君が作った色のある世界 第二章 第二の記憶
第二章 私の記憶
私は生まれつき目が見えなかった。いわゆる全盲と呼ばれる人だ。
私は、他の人よりできることが限られているので、みんなに少しでも迷惑をかけないようにできることはもちろんやる、でもできないことはしっかりとできないって伝える。逆にできないことやろうとすると、余計に迷惑が掛かるかと知っているから。
私は、目が見えなくて不便だなんて思ったことなんてない。
でもやっぱり、世界というものを見てみたい。
私は小さいころに、目が見えないのに絵をかいていたという。もちろん何が書いてあるかなんかわからないけど、たくさんの色が使われており、まるで虹が書かれているかのようなカラフルさだった。
小学校は、盲学校小学部という目が見えない人、光が強く見えすぎてしまう人など様々な、私同じような人がいた。だから話が合うし、みんな大きな困りごとなく楽しく過ごせた。
でも、その生活は中学生になるころに変わった。最近できた「Futuer Aid Solution」通称FASが開発した、 最新鋭のAuxiliaryeyeというものを、父が買ってきてくれた。わかりやすく説明すると、サポートコンタクトレンズみたいなもの。なんか脳に信号をどうちゃらこうちゃら。まぁなんかすごいやつらしい。私には少し難しいや
「彩芽。これつけてあげるから、動かないでね。目に入れるから」
少し怖かった。もちろん世界の色が見えるようになるのは嬉しいし、楽しみ。でも、なぜだろう怖かった。言葉にできないみんなにはわからない恐ろしさ。いままで信じていたものを壊されるような恐怖という言葉が一番近いだろうか。
「彩芽、目開けてごらん」
私は、ゆっくりと目を開けた。すると不思議なものが見えた。
「えっ、私…目が見えてる…私光が見えてる」
私は、とてもびっくりした。なぜなら思い浮かべていたものと、目で見たものの差がすごかったからだ。それととても嬉しかった。涙が出てくる。生まれてきて12年。やっと私に光と世界が顔をのぞかせた。こんなに世界はカラフルなのか
「私、みんなの顔を見るの初めて。お母さん…お父さん…私…私…」
私は、家を飛び出した。でももちろん父を連れて。
「ねぇあれって何」
「ねぇこれは」
まるで幼い子供のように、たくさん質問した。でも父は、それらをやさしく受け答えしてくれた。
中学校生活では、アグズアリィアイが珍しいのか話しかけてくる子が多かった。でも私をよく思わない子もいた。でもそんなことはどうでもいい、私は色のある世界が見えているだけで幸せだった。
屋上で、風を浴びご飯を食べようとしていると、女の子が話しかけてきた。
「あの、すみませんここでご飯食べてもいいですか」
私は、突然話しかけられたのでびっくりしたが。
「いいよ、私も一緒に食べていい」
と快く承諾した。きっと、私の目が珍しくて話しかけてきたのだろうと、勝手に思い込んでいた。
「その目綺麗ですね」
案の定、彼女は私の目について触れてきた。もう慣れっこだから、全然かまわないけど。
「そのお弁当おいしそう、私はいつもパンだから」
あれっ、いつもなら私の目のことについて触れてきて、その話で持ち切りなのにこの子は、私のお弁当を褒めた。私はいつも自分で作っているお弁当をほめられてとても嬉しかった。
いつもならあまり名前などは聞かないけど、私は彼女の名前が気になった。
「ねぇ名前教えてくれる。私、お弁当褒められたの初めてで嬉しくてさ」
彼女は、長い髪を風になびかせこちらを振り向き
「はいもちろんです!私の名前は桜庭春奈です」
彼女は、声と漢字で私に名前を教えてくれた。私は、この時彼女が行った行動に何も思わなかったが、今思うと彼女の漢字で私に名前を教えるというのは、とっても優しい行動だった。だから今は名前を漢字で書いて見せるということを積極的に行っている。春奈に習ってね。
「ありがとう、私は夕虹彩芽っていいます。これからよろしくね。友達になってくれない?」
私は、この子と友達になりたいと思った。気遣いができて、優しくて、何よりかわいい。
「はい、もちろんです!彩芽ちゃん、いい名前ですね」
「固いって、ため口で話そ、友達じゃん私たち」
私は、春奈ちゃんのおかげで中学校生活が楽しく、すごすことができた。小学校まで点字で生活していたので、わからない勉強もたくさん教えてくれた。遊びにもたくさん行った。初めての海に、ショッピングモール。本当にいっぱい。
初めてといっても、行ったことはある場所もある。でもそれは小学生の時だだから私にとってそこは初めての場所といっていい。なぜなら春奈と行くのは初めてだし、景色があるのは初めてだったから。
そんな楽しい生活でも、想像していなかった最悪のことがおきた、彼女は転校してしまった。本当にいきなりだった。お父さんの転勤でフランスに行くことになってしまった。中学校二年生の終業式前日、友達から聞いた。
「なんで、言ってくれなかったの。私には言ってくれてもよかったじゃん」
