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【暗殺者の女 part4】

 「神は人を創造されその恵みを与えたもうたが人は信仰心を忘れつつあります。

今こそ我々は己が罪を自覚すべきなのです」


 教会の聖堂で修道士の女性が熱く語っている。

質素ながら比較的広い室内には長机が並んでおりシスター達が手を重ね祈りを捧げている。

悪徳の街でまともな仕事にありつくのは非常に困難であり、身寄りのない未亡人や未婚女性が多く慈善活動として、また労働力として雇われたのだった。


 (ねえねえ、聞いた? 街道沿いの野盗の話。 一夜で全滅ですって。 これでまた食べ物が入ってくる、冬が越せそうね)

 (きっと天罰だわ。 こんな景気の悪い街で泥棒なんて許せないもの)

 (アンタそれ本気で言ってるの? 絶対に噂の暗殺者の仕業よ! 容姿性別正体不明の伝説の殺し屋。 このゴミみたいな街唯一の誇りだわ〜! ああ、どうせ死ぬなら彼に殺されたい……)


 シスター達がこそこそと噂話をしている。信心深いもの達が集まる教会と言えども仕事を求めて訪れるものも多い。信仰では腹が膨れない。だからこそ彼女らは表面上は敬虔な信徒であるが、その実聖書の一文字も読んだことがないものまでいる始末だ。


 「そこ!さっきから目に余りますよ!」

 

シスターの代表者らしき女性の叱責に彼女らは会話をピタリと止める。話すぎたかと気まずい様子で互いに顔を見合わせる。


 「シスター! いつまで寝ているのですか! 神聖なる祈りの時間に惰眠を貪るとは……神もさぞ憂いておいででしょう。 まったく嘆かわしい!」


叱責されたのは別のシスターだったようだ。

この街では珍しい黒髪を長く伸ばした女性。顔のそばかすが特徴的だ。修道士が語り始めてから終始机に突っ伏していたらしい。

怒鳴られてからようやく目を覚ましたようで顔をあげると目は半開きで涎の跡がくっきりついている。


 「あーすみません。 寝ちゃってましたね。 どうにも昨晩は寝れなくて。 はい。 気をつけます。 はい。 すみません。 はい」


寝起きのせいかダウナー気味の声で話し方もボソボソとしている。顔つき自体は整っているがだらしなくシワのある服装と寝癖の取れない髪はどこか冴えない印象を抱かせる。


 「なんですかその態度は……! 今日という今日は我慢なりません! こうなれば私が直接折檻して……」

 「まあまあ、落ち着きない。 祈りの時間に争うのは愚かしいことですよ?」

 「しかし修道士長……!!」

 「どうです、シスターエマは私が直接指導いたしますのでここは穏便に、ね」


修道士長と呼ばれた女性が説得に入り、祈りの時間は一時中断する。


 (居眠りなんて子供じゃないんですから……そういえば彼女いつもあの調子ですよね)

 (噂じゃ親が教会に多額の寄付をしてるそうよ? だから修道士長もかばうんだわ)

 (私が聞いた話では元貴族なんですって! 昔の恩もあるから邪険に出来ないんだとか。 前科持ちという話もあるわ。 まったく、同じ正体不明でもどうしてこんなに差があるのやら……)

 (まさか噂の暗殺者って彼女だったりして……)

 (ちょっと! あんなのと一緒にしないで! 解釈違い甚だしいわ!)


 「そこ! 貴方達もあまり無駄話していると追い出しますからね!」


怒りが飛び火しそうになったので改めて黙る。

日々の労働と規則により表向きに色恋ができないシスター達にとってはこう言った荒唐無稽な噂話は貴重な娯楽であった。

しかし今回はあながち間違いでもなかったことを彼女らは知る由もない。

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