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【怪物貴婦人 part1】

「「「「偉大なる公爵様に乾杯!!」」」」


ジョッキがぶつかる軽快な音と共に宴は始まった。吟遊詩人が詩を歌い、旅芸人が笛を吹く。

今宵はめでたい戦勝会。冬の寒さなど摘み出せと言わんばかりに酒池肉林の宴は活気に満ちている。兵士達は酒を豪快にこぼしながら呑みちらかし、テーブルには見たこともないような贅を尽くした馳走が並んだ。男達は互いの武勇伝を讃え、祖国への愛を讃え、何より戦いの勝利について讃えた。宴は大いに盛り上がっており皆が命あることを喜んだ。


「諸君! よく戦ってくれた! 私は諸君らの栄誉を讃える! これはちょっとした贈り物だ、存分にハメを外してくれたまえ!!」


公爵の合図と共に会場に扇情的な衣服を纏った女達が投入された。煌びやかな衣装とは反対に彼女らの表情は暗い。それもそのはず彼女らは戦の途中略奪した村から無理やり連れ出された者達、中には敗残兵の女兵士まで混ざっていた。会場は驚きと歓喜に一瞬どよめくがすぐにその日一番の歓声があがる。


「オイオイ、マジかよ! アンタ最高だぜぇ!!」

「カーッ! 流石は公爵様分かってらっしゃる!!一生ついていきますぜぇ!!」

「ヘッ、これだから戦はやめらんねぇなぁ!!」


公爵にはこういった宴の心得があった。勿論飲食に金をケチることはしないがそれ以上に兵達の士気を上げるのには色欲が最上であると理解しているのだ。死ぬか生きるかの瀬戸際で規律や倫理など何の役にたとうか。この公爵もまた悪徳の町で這い上がってきたのだった。

ギラギラと目を輝かせた兵達はもはや半狂乱になり我先にと女達へとむしゃぶりついていく。当然なすすべなく女達は蹂躙され悲鳴があがり会場は戦勝会から一変、色欲の宴へと変貌する。悲鳴があがり乱交が繰り広げられる異様な光景を眺めながら、公爵は非常に満足した様子で席に着いた。すかさず部下が語りかける。


「いやはや、相変わらずお見事ですな。 あの清廉潔白の戦士団までもが貴方の手にかかればまるで獣同然だ」

「少しタガを外してやれば戦士などこのようなものだ。 人は皆良心の皮を被ったケダモノに過ぎん」


公爵の指示でいつのまにか媚薬が部屋のあちこちに焚かれており淫靡な声があがりはじめていた。あるところでは一人の村娘が兵士二人以上を相手にしておりうめき声をあげている。知性のカケラも感じさせない小汚い男がベロベロと下品に乳房を舐めまわし、もう一方の男はそんな相手お構いなしで乱暴に腰を振っている。


「あなたといると人というものの性善性に対して疑問を覚えざるをえませんよ」

「色狂いがよくいう。 敗残兵の女達を連れてきたのはそなたのアイデアであろう」

「ええ、好評なようで安心しております」


部屋一帯に生臭い匂いがたちこめる中、ひときわ混み入っているのが女兵士のいる一角であった。憎しみの対象ということもあってかその人気は村娘の比ではなく無数の手が身体全体を常に愛撫しているような状態だ。そんな容赦ない攻めに色恋に疎い軍人が耐えうるはずもない。性感帯全体への執拗な刺激についにはビクビクと体を震わせて失禁した。歯を食いしばり家畜のような声をあげ見るも無様な醜態。そして不幸なことにそれがまた男達を興奮させるのだった。


「しかしあの調子ではすぐダメになりますな」

「なに、子を孕めば奴隷が増える。使えなくなれば殺して家畜の餌にでもすればよい」

「なるほどそれは無駄がありませんな」


公爵達は邪悪に笑う。時代は弱肉強食。規律も倫理もなくただ弱者は奪われ食い物にされる。

神も天使もなくただ悪徳に溺れるのみ。

そこに何かがいるとすれば悪魔であろう。



そして突然、すべての灯りが消えた。



狂ったような騒ぎから一転、冷や水をかぶせられたかのように静かになる宴。

部屋にいた誰もが虚をつかれた。

室内の気温が急激に下がり、暗闇の向こう側からただならない視線を感じる。


そして、ゆっくりと、軋む音を立て、扉が開く。


貴婦人が立っていた。

美しい絹のような金髪に嫌味のない上品な顔立ち。黒を基調とした上質なドレス。浮世離れした雰囲気と相まってまるで別世界の住人のようだ。

そして、怪物が妖しく嗤う。



 「『お邪魔してごめんなさい』『驚かせるつもりはなかったの』『お腹がすいたわ』『おいしそうね』『いただきます』『いただきます』『いただきます』『いただきます』」

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