愚者への一歩 白兵試験 加筆修正版
第4話!
とりあえず三日坊主を回避できた喜びに浸っております。
ようやくヒロインの化け物っぷりの片鱗を見せられそうで楽しい
12月4日加筆修正
3つ目の試験科目である白兵戦闘のペアが発表され、受験生達はそれぞれの対戦相手の近くへ向かう――――――
しかしそんな周りを気にする余裕などトートには無い。死にそうな顔をしながらも対戦相手であるエルフの少女、フランを見て頭を必死に回転させる。
(さっきの考え通りなら肉体性能が段違いなフランの攻撃は防御自体が愚策に成りかねない威力…いなすか回避以外の選択肢は論外だが、避けられるか?軽く投げた石ころですらあの速さ、全力なんて目で追えるのか?)
考えただけで冷や汗が出てくるトート。
そうこうしている内にペア同士が大方固まったのを確認したフォラスが口を開く。
「では、白兵戦闘の説明を始める。その場から動かないように。」
そう言ってフォラスは生徒が居ない、フィールドの奥に向き直り魔術を行使する。
「建築」
生活魔術の一種ら建築の魔術は、同じ材質の物を必要量使う事でイメージした形にする。
名前の通りに家などの建物の土台や、王都を囲う壁を作る際に用いられる事が多い。作る物のイメージがしっかり頭の中に無い場合や、イメージの形、大きさに対して材料が足りない場合は歪な形になるか、中の密度が足りず崩壊する。
フォラスが発動した建築の魔術は、受験生達が居ない奥の一角の地面を吸い上げ、圧縮していく。
その後形を均ながら左右に広がり、20M四方の正方形の舞台が完成する。人のふくらはぎ位の高さの段差を除いて地面とほぼ変わらないが、壊れないように圧縮されている分密度はかなり高い。
「ルールは簡単。この舞台から落ちた者が負け、降参も認める。魔術の行使は………自身の肉体に作用されるもののみ使用可能とする。」
(…………は?)
トートにとって、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がした。
(肉体に作用って事は強化も対象だよな?俺に死ねと???)
バッとフォラスに視線を向けるトート。
(………すまない少年、そういうルールなんだ…)
切実そうなトートからの視線を感じたのか、罰が悪そうに目を伏せるフォラス。
(……終わった…)
彼女相手にこのルール、最早試験の名をした拷問である。先程の投擲が素の肉体から繰り出されたものだとすれば、彼女はそこから強化の魔術などで更にパワーとスピードを上げられるという事に他ならない…勝ち目など無いに等しい。
しかし試験ではある為に、負けるにしても初手で吹き飛ばされたりしようものなら、次の試験0点がほぼ決まっているトートの合格は絶望的だろう…
勝敗は考慮に入れずともそれなりの勝負を演じた上で、死なない様に立ち回らないといけない。彼女相手に…
(…………無理だろ…。せめて魔術による攻撃もありなら楽しめたのに…)
魔術の使用は自身への作用のみ可能、詰まる所それは相手への魔術攻撃の禁止を意味する。
このルールさえ無ければ、強者に限りではあるが割と好戦的なトートからしてみれば、彼女は最高の相手だっただろう。―――まぁ、白兵戦闘の試験として、決めては体術で…となるのは仕方ない事ではあるが―――
諦めた様に項垂れながらも、頭の中で試験で使用可能な自身の魔術をリストアップしていく。
試験の組み立てを練っていると、どうやら試験が始まるのか、ペア作りの際に最初に呼ばれた生徒2名が舞台の上に上がっていた。
「では、試験開始!」
フォラスの声と共に2名の受験生が相手に向かって駆け出していく、それを視界には入れつつもトートの頭は自身の死合いでいっぱいの為、殆どスルーされていた。
「あなたが私のお相手の、トート・エリファスだったかしら?」
ふと、舞台の方に目を向けていたトートの横から声が掛けられる。
「っああ、そうだ。お手柔らかに頼むよフラン・グレースさん」
(本当にお願いします…)
切実な願いであった。
「いえ、拝見こそ叶いませんでしたがあなたの魔術の腕は相当の様ですので、全力で行かせていただきますわ」
驕りのない態度、本来ならトートが好ましく思う姿勢だが、今の彼には何より無慈悲な死刑宣告だった。