もちろん私は怒りがこみあげて、春奈に強い言葉をかけてしまった。
春奈は泣いていた。きっと春奈なりのやさしさだったのだろう。
「だって…だって言ったら悲しくなるじゃん」
私も涙がこぼれそうになる。涙でいっぱいで前が見えない。目が見るようになってから初めて、悲しくて泣いた。それほど春奈は私にとって大切で、一番の親友だった。
「さよならだね。言わなくてごめん。それと、ありがとう」
春奈はその言葉を最後に、私の前から姿を消した。最近では連絡を取り合ってはいるが、別れてから1年近くは何も話さなかった、いや話せなかった。別れの時に私が会いに行かなかったこと、きっと春花は私に言ってくれなかったこと。それぞれ話ができるような状態ではなかった。
そのまま、彼女のいない中学校生活をあと1年過ごした。心に大きな穴が空いたようだった。前まではとても楽しかった勉強も一人でやるとこんなにもさみしく、つまらないものなんだろう。彼女は私にとって、半分を担うほどの大事な人そして親友だった。
でも楽しくなくなった勉強でも私は、必死に勉強した。なぜなら彼女と同じ大学に入りたかったからだ。私と同じような目の見えない人を助けるための、道具を研究したかった。そのために高専に入ったし、日本の、FAS直属の大学も目指している。それは彼女もいっしょだった。
彼女はクラスの中でも、ずば抜けて頭がよかった。目標の点数に届くまでは相当の苦労があった。
そして、高専の入学式の次の日に、私のスマホに一通の連絡が来ていた。それは待ちわびた人からのメールだった。
「元気、私そっちに帰れることになったよ!また一緒に学校生活送ろうね」
と連絡が来ていた。私は、優音君と賢一君にばれないように表情に出さないようにしたが。どうだろうでも気が付いたとしてもきっとどうしてこんな顔したのだろうと思ったはずだ。多分。
神社に着くともう一通連絡が来ていた。
「多分同じ学校行くことになった!また一緒に遊ぼう」
私は、二人が手を合わせている中少しだけ笑みを浮かべていた。でも複雑な気持ちがあった。
もちろん春奈に会えるのは嬉しいし、楽しみではあるけどあってなかった分、ちゃんと話ができるのか不安だった。私が自分の、コミュ力に不安があるわけではなく前と同じように話ができるのかということだ。全く知らない人と初めて話して、すぐ友達になることは得意な方だと私は思っている。でも、前から知り合いでましてや、親友とまで言っていた人に同じようにそれができるのかというと、不安要素が多い。
私は、試すわけではないけど今この絶景の写真をはるかに送った。するとものすごい速さで返信が変えってきた。でも私の不安は、彼女の一言で安心へと変わった。
「すごいね綺麗だね、私も行きたいなそこ 一緒に今度行こうよ」
春奈だ。この文だけでわかるしっかりと春奈だ。ちょっと日本語おかしいけど、でも私が知っている春奈だ。変わってなくて少し安心した。
「いや、こうやってみんなで話したり気持ちを共有するのが嬉しくてさ」
とこっちの話もしてたっけ。優音は、優しい人だな。少し微笑みを浮かべて
「そっか。そうだよね嬉しいよね。うん嬉しい。私も嬉しい」
そうやって、さっきまで見知らぬ他人だったのに。こうやって心を開いて私と、賢一君に優音君、自身の気持ちを言ってくれて嬉しかった。みんなで笑った。
なぜだろう涙が出そうだ。この景色とみんなでいることに。たった1日しか出会って経っていないのに。これはうれし泣きだろうか。でも涙をこらえた。きっと私のこの涙は誰も気が付いていないだろう。それでいい、楽しい時に涙を流すのはよくないからね。
第二の記憶 私の見える世界
私は、生まれつき目が見えない。私は、小学校以前の記憶がない。なぜだろう、思い出そうとしても思い出せない。小学校よりも後の記憶はある。
小学校では盲学校に行っていた。中学校ではアグズアリィアイが開発され盲学校ではない中学校に行った。そして今に至る。
私は月に一回眼科への通院とカウンセリングを受けている。カウンセリングは、アグズアリィアイなどの話は触れず、ただ普通の会話をするだけだ。
「いらっしゃい。こんにちは彩芽ちゃん。どう明日から新しく始まる高校だけど、楽しみ?」
カウンセラーの、高野里子さん。私が小学生の時からずっと私のカウンセリングしてくれている。
優しい声で、ずっと私の目を見て話してくれる。
高野さんももともと事故で目が見えなかったけど、私と同じアグズアリィアイを付けている。小学校までは、二人とも、目が見えない人どうしだった。
でも、いまでは目が見えるようになり、私は初めて見る光に、高野さんは六年ぶりに見える光に、涙を流した。技術的進歩はすさまじいものだと今一度痛感した。
「はい、楽しみです。友達もできて、中学校の時親友だった春花ちゃんも戻ってくるらしくて嬉しいです。新しくできた友達は、優音君と賢一君で二人ともすごくいいひとなんです」
いつも高野さんは、笑って私の話を聞いてくれる。とても楽しい。
「そうなの、それはよかったね。さすが彩芽ちゃんね、すぐに友達ができちゃうんだから」
