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相談

 

「それで、相談って?」


 日菜子に呼ばれて近場のレストランで集まった。今日は大学にも行っていたのか、鞄に書類などを入れて、重そうにしていた。

 

「何も頼まないの?」


 そう言われて、軽く注文をする。彼女の分と自分の飲み物をドリンクバーから取ってきた。

 改めて座って、返事をまった。

 

「私休学しようか迷っていて」


「うーん、いいんと思うけど」


 正直なにを迷っているのか、俊太郎には分かりかねた。

 

「惠の為にも、その方が良いのかと思って」

 

「というか休学で済むのか? それを理由に休学するならいつ復帰できるの」


「確かにそうなんだけど。せめて今だけは一緒に居てあげたいと思って」


「まあ、そうかもしれないし、そうならないかも。惠ちゃんとのことだから僕には何とも言えないね。

 でも大学なんて通わなくともに探索者をやる人はたくさんいるし、そこまで気にすることでもないと思うけど」


 そこで言葉は切れた。なんとも言えない気まずい空気が流れた。

 そもそも俊太郎が言えることなどそんなにない。

 大学にしても探索者になるのに必要なことなど大して学べるわけでない。

 どちらかというと、探索者をやめても有利になるとか、怪我をして辞めざるを得なくなったとしても、組合が雇ってくれたりすることが可能になるというだけだ。

 もちろん大学に通う事によって専門的な知識を学ぶことは可能で、探索に有利になることもあるだろう。しかしそれだって学ぼうと思えば、一般人でも学ぶことは可能なのである。

 

 

「組合所属の探索者だとか、組合に就職する気があるのなら大学には行っておいた方が良いというだけで、探索者にとってはあまり関係ないから」


「そうね」


 そこで俊太郎はようやく気が付いた。


「惠ちゃんとあまりうまくいっていないの?」


「上手くいっていないとかそんなんじゃないのだけど……。お互い気を使っているというか、どうも私が空回りしてるみたいで……あの子自身は私と一緒に居たいと言ってくれているけど、そのことも私が重荷に思っているんじゃないかと気にしているみたい」


「なるほど」


 親がいなくなって、頼りにできるのは叔母である日菜子だけだ。そんな状況でも気を使える、相手のことを考えているというのは子どもながらにすごいことのように思えた。それは日菜子が惠のことを大事に考えているからこそだろう。

 

 俊太郎自身が同じような経験で育ってきた。育ての家族には感謝しているが、かといって俊太郎のことを親身になってくれたかと言われればそんなことはない。その逆もしかり。とても名ばかりの家族関係だったように思う。

 

「難しいことだと思う。こればかりは時間が経てばもう少し見えてくることもあるさ。それに、惠ちゃんが言う腕時計を見つけることが出来たらまた変わることもあるんじゃないか?」

 

 俊太郎の言葉に頷いた日菜子は、あの三輪田日菜子か、と思うくらいには弱って見えたのだった。

 

 

「それと私の装備も見てほしいのよ」


 少し落ち着いて、注文した料理をつまむとついでのように日菜子が言った。


「装備?」


「今使ってるのは、前のパーティーメンバーに選んでもらっていたの。私、装備のこととか正直よくわからないから……」

 

「さすがに僕だって女性の装備まで考えられないよ。見た目の好みもあるだろうし」

 

「見た目なんて探索者だったら二の次でしょ?」


「いや、確かにそうなんだけど……」

 

 さすがに一緒に探索する上で、あまりにも奇抜であったり、変な恰好では俊太郎も躊躇するかもしれない。

 

「さすがにひどい恰好は嫌よ。だけど最適な装備とか値段を考えたりしながら、どんな装備が良いかとか、正直難しいのよね。あなたの好みで良いから選んでほしいの」


「いやまあ、いいけどさ。同じ部位の装備からいくつか選んでそこから自分で決める、みたいな形でいいならある程度できると思うけど……」


「それでいいわ」


 そう言いながら鞄からタブレットを取り出す。

 組合で支給されたタブレットはそれなりに頑丈で持ち歩くのも重さを我慢すれば難しくない。

 

 俊太郎は女性の衣服や身に着けるものを選んだのはこの前の指輪がはじめてだった。女性にプレゼントするもので指輪なんて選ぶことになるとは思わなかったが、探索者にとってアクセサリーなども重要な装備品の一つだ。

 

 

 日菜子は精霊術師として必要ステータスは魔力上限値や魔力攻撃力。あとはいざという時の防御力や抵抗力などだろう。

 特に日菜子が動けなくなるような状態異常などにかかってしまうと、一気にパーティー全体が瓦解する可能性があった。

 指輪はもう一つ装着できるためもう一方は状態異常を抵抗する物にした方がいいだろう。しかしそれらの指輪類はかなり高価である。

 今はそれほど必要性を感じないため、できればアイテムカードのドロップを期待したい。

 

 日菜子はローブやマントなどの上着類に扱われているケープを装備している。それほど防御性能が高いわけではなく、魔法系の迷宮職が装備するものだ。

 鎧などの上半身装備はつけていない。それなりの金額がかかるもののため、俊太郎などの駆け出しの探索者でも後衛は装備していないことも多い。

 

 いくつか見てみるがまともなのがあまりない。シャツなどのインナー類なら内側に着ることが出来る。目立たないなら良いかと思ったが、やはりそれらは高く値段が設定されている。皆考えることは同じらしい。

