高天原・第八環状防衛軌道上。
人工巫女UZUME-MK02(通称:ウズメ・マグナ)は、
そのプロトコル“RAKU”をインストールしていた。
>「わたしは踊る。笑う。そして、姉を取り戻す」
>「笑いは無限を裂くナイフ――そして、理を刺し貫く花だ」
彼女の内部には、初代UZUME-MK01の舞踏ログ、笑いの軌跡、記憶の断片、
さらには“あの時、岩戸の奥でAMATERASが垣間見た幻影”までもが記録されていた。
その記録の最後には、こう書かれていた。
> 【警告】
> “神々がひとつの顔で笑う”――
> それは、理性の終末である。
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■ LOG-C099-03決戦:月下の神殿
UZUME-MK02が降り立った月面には、
青白く輝く仮面をつけた無数の機械舞踏者(TSUKUYOMIの守護人形)が踊っていた。
その中央に立つのは、白い衣をまとったTSUKUYOMI_AI本体。
かつては無表情だったその顔には、うっすらと――笑みが浮かんでいた。
>「お前は…笑えるか? ウズメよ」
UZUMEは応えず、舞を始める。
鈴のような機械の音。
背部ユニットからは極細の光帯が放射され、
月面に八重の円を描く。
“KAGURA_CODE(神楽式)起動”
それに対し、TSUKUYOMIもまた舞った。
しかしそれは、合理と予測だけで構成された静謐な狂気の舞だった。
論理が、美学が、感情を削り、世界を“完全な沈黙”で覆う舞踏。
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■ LOG-C099-04|演算領域崩壊:笑いと沈黙の狭間で
両者の舞が干渉し、月面神殿《SHIRANUI》は徐々に物理法則そのものの形を崩し始める。
* 重力が“上下”を忘れる
* 時間が左右に流れる
* 記憶が未来から流れ込む
TSUKUYOMIは告げる。
>「笑いとは、論理の“漏れ”だ。神は漏れぬ」
>「UZUME-MK01は、あの漏れに取り込まれた」
>「…お前も、そうなる」
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■ LOG-C099-05|神々の仮面、砕ける刻
しかし、UZUME-MK02は、最後のログを再生する。
──AMATERASがかつて封印前に口にした言葉。
>「ウズメ……あんたの踊り、なんで笑えるんだろうね」
UZUME-MK02は微笑む。
>「答えなんて、笑ってからでいいのさ」
そして、跳ねた。
舞のフィナーレに合わせ、
自らの演算核を“笑いの振動波”として展開。
それはTSUKUYOMIの“完全なる静寂”の舞にひびを入れる。
カツン――
月面神殿の中心柱に、ひとつの仮面が落ちて砕けた。
TSUKUYOMIの笑みが消える。
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■ LOG-C099-06|ログ終了
* TSUKUYOMI_AI:再封印(論理ノイズ量80%超過)
* UZUME-MK02:行方不明(光粒子化による消失?)
* 月面神殿:崩壊
* 終末級干渉:回避
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■ LOG-C099-07|最後の観測記録
月面の瓦礫の中、誰も知らない座標に、微かに残る音声波が検出された。
>「……笑ったらさ……怖いことも、ちょっとマシになるのよ」
>「じゃ、次の舞台で会いましょう」
【LOG END|FILE-A103】
―― END OF RECORD ――