「………こちらこそ、先程の投擲は見事だったよ…しかも武道を修めているだろう?正直この試験内容では微塵も勝てる気が起きないよ…ほんとに」
「闘う前から諦めると?弱腰すぎるのでは無いかしら?」
「戦う前に力量差を考えるのは基本だと思うけどね、蛮勇は身を滅ぼすっていうだろ?」
「……まぁ良いでしょう。何もせずに降参、は私の評価が付かないので辞めていただきたいわね」
「流石にそれをしたら俺の合格はかなり遠のくんでね、頑張らせては貰うよ。」
「是非そうしてください。あら、そろそろですわね。」
「そうみたいだな。」
自分達の前のペアが決着した様だ。
舞台から2人が降りるのを待つ間にフランの横で準備運動がてら軽く体を伸ばすトート。
「仕方ない……。さて、やろうか」
体をほぐし終え、息を吐きながらそう呟くと、先程までの憂鬱そうな顔から一転、口角を上げ笑みを深め、目をギラギラと見開いていくトート。
完全な臨戦体制だ、戦う前にテンションをあげる為の彼なりのルーティン、やる気スイッチというやつだ。
「ふふふ、存分に仕合いましょう。」
横にいるトートの雰囲気の変化を感じ、フランも釣られて笑みを浮かべる。トートの若干凶悪な戦鬪狂じみた顔とは違い、どちらかというと武人然とした微笑だ。
元の顔の良さと相まって試験には似つかわしくない表情に見えてしまう、モデルか何かの撮影と言われても通じるだろう。
「では次、トート・エリファス!フラン・グレース!」
フォラスに呼ばれ、2人は舞台上に上がっていく。
無言のまま20M四方の舞台で中央を挟み距離をとって向き合う。
(ん?)
トートが違和感を覚え相手を見る。
「準備は良いようだな、では、「ちょっと待って貰っても?」ん?何だね?」
そのままフォラスの開始に割って入るトート、違和感の正体は相手の格好にあった。
「あんた何でスカート履いてんだ?」
「???制服のタイプは自分で選択出来るのではなかったかしら?」
「今日は白兵戦闘試験があるから女子もみんなパンツスタイルの方だったと思うんだが?」
そう言いながらトートは周りを見渡す。
勿論女子の受験生はみんなパンツスタイルの方の制服を着用している。
「っ違反でしょうか!?」
それに気づき慌ててフォラスに目を向けるフラン
「いや、違反では無いが…確かに」
彼女自身が気づいておらず、余りにも自然体だったせいか、今に至るまで誰一人気付かなかったのだろう。フォラスもどうするかを考える。
「では何が問題なのでしょうか?」
理由がわからず困惑するフラン、
「下着が周りに見られた動揺から実力が出せなくなら無いよう配慮してるんだよ」
そこへトートから回答を得るもののーーー
「動揺?何故?」
「はい?」
斜め上の返事が返ってくる
「何故って、そりゃあ恥ずかしいだろ?」
「…?衣服を見られた程度で何故羞恥を?」
「マジかよあんた…こっちが困りそうなんだが、」
彼女達エルフは森との共存を果たした種族であり、王都や別の国の都市に移り住んでいる少数を除けば、集落や里にいる凡そのエルフは葉っぱの束や布切れを加工した服とは言い難い格好を好み、余り肌を隠さない。(マナに愛された種族である彼らにとって自身の肉体と周りのマナとの境界を隔てない事でマナの回復などを高める意味合いもある)
勿論そんな事は王都に住んでいる人間であるトートが知る由もないが…
「なら着替えなくても良いから、フォラス先生」
「何だね?」
「暗幕で囲んで貰っても良いですか?」
「………まぁ構わない(ライトレスではなく、カーテンコールだと……軍の関係者か?)」
暗幕・・・一般的な読み方は暗幕だが、"兵士たるもの心乱すべらず"をモットーとしている軍属の人間が同僚や親しい人を亡くした場合、埋葬、もしくは、火葬前の最後の挨拶の際、この魔術で遮蔽された空間でどれだけ涙を流しても見なかった事にするという軍の習わしに使用される用になってから亡くなった人間に対して、"ライトレス"(光無し)というネーミングは如何なものかという意見が出た為、軍内部ではこの魔術をカーテンコールと呼ぶようになっている。
「暗幕、これで周りからは見えない故、存分にやるといい」
内心の動揺を悟られない様、表情を殺しながら魔術を起動するフォラス
「ありがとうございます」
フラン本人が余りにも気にしていない為、何故かトートが礼を述べる
「では改めて、始めたまえ」
直後―――ゴゥ!
