駅前
この迷宮で現れる魔物は大蜘蛛とスケルトンだ。
一層は大蜘蛛が出現する。組合で調べた情報によると、五層は大蜘蛛の階層主が現れるらしいが、十層ではスケルトンだという。
オークの迷宮ではゴブリンがおまけのような扱いだったが、こちらでは少し違うようだった。
迷宮によって、少しずつ変化はあるが大まかに二段階の様相は同じだというが、建物の中というのは珍しい。
一段階では大抵が野外の迷宮が多く、森の中だったり街道や草原だったりするのだ。
段階が上がっていくことによって、迷宮内部の構造も複雑化することもあると聞く。
三段階では罠なども存在するということだから、もう少し準備が必要かもしれない。
そんなことを考えながら歩いているとさっそく魔物が現れた。
大蜘蛛は大きな身体に毛がふさふさと生えている。
虫というよりも蜘蛛の形をした肉食獣のように見える。
それでも女性二人は嫌な顔をしていた。生理的嫌悪はどうしても感じてしまうのかもしれない。
火属性付与をかけた俊太郎のマジックソードで、大蜘蛛は簡単に倒れた。
土精霊が引き付けている間にあっさりとである。強くなったのか、はたまた大蜘蛛が弱いのか。
一層ではこんなものかと気を取り直して進んでいく。
紫雨と俊太郎で交互に倒していく。紫雨も最初は腰が引けていた。珍しく嫌な顔をしながら刀を振るっていたが、それでもそのうち慣れてきたのか、動きにぎこちなさがなくなっていった。
いつのまにか二層のゲート前までたどり着く。
この迷宮では階段が階層を切り替わるゲートの役割をしているようで、とても分かりやすい。
しかも地下なのか、降りる先が暗くて見えにくいのだ。
降りていくとさっと視界が明るくなる。
降りた先からカタカタと音が鳴る。それが妙に陰気で気味が悪く、思わず俊太郎も鳥肌が立つのを抑えられなかった。
『スケルトンだよ』
『なんか雰囲気あるねえ』
『知ってると思うけど火属性に弱いよ』
『わざわざ言わなくていい』
『ちなみに大蜘蛛も火属性に弱い』
スケルトンとは骸骨姿の動く魔物である。
二階層に現れるスケルトンはこん棒のような物を持っているが、更に深部にいくと剣や魔法を使って戦うこともある。しっかりとトドメをささないと再び起き上がってくることもあり、強さは大したことがないが、数が増えてくると面倒な相手となってくる。
私が、とそう言って、日菜子が土精ともう一体の精霊を召喚した。
ハイオークを倒した日菜子は精霊術師としての能力が上がったのか、二体目の精霊を召喚できるようになった。
火の精霊は、火の玉のような形をしたものがポトリと地面に落ちている、そんな姿だった。
地面から這い上がると、土精がもぞもぞ動くその姿にも似ているが、身体の大きさは小さい。
身体の上にもう一つ小さな火の玉が浮ぶ。
土精と比べると身体の多きさが全然違うが、空に浮かぶことも可能であるらしく、動き回る速度が全く違う。
スケルトンは土精に向かってこん棒を振り下ろす。カタカタと言いながらも、木製のこん棒は結構な勢いで振り下ろされた。
だが大ぶりで、人であれば回避も簡単そうである。
そこに、火精の攻撃が放たれる。空に浮かんだ火の玉から発射されるのは、魔法のファイアーボールのような何かだった。
一つの火の玉から別れるようにいくつかの火の玉が、生み出され発射される。
小さな体からは意外なほどに、強力な攻撃が放たれるのだった。
実際にスケルトンはその攻撃で倒れた。
魔法などで攻撃され倒されると、再度起き上がることはないと言う。
二体目のスケルトンは紫雨がトドメを差す。
スカスカの骨には、紫雨の刀もダメージを与えられないのではないかと思ったものの、結局一撃であった。
紫雨が倒したスケルトンはやはり起き上がる。砕けた骨が集まり、修復されていく姿は、確かに気味が悪かったが、出来の悪いアニメでも見ているようで、どこか笑いを誘うようでもあった。