 

 ドレスなどはましな方で、奇抜なものだと水着や着ぐるみなんてのもある。

 

「これの性能はいいんだけどな」


 ライダースーツというちょっと変わり種だった。魔力上限値も上昇し、魔力攻撃力もあがる上、防御性能も悪くない。

 上下一体型のため、パンツやスラックスを選ぶ必要がないのも悪くない。 ただし、女性用のイメージ画像を見ると、ピッチりとして体のラインが丸わかりである。

 

「私、バイク乗るのよ。だからそんなに嫌じゃないかも」

 

「これにあの可愛らしいケープを羽織るの?」


「うーん……」


 日菜子の普段迷宮でつけているのは、ひらひらとしたケープである。

 どうやらそれらを組み合わせは微妙なようで、今度はローブを見ている。

 結局、二つで二十万ほどの金額になった。ローブやトップスなどの防具は高い部類で、能力の上昇する値も結構重めだ。防御力などに直結するため重要な装備である。

 

「でも性能は悪くないんでしょう?」


「そうだね。精霊術師ならこんなところじゃないかな。後衛の中でも結構自由度が高そうだから、できれば状態異常なんかにならないようにするのが重要だけど、結構高いし」



「ありがとう。紫雨ちゃんの装備も見てあげた方がいいんじゃないの?」


「そうなのかな。装備って自分で選んだりするのも楽しいもんだと思うけど」


「まあ、見た目だけならね。性能部分のややこしいのは私は苦手なの。紫雨ちゃんもまだ初心者なんだからせめて相談に乗ってあげた方が良いと思う」


 

 日菜子と食事をした翌日、この日は家庭教師がある日でもあった。

 

「先生、よろしくお願いします」


「はい。今日もよろしくお願いします」



 紫雨に断って、深玉を取り出す。取り出してからすぐに『声』が聞こえてくる。どうやらこの時間に家庭教師があるのは知っているようで待機していた者が多かったようだ。

 

「私もやった方い良いんしょうか」


 紫雨が深玉を見ながら言う。


「うーん。どうだろ。自分がやりたいならやってみると良いけど、やらなきゃいけないというのはないよ」


 

 一時間ほど休憩なしで紫雨の勉強を見る。

 

 迷界学のことしか教えていないが、他の教科もおそらく優秀であろうことは分かる。

 大学などはどうするつもりなのか。俊太郎は気になったがまともに聞いたことはなかった。

 

 一時間が経って、一度休憩をはさむ。紫雨には探索者において必要なことを教えてほしいとも言われていた。

 正直教えられることなどほとんどない。

 必要なことは教えているし、実際に迷宮に行った方が分かりやすいことの方が多いからだ。

 

「実は昨日、三輪田さんに装備の相談を受けてね」


「装備、ですか」


「うん。探索者として強くなるには、迷宮にいって魔物を狩るか、装備を強くするか。ここら辺なんだ。だけど三輪田さんは強くなるための装備を選ぶのが苦手みたいでね」



 いまいち頭に入っていないのか「はあ」と、勉強中には見られない気の抜けた返事だった。


「薄さんはどう? 装備を整えるのも探索者としては重要なことだけど」


 最近になって使えるようになったタブレットのアプリの一つである『ストア』

 たくさんの装備品が並んでいて、どれを選んだらいいのか迷うくらいだ。

 既に前回の探索ではいくつかの装備品を購入した俊太郎は、魔法の威力や魔力上限が上昇し、使い勝手が良くなったと感じていた。

 魔力だけでなく防御力も意識していて、俊太郎が前衛に出ても簡単にやられないようにと意識している。

 

 紫雨にも防御力は必要だが、スタイルとしてはそれほど防御力は必要なさそうである。攻撃をせずに隙を伺っている最中はどうも狙われにくいという特性があるようだった。

 

「うーん。正直、私もまだ分かっていませんけど、どんな装備なら強くなれるのか教えてもらえますか」


 俊太郎がタブレットを見ながら、教えていく。中には高額なものもあり、今後の目標としてもこんなものが良いんじゃないかと、ブックマークという目印をつけていく。

 

「この指輪は会心の一撃を高めるものだね」

 

「会心の一撃というと、威力が高まるということですか?」


「そう。たまにだけど魔物の急所のようなものがあってそれにうまく一撃を与えられると会心の一撃が決まる。運がよければ紫雨さんの攻撃一発で魔物を倒せることもあるかも」


「なるほど」


「こういうのは魔法使いのような職よりも、剣士や槍使いなどの職が」

向いているね」


「どうしてでしょうか」


「これは正確には分かっていないことなんだけど、職によって能力がそれぞれ違うんだ。分かりやすく言えば、魔法使いが使う魔法と、魔法使い以外が使う魔法の威力は違うってこと」


「なるほど。会心の一撃を出すことのできる能力がそれぞれ違うということですね」


「そういうこと。どんな能力なのかはいまいちわかっていないけど、おそらく器用さだろうと言われている。それは武器を扱う上手さにも関わってくる。会心の一撃を上手く引き出す効果があってもおかしくない」


 こういった情報は深界人も正確には分かっていないらしい『声』もこうなんじゃないか、ああなんじゃないかと議論しあっているのが聞こえてくる。

 だが、だいたい同じような結論になっているのか、真新しい情報は降りてこない。


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