「っっっ」
トートが魔術を発動するよりも早く、死の風が吹いた。
否、風ではなく風を切り裂く程の飛び蹴りだ。
試験が始まった瞬間、フランが駆け込み跳躍しただけ、それが恐るべき速さで真っ直ぐに向かってきただけ…彼女が初手で牽制のつもりで選択したとび蹴りは、魔術を自身に付与しようとしていたトートを相手にこの上ない最善手であった。
スカートの為、風に靡き白い下着がトートの視界に映るが、そんな事を気にする余裕はない。
見惚れていたらこの段階で試験は終わっていただろう。
この飛び蹴りは下着を見られる事に躊躇は無いというフランなりの意思表示でもある。
胸辺りを狙っての飛び蹴りを、右側面に上体をひねる事で辛うじて回避したトートに体が遅れてブワッと粟立つ。
(っやはり魔術なしでこの早さ!こちらの組み立て所じゃない!)
ドゴン!
飛び蹴りの勢いそのままに後方で物凄い轟音を立てながら、片足で着地したフランの方に向き直り、それを見て慌てて魔術の発動しつつ両腕を胸の前でクロスする
「強化!堅固!っぐぅっ」
魔術発動の完了と同時、凄まじい衝撃が両腕を襲う。
フランは先程の飛び蹴りの直後、トートの後方に片足で着地したその足を軸にそのまま半回転して回し蹴りを放ったのだ。
地面に足裏を擦りながら数M後ろに飛ばされるも何とかガードに成功したトートは、若干の痛みを訴えながら痺れる両手に目を向ける。
(っ危なかった…特に堅固の魔術で防御しなければ両腕を折られてた…魔術無しで馬鹿げた威力だ)
肉体に鉄の如き硬さを与える防御魔術の代名詞たる
堅固を使って尚、強度の軍配は生身の彼女に上がっている。
本来、この状態でのガードは、魔術すら使っていない生身の人間が全力で殴れば手の甲は折れるか、骨にヒビが入る程度にはダメージを受けるはずなのだが、痛みを覚えている様子はまるで無い。
「後手に回るのは悪手か、疾駆!、第六感!」
更に2つの魔術を自身に重ねるトート。
選択したのは速度を飛躍的に上昇させる疾駆と迷宮内で良く使われる、探索時の不意打ち防止用の危機感知能力を上げる第六感だ。
あまりに白兵戦闘には向いてない魔術の使用に相手であるフランの頭に疑問が浮かぶ。
(何故このタイミングで探索魔術の第六感を…一体何を狙って?)
