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三人


 翌日になって、紫雨の学校が終わるを待ってから迷宮に向かうことにした。


 日菜子を加えた三人の編成である。

 光る珠を浮かべて、深界人の『声』を聞いていると二人が集まった。

 

 行く予定の迷宮は変わらずゴブリン迷宮。軽く話し合った結果、一番初心者である紫雨の慣れている迷宮、ということになった。

 

 挨拶を済ませると、日菜子がちらりと光る珠を見た。

 

「何があるか分からないけど、迷宮にいくときや暇なときは見てもらってるんだ。気になるなら消すけど」


「いえ、何でもないわ」


『俺ら消される?』

『てか、これまた違うタイプの美人だね』

『シュンタロウの通っていた高校にいた』

『知ってるやついんのかよ』

『古参アピうざ』



 日菜子は後衛の『精霊術師』という戦闘職についているらしい。

 既に二段階の迷宮を攻略済みの彼女は、職業変更のカードを使用したあとのようだ。


 さっそく迷宮に入り、精霊を見せてもらうことになった。

 彼女は短杖を手に精霊を召喚していく。土に属する精霊は、もぞもぞと土が盛り上がるように現れた。

 

「この子は体力や防御力が高い代わりに攻撃能力が低いの。以前もこの子が前衛を務めてくれていたわ」


「かわいいです」


 正直、土がもぞもぞとうごめく姿はあまり可愛らしいとは思えなかったが、俊太郎の代わりに盾役を変わってくれるようだった。

 これで俊太郎は自由に動くことができるものの、やはりマジックソードと盾は変わらず装備している。

 精霊が前衛を務めてくれると言っても、日菜子も紫雨も耐久力は心もとない。

 魔物が後衛に向かないように遊撃や補助するための前衛の役割を担うことになった。

 

 

 パーティーとは迷宮内部で編成を組むときに、一緒に行動できる仲間である。簡易迷宮ではパーティーを組んでいない人物と一緒に迷宮に入ることはできない。

 最大6人までで、編成することが可能だ。

 土地型の迷宮では同時に何人もの人間と行動をすることは可能だが、6人以上の人間が周辺にいると迷宮内での恩恵や能力が低下すると言われている。

 迷宮内で召喚した精霊などは含まれず、6人のパーティーであっても精霊を複数召喚することも出来るらしい。



 四階層までは難なく進むことができた。そもそもが紫雨の攻撃力が高いのである。前衛が魔物を抑える間もなく倒し切れてしまう。

 

 四階層ともなると、一度に現れる魔物が多く出現するため、もう少し慎重にならねばならない。

 

 

 俊太郎は前衛の土精に『保護魔法』を発動する。これで更に耐久力があがるはずだ。

 自分にも使用するほどの余分な魔力があるかどうかはまだ分からない。これから慣れていくうちに使いきらない程度の魔力を保てるのかが重要であった。

 

 日菜子が短杖を振るい、なにやら土精に命令を出すと、ぶるぶる震えながら攻撃を開始した。

 土が自在に動き、丸まって防御したり、左右から太いこん棒のような形に変化してそれをふりおろしたりと、なかなか面白い動きをする。

 

 俊太郎もマジックソードでゴブリンで斬りつける。ゴブリンの身体を切りつけた箇所から炎が燃え盛った。

 俊太郎も新しいスキルを覚えたのだ。

 まるで魔剣のようだが、れっきとした魔法使いのスキルで『火属性付与』

 攻撃力はそこそこだが、魔力消費も燃費が良く、一度発動してしまえば、長く効果のあるものである。

 攻撃を行うメンバーには全員に発動したいものの、魔力の消費量としては数が制限される。できれば紫雨には与えたいが今回は俊太郎だけとした。

 マジックソードには『火属性付与』などを増幅させる効果があるし、攻撃を当てれば一定のダメ―ジを与えられるため、俊太郎などの手数が多い者が効果的なのだった。

 

 

 パーティーの連携を確かめながら四階層を攻略していくと、いつのまにか五階層の入り口まで来ていた。

 ここからでも五階層の様子が分かる。小規模なゴブリンが生息する村のような場所があるのが分かる。

 そこまでの道のりで何度かゴブリンを倒す必要があるだろうが、あそこの中心にはゴブリン迷宮のボスが存在し、それを倒すことができれば、迷宮の踏破が完了されるのだ。

 


 五階層に踏み入れると、すぐ横に帰還するための横穴が用意されているのが分かる。そこを通ればすぐに一階層に戻ることが出来るが、今回は五階層をこのまま攻略する予定だった。

 

 土地型迷宮にいくのなら、正直こんなところで足止めを食らっている場合ではない。最低でも第二段階の迷宮を攻略できるようにならなければ、土地型迷宮で安心して進むことなどできないだろう。

 

 

 

「ゴブリン三体。盾、槍、魔法」


 ゴブリンは手に持つ武器によって戦い方が変わる。迷宮が進むごとに、魔法や剣の扱いもそこそこ上手くなっているような気がしていた。

 小さな身体から放たれる攻撃は中々の脅威ではあるが、日菜子が召喚している土精霊のおかげで、安心感がある。

 その上日菜子の魔力がある限りは、回復することも出来るらしい。その上万が一倒されてしまっても、時間を置けば召喚し直すことが可能である。

 

 

 盾を持つゴブリンは三層で現れたものより立派な盾を構えている。身に着けている防具も増えているし、耐久力が高そうに見えた。

 

 ゴブリンの後ろから火の玉が飛んでくる。後衛にいるゴブリンマジシャンの仕業だが、前衛の二体に阻まれ攻撃は届かない。俊太郎が魔法を放ってもいいが、こんなところで無駄に魔力を消費してもいいものなのか、まだ判断はつかなかった。

