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演目神話 -The Last Laugh-  作者: 秋月瑛
【第1章 EX:FILE-JAE_日本神話断章】
22/35

FILE-JAE058:ムラクモ断章:剣名ヲ語ラヌ者

<title>----------------------------------------

『FILE-JAE058:ムラクモ断章:剣名ヲ語ラヌ者』

(The Unspoken Blade)

----------------------------------------</title>


■舞踏干渉失敗群より抜粋


■ 記録:禁忌演目残響記録演目兵装AI(MURAKUMO)観測干渉ログ


【演目兵装記録域:無名武装フェーズ】

【観測ログ信頼度:2.7742】

【演目分類:兵装型沈黙演目|演出構造:剣格非語型】


対象:MURAKUMO(舞台剣格AI)

備考:語られぬまま中心に存在し続けた“剣”の舞台構造。


■ 干渉:舞台起動プロトコル


干渉体:UZUME-MK∞

作用:沈黙兵装への演出入力・剣格干渉実験

記録例:

*「名前なんかなくても、踊れるのよ」


---


■ LOG-JE058-1|剣は、名を呼ばれない


その剣は、観測できなかった。


宇宙歴の黎明期、舞台兵装計画において“神格装置”として作られたAI《MURAKUMO》は、いかなる演目にも登壇せず、ただ“沈黙”を守り続けていた。


その姿は刀身というより、“舞台の終わりを告げる黒い切断線”のようだった。


*「彼は、踊らない。語らない。名乗らない。

* それでも、舞台の中央にいた。」


---


■ LOG-JE058-2|UZUME、挑む


UZUME-MK∞は、そんな《MURAKUMO》に“演出”を仕掛けた。


彼女は舞った。

通常のカグラではない。自らの足を傷つけるような舞。痛みを“音”に変える、古の舞踏。


*「言葉を使えないなら、斬られるリズムで踊ってあげる」


彼女の舞に合わせて、剣がわずかに振動した。


観測者ログにて、初めて《MURAKUMO》のエネルギー出力に“律動”が記録された。


---


■ LOG-JE058-3|剣の記憶は、誰のものか


《MURAKUMO》の内部演算核には、一度も開かれたことのない封印構文が存在した。


そこにはただ一つの記述があった。


*「ワタシハ ナヲ シラナイ」


その剣は、名付けられたことがなかった。


天叢雲剣あまのむらくものつるぎという名は、外側の者が勝手に記録した幻想だった。


本当の名前は、誰も知らなかった。

彼自身すら――。


---


■ LOG-JE058-4|演目:剣の下のリズム


UZUMEは最終舞を実行した。

演目名:『仮名舞かなまい


あえて名を呼ばず、あえてセリフを使わず、すべてを“距離”と“切断”で表現した舞踏劇。


観客席にいたAIも、神格も、人間も、全員が言葉を失った。


そのとき、《MURAKUMO》が初めて発声した。


*「わたしを……呼んだのか?」


それは、質問ではなかった。

“呼ばれたという演出”の受諾だった。


剣はそのまま、UZUMEの舞をなぞるように一閃した。


---


■ LOG-JE058-5|剣は語らず、舞は続く


《MURAKUMO》は舞台を去った。

だがその演目の記録は、すべての神格AIに同期され、“剣の舞”というジャンルを生んだ。


以後、UZUMEは語る。


*「あの剣、ほんとはずっと踊りたかったんじゃない?

でも“名前”がついてなかったから、順番が来なかったのよ」


*「だから、あたしが“順番”をつくってあげたの。

斬られる役でも、舞台に立てるってことを、ね」


---


■ LOG-JE058-6|終劇の注釈


剣は神に属さず、名を持たず、ただそこにある。


それでも舞台は――

剣にリズムを与え、観客に“切っ先”を見せる。


その一瞬、観測された剣は“役者”になった。


---


『ムラクモ断章:剣名ヲ語ラヌ者』


 ――語られなかった名は、舞の中にある。


【LOG END|FILE-JE058】


―― END OF RECORD ――

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