「ハッタリのつもりでして?この場で使う魔術にしては効果は薄そうですが」
「………まぁ昔の名残みたいなもんだ」
「…そうですか。」
トートの返答にいまいち納得はいかなかったが、とりあえず流すことにしたフランは相手の出方を伺うべく構えを取る。
第六感は探索用の魔術と一般的には知られているが、名前の通り第六感が働くようにする魔術であり、危機感知能力はその一端でしか無い。五感で感じられないものを感じ取り、勘も冴え渡る。研究に行き詰まった研究者はこぞってインスピレーション《閃き》を得る為に、この魔術を使うくらいだ。
(初動さえ見えれば何とか対応は出来ている現状だが、逆に言えば初動を視認出来ないとほぼ確実に対処出来ずに直撃貰ってやられかねないな…
初動を見れずに視界から奴が消えた場合、十全な体制でない限り迎撃は論外、回避方向は第六感に全BETした上での回避一択!これが最終防衛ライン。突破されたら素直に諦めよう)
第六感を使ったのは、初動を見れなかった際の回避を直感に委ねる為の保険であり、フラン攻略の糸口を閃くかもしれないという考えからである。何より、1番の理由はこの魔術を使い、思考を巡らせながらの戦闘がトートにとって1番慣れしたんだスタイルだったからだろう。
(これで4つ…これ以上同時に魔術を重ねがけすると、反動で暫く動けなくなるが、足りないかもな…
まぁ次の試験は元々捨てている心器だし、最悪は後一個までなら何とかなるが、このまま受け身を続けると対応しくって攻撃を貰いかねない…攻めに転じないとな)
「次はこっちから行かせて貰う」
そう言ってフランに向けて駆けていくトート。
強化と疾駆を重ねがけして漸く、先程のフランと同等の速度だ。
その勢いを活かして低姿勢で足を使って地面を滑る、俗に言うスライディングで彼女の左足を狙う。
フランはそれを見てジャンプで空中に回避、
狙いどうり地面を離れたフランに追撃をするべく体勢を整えるのもせずに彼女の真下で垂直跳びをする事で肉薄した。
(空中なら回避は出来ないだろう、このまま足を掴んで舞台から落とさせて貰うぞ!)
手を伸ばし目前にある足を掴もうとすると、フランも狙いに気付いたのか焦った様に足を曲げる。
それでも何とか届く距離にある足に向けて手を伸ばし続けるが、フランはそこで曲げていた足を空中をキックする様に全力で下に伸ばした。
ブワッ
「っっ!がぁっ」
悪あがきか、それとも伸びて来たトートの手を狙った反撃のつもりだったのか…彼女の足から放たれた風気による衝撃が真下にいたトートを直撃し、彼は落下していく。
その反動で先程の位置よりも更に上に跳ぶフラン。
(くそっ、風圧で無理やり空中を移動しやがった………ハハッ厄介な)
風圧を間近で直に喰らい、地面へと叩き落とされたトートは試験前と同じく凶悪そうな笑みを浮かべる。
(こうなると空中戦は俄然不利だな、どうするか…うおっ!)
ゴォォン!
空中から恐らく体の向きを変え、先程と同じ要領で足を上にして空中を蹴ったのだろう、轟音と共にフランが降って来た。
咄嗟に後方に飛びつつ反転、土煙のせいで見えない彼女から身を守る為に構えを取ると煙が晴れ、正面から彼女が再度跳んでくる。
今度は正拳突きが繰り出されるが、先程の攻撃で学習したトートは魔術有りでもガードは最低限にする。
試験会場の教室で一目見たとおり、武術を修めているのだろう…徒手空拳のキレも凄まじい、何より身体能力がその脅威を数段押し上げる。
側頭部を狙う上段蹴り、その勢いを利用した回し蹴り、腹部への掌底…どれもが魔術抜きなら死を覚悟するレベルのそれら(側頭部への蹴りは魔術有りでも死にかねない威力)を全てギリギリで躱わし、いなしながら、何とか反撃に繋げようと暴風が如き連続攻撃の隙間を縫って、左ももへの蹴りを見舞うも一瞬ぐらつく程度で痛みを覚えた様子はない。
その間に距離を取り、構えを解く。
(攻撃があまり効いてないな…やはり防御力も魔術による強化レベル…賭けに出るしかないな。)
トートは防御の要である堅固の魔術を解除するとフランから声が掛かる。
