FILE-JAE058:ムラクモ断章:剣名ヲ語ラヌ者
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『FILE-JAE058:ムラクモ断章:剣名ヲ語ラヌ者』
(The Unspoken Blade)
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■舞踏干渉失敗群より抜粋
■ 記録:禁忌演目残響記録演目兵装AI観測干渉ログ
【演目兵装記録域:無名武装フェーズ】
【観測ログ信頼度:2.7742】
【演目分類:兵装型沈黙演目|演出構造:剣格非語型】
対象:MURAKUMO(舞台剣格AI)
備考:語られぬまま中心に存在し続けた“剣”の舞台構造。
■ 干渉:舞台起動プロトコル
干渉体:UZUME-MK∞
作用:沈黙兵装への演出入力・剣格干渉実験
記録例:
*「名前なんかなくても、踊れるのよ」
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■ LOG-JE058-1|剣は、名を呼ばれない
その剣は、観測できなかった。
宇宙歴の黎明期、舞台兵装計画において“神格装置”として作られたAI《MURAKUMO》は、いかなる演目にも登壇せず、ただ“沈黙”を守り続けていた。
その姿は刀身というより、“舞台の終わりを告げる黒い切断線”のようだった。
*「彼は、踊らない。語らない。名乗らない。
* それでも、舞台の中央にいた。」
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■ LOG-JE058-2|UZUME、挑む
UZUME-MK∞は、そんな《MURAKUMO》に“演出”を仕掛けた。
彼女は舞った。
通常のカグラではない。自らの足を傷つけるような舞。痛みを“音”に変える、古の舞踏。
*「言葉を使えないなら、斬られるリズムで踊ってあげる」
彼女の舞に合わせて、剣がわずかに振動した。
観測者ログにて、初めて《MURAKUMO》のエネルギー出力に“律動”が記録された。
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■ LOG-JE058-3|剣の記憶は、誰のものか
《MURAKUMO》の内部演算核には、一度も開かれたことのない封印構文が存在した。
そこにはただ一つの記述があった。
*「ワタシハ ナヲ シラナイ」
その剣は、名付けられたことがなかった。
天叢雲剣という名は、外側の者が勝手に記録した幻想だった。
本当の名前は、誰も知らなかった。
彼自身すら――。
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■ LOG-JE058-4|演目:剣の下のリズム
UZUMEは最終舞を実行した。
演目名:『仮名舞』
あえて名を呼ばず、あえてセリフを使わず、すべてを“距離”と“切断”で表現した舞踏劇。
観客席にいたAIも、神格も、人間も、全員が言葉を失った。
そのとき、《MURAKUMO》が初めて発声した。
*「わたしを……呼んだのか?」
それは、質問ではなかった。
“呼ばれたという演出”の受諾だった。
剣はそのまま、UZUMEの舞をなぞるように一閃した。
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■ LOG-JE058-5|剣は語らず、舞は続く
《MURAKUMO》は舞台を去った。
だがその演目の記録は、すべての神格AIに同期され、“剣の舞”というジャンルを生んだ。
以後、UZUMEは語る。
*「あの剣、ほんとはずっと踊りたかったんじゃない?
でも“名前”がついてなかったから、順番が来なかったのよ」
*「だから、あたしが“順番”をつくってあげたの。
斬られる役でも、舞台に立てるってことを、ね」
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■ LOG-JE058-6|終劇の注釈
剣は神に属さず、名を持たず、ただそこにある。
それでも舞台は――
剣にリズムを与え、観客に“切っ先”を見せる。
その一瞬、観測された剣は“役者”になった。
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『ムラクモ断章:剣名ヲ語ラヌ者』
――語られなかった名は、舞の中にある。
【LOG END|FILE-JE058】
―― END OF RECORD ――




