ルロイ
今回は井上ひさし氏の「握手」をルロイ修道士視点で書かせてもらいました。著作権に引っかからませんよね?大丈夫ですよね⁈
まあ、ダメそうだったら削除しましょう。
ではお楽しみください。
上野公園にある葉桜のつぼみがそろそろ芽吹く。
私はこれから汽車を乗り継ぎ、仙台の修道院に向かう。そろそろ此処からいなくなるので、教え子と会って別れの挨拶をしているのだ。いやはや、こんなにも教え子がいるとは幸せなことこの上ない。しかし少し疲れてしまった。次の駅まで時間はある。少し休憩できるだろう。葉桜が散るのはまだ先だ。
上野公園に古くからある西洋料理店で教え子が待っていた。
園内の動物園は休園していた。料理店の客数も少ない。
ひと目見れば分かるのだが、彼はわざわざ立って自分の位置を教えてくれた。
「突然呼び出したりしてすみませんね。」
「先生、お話とは何でしょう。」
「今度、故郷に帰ることになりました。カナダの本部修道院で畑いじりでもしてのんびり過ごそうと思います。」
挨拶の握手を交わすと、彼は少し困惑したような顔をした。
「大丈夫ですか?」
「ええ、元気にしてますよ?」
彼は戸惑ったように「そうですか。」と言った。
「そういえば一昨日ですね、杉山くんに会ってきましたよ。あなたは彼を覚えていますか。」
「ええ、少し乱暴者で背が高い男の子だったと思います。」
「今ではもう結婚して子を持ち、優しくて立派な青年になっていましたよ。」
「時が経つと、人は変わりますからね。」
しばらく話すと、食事が運ばれてきた。
一品料理のプレーンオムレツだ。
「おいしそうですね。」
香ばしい匂いがする。きっと美味しいのだろう。
「いただきます。」
彼はインクの汚れを落としきれていない手で箸を持つと、美味しそうに食べはじめた。
人は変わるというが、彼もまた随分と変わったものだ。
やんちゃな様子は消え、名文学を書く好青年になった。
喜ばしいことである。
「先生の人さし指は相変わらず不思議な格好をしていますね。」
そう言われて久しぶりに昔のことを思い出す。
2番目の世界大戦が始まって五ヶ月もした頃だろうか。大戦の影響で日本から故郷に帰る最後の交換船が中止となったのだ。捕虜として丹沢の山の中まで連行され、戦争が終わるまで強制労働をさせられた。休みなく毎日働けと言われたのだ。カトリック教は日曜日の労働を禁じている。そこで私が代表となって「日曜日は休ませて欲しい。その埋め合わせは他の曜日にやる。」と言った。すると監督官は、「残念だが、貴様らの働く時間は朝から晩までの二十四時間。埋め合わせなんてできるはずもないのだ。」と言って棒で私の人差し指を打ったのだ。