ハイオークを倒して俊太郎たちは強くなった。二体目の精霊を従えられるようになった日菜子が一番顕著だが、俊太郎や紫雨も強くなっている。
難易度としては、オークよりもこちらの方が慣れてしまえば楽なようにも思えた。
三層の糸を吐いてくる大蜘蛛と、剣で斬りかかってくるスケルトンを倒し、四層まで来ることに成功した。
四層でも、変わらないが同時に四体の魔物が現れる。一体一体は強くない物の、大蜘蛛の糸で動きを阻害され、這い上がってくるスケルトンは厄介であるが、火属性付与を紫雨にもかけてしまえば、起き上がってくることはないため、四層も楽にすすむことができた。
五層では蜘蛛型の魔物が階層主である。大蜘蛛をさらに一回り大きくさせたような身体を持ち、糸だけでなく毒まで持つ厄介な魔物だ。
名前はそのまま『ポイズンスパイダー』である。大蜘蛛は日本名だが、こちらは英語名をカタカナにした形だ。なぜこんな形式なのかはよく分からない。別人が名付けたものがそのまま共有されてしまったのかもしれない。
毒に対する対策がないまま進むのはあまり得策ではないが、土精霊は元々特に対する抵抗力が高いという。
日菜子が土精霊に対する情報を教えてくれたが、階層主に挑戦するかどうかは俊太郎に任せると言った。
『ハイオークを倒せるなら余裕でしょ』
『この迷宮は火属性が使えるならかなり楽だよ』
『ここまで来たら五層攻略しておきたいな』
俊太郎は勢いに任せて挑戦することにした。
結果だけみたら、あっさりと倒すことが出来た。
毒は土精霊に浴びせられたが、大したダメージにはならなかったようで、日菜子が祈りをささげると、気にならないほどだったらしい。
火属性の通りが良いのか、付与をかけた俊太郎や紫雨の攻撃で、ポイズンスパイダーは簡単に怯む。そこに追い打ちかけながら、攻撃しているとハイオークよりもあっさりと倒れてしまった。
正直呆気ない終わりで、微妙な空気が流れたほどだ。
魔物たちが落としたアイテムを拾い、一層に帰るための近道を探す。
下に向かう階段の隣に意味深な小さな小部屋がある。
中には宝箱が置いてあった。
「宝箱だ」
驚いた俊太郎は、小さく呟く。
紫雨はいまいちわかってないが、日菜子も驚いた様子だった。
「そんなに珍しいんですか?」
「二段階の迷宮では珍しいと思う」
中に入っていたのは、装備アイテムが表示されたカードだった。
カードに表示されているのは『レザーウィップ』なんとレア度は紫である。
一番レア度が高い物が黄色で、その下が紫だ。数字は『二十三』
数字は相変わらず謎だが、以前拾った短剣よりも高い数字である。
裏面には色々と書いてある。魔力が強化だとか攻撃に追加威力だとか、書いてあるが、目を引くのが一つある。
『召喚獣や精霊を含む仲間モンスターの強化』
「精霊術師の対応武器って、なんだったか」
「杖と、腕輪もそう。あと、鞭……。ええ? 私鞭なんか持つの?」
『ローブの下はあのパツパツのライダースーツだろ?』
『ごくり……』
『お姉さま……』
『女王様では?』
『ああ、どうやったらヒナコの精霊になれるんだ』
深界人たちの盛り上がっている。そのことに俊太郎は苦笑いを浮かべながらも、良い武器であることは確かだと説明した。
「別に売ってしまってもいいよ。紫だし、結構高値で売れるんじゃないか?」
『完全にテイマーとか召喚士とか、一部の職限定だけどなあ』
『人気な職ではあるけど、鞭はなあ』
日菜子は悩んでいたためひとまず保留にして、一旦帰ることにした。
小部屋の先には鉄格子の扉があり、暗い廊下を進むと一層に戻ることができた。
迷宮化した扉を開け部屋から出ると驚くほどに身体が重く感じる。
思っていた以上に疲労していることと、探索者としての能力が一気になくなった証拠である。
三人してはあ、と息を吐く。自分たちがあまりにも年寄りのようで、俊太郎たちは笑った。