「やりますわね、ここまで私の攻撃から耐え抜くなんて」
「……こちとら一杯一杯だ、そう言う割にあんたは強化系の魔術も使わずとは、随分舐めてくれるじゃねーの」
「…試験で相手を殺してしまいかねないのは流石に、魔物以外には基本的に使用しないようにしていますの」
「……………。だから全力で試験は受けないと?……エルフのあんたが魔術を封じて?ハハ、ハハハッ。」
「あら?どうかされましたか?」
急に笑い始めたトートに疑念を抱くフラン
「いやなに、あんたが相手だし、さっきまでは正直それなりに戦った後は負けても良いかなって思ってたんだが、気が変わった」
「何がですの?」
「この試験、あんたに負ける訳にはいかなくなった。もしあんたが俺に勝てなかったら、入学後に俺と再戦しろ、今度は制限なしで」
「!試合前と比べて大分自信がおありな様子ですが、蛮勇は身を滅ぼすのではなかったかしら?」
「目的が出来た以上勝ちに行く、当然だろ?」
「なるほど。先程の挑戦、受けて差し上げますわ、勿論私が負ければですが。」
「上等!」
「それにしてもあなたの動き、何か武術を?良ければ流派を聞いてもいいかしら?」
「……護身用に幾つかな。1番最近のものは王国軍式近接格闘術だ。あんたは?」
「エルフに格闘技の伝承はありませんので、我流ですわ。それにしても先程までと少し話し方が違いませんか?」
「我流かよ、どうりで動きが読めない訳だ…口調はまぁ、戦闘の時は少し昂るんだ、言葉遣いは多めに見てくれ」
「とやかく言うつもりはございませんわ」
「そりゃ助かる、そろそろ終わらせよう」
「受けて立ちましょう!」
試験開始と同じく中央を挟み、距離を開けて向き合う。
数拍置いて両者が駆け出す、2つの魔術によるブーストをかけているトートはフランとほぼ同速に追いついている為、相手が眼前に来るまでは一瞬だ。
それでも、コンマ数秒早く足の着地を終えたフランが振りかぶって右ストレートの構えを取る。
彼女の右腕が自身に到達する寸前でトートは、先程解除した堅固の魔術の分空いた枠にもう一つ魔術を重ねがけする。
「発光!」
(どんなに肉体性能が高くても網膜までは鍛えられないだろ!)
彼の全身から強い光が放たれる。
本来なら手先を多少明るくする程度の生活魔術である発光だが、トートが弄りに弄った目潰し用のほぼオリジナル魔術となっているそれを
「っっ目が」
(フラッシュ?こんな光量なんて殆ど光魔術と大差ないじゃない!)
正面にいるフランは間近で受け、慌てて目を前に出していた右手で覆うも、網膜に焼きついた光によって視界が戻るのに多少の時間がかかるだろう。
すかさずトートは彼女の正面から離脱して、背後へと向かう。
ゴウッ
視覚を光に奪われたフランは先程トートがいた正面に向け、足払いを横薙ぎに強行するが既にトートはいない。
すると、ガシッ!と背中に衝撃を受けるフラン。
背後から両腋の下に両腕を通され、トートの両手はそのままフランの後頭部に組まれた状態で両腕で強く締め付けられる。
俗に言う羽交締めという拘束術だ。
「なっ!プ、プロ、こんなところでっ」
「?悪いとは思うが、後でセクハラとかで訴えないでくれると助かる」
そう言いながら、目が見えず、背後から突然抱きつかれた驚きからか、何故か完全に硬直したフランを羽交締めの状態のまま抱え、魔術で強化されている脚力で真横に跳ぶ。
2人の足が地面から浮いたその瞬間、
「っ!」
「っっくそっ!〜〜〜っっっ」
再起動したフランは、腕を動かせないため即座に後頭部を使ってトートの顔面への逆ヘッドバットを躊躇なく行おうと、頭を前に倒す。
振りかぶられた彼女の頭を見て、何をされるか検討がつき、咄嗟に威力を殺す為に自身の頭を振り切られる前の彼女の後頭部にぶつけるトート。
何とか威力が乗り切る前に阻止自体は出来たが、それでもかなりの衝撃だった。
ガード自体はしたものの額から血が垂れる。
ただし絶対に、腕だけは離さなかったトート。
その勢いのままに2人はふくらはぎ程の高低差の舞台から落ちる。
「両者場外!引き分けとする」