「そんなことないですよ」
高野さんは人をほめるのがうまい。私は今このように明るくなったが、もともとは暗かった。ほとんど高野さんのおかげで明るくなった。
私が初めてカウンセリングに来たときは、小学校に入る前の六歳の時だった。私も、高野さんもまだ目が見えないときだった。別に目が見えなくても苦労することはなかった。だって高野さんのカウンセリングは、私とお話しするだけだから。ブロックを使ったテストとかふつうは、やるのかもしれないけど高野さんは、アグズアリィアイが開発されてからでもそういうことをやらなかった。
初めてのカウンセリング日。私は、母に連れられ恐らく今まで来たことがない場所に来た。聞いたことのない音がする。私は母に尋ねる。
「ここどこなの。私行きたくない」
なんとなくわかった。母の口調がいつもと違う。決して楽しい場所、とかではないことが分かった。私は母に連れられ、どこかわからない場所に入った。
「いやだ、ここどこ行きたくないよ」
私の声は、かなり響く。結構広い場所らしい。中からは、たくさんの声が聞こえてくる。子供の声、泣きじゃくる声、泣きじゃくるその子を慰める大人声、たくさんの声が聞こえてくる。私はとても怖かった。中に入りやっと母が口を開いた。
「ここはね、病院だよ。今日は注射とかしないし、何も怖いことはないから。先生とお話しするだけ」
正直私は、嘘だと思った。注射しないわけがない。でもここで騒ぐと迷惑になるし、お母さんの手を煩わせたくない。それにいくら騒いだとしても注射からは逃れられない。
母は戸を小さくノックした。木製の扉らしい。音が高く鳴り響く。
「はーい。どうぞお入りください」
中から、明るい声が聞こえた。女の人の声だ。私は男の人があまり得意ではなかったので、女の先生でよかったと少しだけ安心した。でもまだ、不安要素がある。そう、注射されるのではないかという疑念がまだ私にはあった。私は声のする方を見て。
「先生、私に注射するの。いやだよ痛いから…」
通らない言葉だと知っている。だって痛くて怖くても先生は注射してくるからだ。今までいくら嫌だって言っても注射だけは逃れられなかった。
でも違った。それに、においが違う。いつもは消毒液のにおいや、薬のにおいがするけど、ここはアロマのようないい香りがする。落ち着く香りだ。それに座らされた椅子も、やわらかい。眼科のあの固い椅子とは違う。でもこれも何かの作戦なんじゃないか。
「えっ、注射しないよというか、できないね。私もねあなたと同じように目が見えないのよ。だからね注射はしないし、怖いこともしないよ。私とお話しするだけでいいの」
私は一瞬困惑した。失礼なことを言ったのではないかという、気持ちが浮かび上がってきたからだ。でも、まだ疑念を捨てられない。嘘を言ってるのでないだろうか。私は先生を試すことにした。
「先生、この本読めるかな?私はね、目が見えないから読めるよ」
私は、点字の本を先生に渡した。本当に目が見えない人なら、点字が読めるだろうと思ったからだ。今思うと甘い考えだ、目が見えなくても点字を読める人はいる。しかし子供ながら、だいぶ賢い行動といえるのではないだろうか。
「この大きさ、絵本ね。あなたが好きな本かしら。どれどれ」
少しの間沈黙があったのち、先生はその本の内容を口に出して読み始めた。私はちゃんと点字しかない本を持ってきていた。ちゃんと目が見えないのだろうと思った。まだこの時は小さかったのでこういうことしか思いつかなかったけど、でも私はしっかりと先生を信用していった。
「この本は人魚姫ね、どうしてこの本を持ってきてくれたのかな。教えてくれる」
先生は優しい口調で私に、単純な問いを投げかけた。
「えっとね、人魚姫さん人になるために声出せなくなっちゃってかわいそうだなって。なんだか私と似てるなって思ったから。この本別に好きじゃないよ、声出せなかった何も伝えられないもん」
先生は「うん」とそれだけ言って何も言わない本当に、話を聞くだけらしい。
その後も、私の好きな色、好きな食べ物、好きなこと、様々な質問をされた。私はたくさんおしゃべりできて楽しかった。先生はなんでも聞いてくれた。今思うときっと私の話は、長いから退屈だったかもしれない、でもそれを感じさせない優しさがあった。
しばらく時間がたち
「そろそろ暗くなってくる時間だろうから、帰りの準備しようね」
私が聞きたくなかった言葉聞こえてきた。もちろん私は必死に抵抗した。
「帰りたくない、私先生ともっと話がしたい」
迷惑が掛かるとわかっていた。でも、本当に私は先生ともっと話がしたかった。
「そうね、また来ればいいのよ。私はいつでも待ってる。それに小学校に入っちゃえば、お友達と一緒に遊ぶでしょう。私のところには来たいときに来ればいいのよ」
本当に優しい人だ、いつでも会えると言ってくれた。私は仕方なくだけど帰ることにした。
「ばいばい、先生またお話ししようね」
「うん、私も楽しかったわ」
わからなくても、声から笑ってるのだろうということが分かった。温かかった。