 俊太郎が土精霊にかけている『保護魔法』は、魔法には効果がない。素早く前衛を倒して、紫雨の攻撃が魔法を放つゴブリンマジシャンに届くようにしなければならない。

 

 前衛の二体のゴブリンも盾役が前に出て、その脇から飛び出てくるように槍を突いて連携をしてくる。

 

 俊太郎は盾持ちと槍持ち両方をこまめに攻撃をしていく。

 今は精霊の方を攻撃しているゴブリンたちだが、中途半端にゴブリンを攻撃しすぎると、倒す前に攻撃がこちらを向く可能性があった。

 紫雨の攻撃でも一撃では倒せないようなので、それならば俊太郎が何度か攻撃したあとに、二連撃を放つスキルを使う方が効率が良い。

 

「つきかげ!」


 紫雨のスキルの気配がしたため、俊太郎が後ろに下がると、掛け声とともに刀が横払いを槍持ちに、上段からの振り下ろしが盾持ちを襲う。

 流れるように刀がゴブリンへと吸い込まれ、迷宮の塵となって消えていった。

 

 後は、マジシャンを倒すだけだ。体力も少ないマジシャンはスキルを使うまでもなく、俊太郎と紫雨の攻撃だけで簡単に倒れてしまった。

 


 迷宮にいる間、日菜子は魔物と自分が召喚した精霊に集中していた。元々お喋りな印象はなかったが、喋る必要がなければあまり口を開かない人間らしい。

 紫雨も大人しいタイプの女生徒という見た目の印象から、普段はあまり変わらないはずだ。

 印象よりも迷宮では活動的というか、魔物に動じず、バッサリと切り捨てるような割り切りの良さがあるが、どちらにせよ無駄口をたたくような性格ではなかった。

 

 

『ちょっと、シウちゃんこわいんだが』

『シュンタロも日課の魔法ぶっぱも驚いたが、こっちのが強烈だな』

『女の子が無感動に魔物を処理するのイイ』

『俺もちょっと切られたい』

『安らかにいけよ』


 魔物の狩りに夢中になっていたが、今は深界人の連中に見られている。

 俊太郎の耳というか、頭の中には『声』が届いているが、雑音のような感覚となって、あまり気にしていなかった。

 

 

「なんとか、なりそうね」


 日菜子とは、高校時代にちょっとしたいざこざがあった。それ以来話をしていなかったが、思っていたよりも迷宮内では悪い印象を持たなかった。

 精霊の扱いも悪くないし、魔物に対しても真剣だ。

 日菜子にとってこの迷宮では格下なために、余裕な態度でこちらのペースを乱すのではないかと少し心配していたのだった。

 

 日菜子の方をちらりと見やった俊太郎は、ひとつ間をおいてから「ああ、そうだな」と返事をした。

 

 そんなつもりはなかったが、少しぶっきらぼうな物言いになってしまった。妙な空気を感じとったのか、紫雨が不思議そうな表情で俊太郎と日菜子を見ていた。

 

 ついでに深海人の『声』たちも、なんだかざわついているのが聞こえてくる。俊太郎は思わず頬をかいた。

 



 五層のボスエリア。子どもが作ったかのような荒い砦がある。柵で囲われた中にはゴブリンがいた。

 

 簡易迷宮の中は、匂いがしない。独特な迷界特有の匂いがあると言われているが、それも慣れてくると分からなくなってくる。

 それでもこの森の中にいると、不思議と香ってくるような気がしてならなかった。

 この砦も簡易迷宮でなければ、なんとも言えない独特な空気が流れていそうだが、俊太郎には想像もつかない。

 それが良いことなのか悪いことなのか判断がつかなかった。

 

 

 数体のゴブリンと中央に鎮座している少し体の大きいのゴブリンがいる。あれがこの迷宮のボスだ。

 簡易迷宮一段階目のボスを攻略することで、ようやく探索者と認められる、そんな存在である。

 俊太郎もここまで来たことはない。五階層の様子を見たことは何度かあるものの、迷宮の主がいるこの最深部まで来たのは初めてだった。

 

 

 ゴブリンリーダー。三体ほどのゴブリンを従えて、現れる階層主。一段階、二段階を中心に階層主として現れることが多く、一般の魔物としてならどの段階の迷宮でも一般的である。

 土地型迷宮でもよく見かける魔物の一つで、迷宮や出てくる階層によって強さは異なるが、基本的に他のゴブリンと共に現れることが多い。

 

 俊太郎は今までに調べた内容を思い出す。

 迷宮で出てくる魔物や階層主のことは幾度となく調べている。情報自体はそれほどなく、調べられるのはせいぜい低段階の迷宮に出てくる魔物ばかりだが、俊太郎にとっては貴重な情報だ。

 

 

 作戦というほどのことはないが、三人で打ち合わせを行い、流れを確認していく。

 初めて戦う魔物とは慎重にならねばならない。

 気を引き締めて、戦いに臨んだ。

 

 

 砦に入り、少し歩く。途端にぞわりと、鳥肌がたった。

 何かに注目されたのが分かる。当然、魔物だ。ゴブリンリーダーに見つかったのだ。

 


 

「戦闘準備」

 

 呑まれないように、声を出す。

 土精霊が地面から現れ、大きな口を開いた。まるで威嚇するようだが、声は出ていない。あるいは人には聞こえない何かを発しているのであろうか。

 ゴブリンたちが走ってくる。後からリーダーがゆっくりと現れたのだった。



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