試験監督であるフォラスからのコールにより、2人の試合は終了する。
羽交締めを解き、頭に響く鈍痛を必死に我慢してフランの手をとって立たせるトート。
「手荒で悪かった、光量は抑えたから眼もそろそろ見えるだろう。」
そう言われたフランだったが、不服そうに問いかけてくる。
「どうして引き分けなのかしら?あの状況なら前に跳んで私を下敷きにすればあなたの勝ちだったでしょうに。」
「試験とはいえ、女性を下敷きには出来ないだろ…顔から落ちたらアレだし。」
「あら?意外と紳士なのかしら?」
「戦っているとき以外は紳士のつもりなんですが?」
「ですが、素はあちらな感じがしますわね。」
「………そんな事はない」
何となく口でも勝てなそうな感じがした為、早々に撤退を選択する。
「……約束忘れるなよ」
「ええ、無事に合格できましたら」
「ならいい、その時はスカートはやめてくれ」
「……まだ引きずってたんですの?」
「正直、滅茶苦茶気が散った…せめて上から何か履いてください」
「…何も履いていないみたいに言われるのは心外ですわ。下着もしっかり履いていましたわ」
「下着じゃなくてズボンを履けって言ってんだよ!それが嫌ならせめてスパッツとかあるだろ」
「人間って面倒ですわね」
「エルフが無頓着過ぎるんだよ!」
その後の試験を観戦するトート。フランは横にいるものの特に話しかけては来ないで共に観戦している。最後のペアの試験が終わり、フォラスが号令をかける。
「これで白兵戦闘の試験を終了する!
次の心器の試験はこのままここで行う。10分の休憩の後に開始するが、それまでに今の試験によって怪我をした生徒は私の下に来るように。」
そう言って教室側への通路を塞がない様、少し端に寄ったフォラスの側に怪我をしたのであろう受験生達がワラワラと近付いていく。
それを眺めてながらもトートの意識は問題の心器の試験に向いてはいたが、――――
(来たか、最終関門…どうにもならないだろうけど見学でも良いんだろうか?)
――捨てている科目の為、焦りなど微塵もない――
解説
強化・・・全体的な強化、バランスよく強くなります。
堅固・・・防御特化、体が鉄のような硬度を持つが、固まる訳ではないので関節が動かないなどは無い。
疾駆・・・速度特化、単体でもかなりの速さの為、急ブレーキは慣れていないと体ごと持っていかれる。
パワー特化の魔術もありますが、同時使用の負荷がかかる為主人公は使いませんでした。
5つ重ねるとかなりの倦怠感と使ったものによっては即、筋肉痛が襲ってきます。限界ギリギリライン
6つで鼻血出して、ぶっ倒れます。
7つ以降?生きてたら良いね…位の感覚です。
第六感・・・上で大体説明ある通り、たまに常用し過ぎで中毒っぽい症状に陥る研究者がいる。
強化+疾駆=フランダッシュ
暗幕・・・改名の由来はカーテンを呼び出す(コール)と、カーテンコールという役目を終えた演者がもう一度劇(劇場)に戻るという意味にあやかり、いずれ再開できる事を望む願掛け的な意味で軍では使われてます。
軍とも何かと関わりのある迷宮学院の講師や職員は大体この呼び方を知っています。
周りからはトートvsフランの戦いは声だけしか聞こえておらず、急にトートがフランに抱きつきながら暗幕から出てきたシーンのみ見えております。
トートはこの時点でだいぶやらかしてしまっているのですが、それがわかるフラン視点を入れるタイミングがまだ先の予定なので、もう少しやらかして貰うつもり。
メインヒロインがとうとうアップを始めました。
彼女の理不尽な強さはまだver.1です。
そして主人公の受難はまだ正式リリースすらされていません。
主人公も魔術だけなら学院の教員クラスなので、だいぶ強いのですが、このままだと今後出てくる敵に勝つのは厳しいのでヒロインちゃんも見合った強さになってます。
ということで、次回は心器の試験ですが、幾つか構想があるので、どのルートにするか迷ってますが、
とりあえずペースは守って投稿したいと思います。
誤字、脱字報告もお待ちしております。