表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/33

【愛焦がれた暗殺者】

息を吐くと白くなる、そんな寒空で私はただ待っている。


(あれから三年も経っていたとはな)


更生施設から解放された私は政府の社会復帰プログラムに沿って職業訓練校に通う事となった。訓練期間中はある程度金銭面で支援されるらしい。あの事件から三年、会社は当然退職扱いになっていたので有難い事この上ない。

両親にも久しぶりに会った。父からはこっぴどく叱られた。母は泣いていた。愛想を尽かされなかっただけマシか。良い両親だと思う。娘としてただただ申し訳なかった。


更生期間の記憶は一切ない。機密保持のため削除されたそうだ。時間経過の感覚が無く歳だけをとった事を気味悪く思う。反面こうして社会復帰出来る人間は少ないらしい。出所出来ずそのまま一生施設にいたらと思うとゾッとする。本当に良かった。


それに自由の身となった私にはしなければいけない事があった。私は今とある大学の理系研究棟の前で待っている。流石に建物の中に入るのには身分証が必要らしく寒さを我慢して出口の前で待っていた。何度か関係者の目線が気になったが何食わぬ顔でスマホをいじっていたお陰か直接話しかけられる事はなかった。アラサーだがまだ学生で通るのか非常に気になる。


二時間ほど人を数えて時間を潰しているとようやく彼が建物から出てきた。少し身長が伸びたのか全体的に大人っぽくなったような気がする。大学に入って垢抜けたのかもしれない。久しぶりの再開に緊張しながら声をかける。


「やあ、久しぶりだね」

「うわっ………!!」


ビクッ!と彼が恐怖の表情を浮かべながら固まる。それもそうか、あんな事があったら誰でもそうなる。少しショックだが。


「あ! 違う違う! そういうのじゃないんだ!」


私は慌てて両手を上に挙げる。勿論武器など持っていないがこのまま建物内に逃げられたら困る。


「ど、どうしてここが分かったんですか…? ちゃんと引っ越したのに……」

「あー、それはほら、君の名前を検索したら大学のホームページに研究室と名前を見つけてね。 正直他校にも何人か同じ名前の人物がいたから初めに正解を引けて良かった」

「ひっ………!! 早く警察を………!!」

「ちょっと待て! 落ち着け! ようやく出所出来たんだ! また捕まったら洒落にならないぞ!」


余計に怖がらせてしまったらしい。大事になる前に要件を済ませてしまわなければ。


「何もしない! 本当だ! もう君の事は諦めた! これが終わったらすぐに帰る! 約束だ!」

「だったら何でここにいるんですか!?」

「謝罪だ! 直接君に謝罪がしたかったんだ!」

「謝罪……?」


更生施設を出て私が最初にしたかった事。それは彼への謝罪だった。何故かは分からない。だが猛烈な彼への罪の意識が私に芽生えた。自分の人生を生きていくためにもこの行為は必要に思える。


「あの時は本当にすまなかった。 君を想うあまり私は君の気持ちを考える事を忘れていた。 君は独立した一人の人間だ。 私は当時のいたいけな君を誘惑し体の関係を築いて支配しようとした。 挙句には君を手に入れる為に命まで脅かした。 それは間違っていたんだ。 謝って済むとは思わない。 ただ君に直接謝りたかった」

「……………………………」


深々と頭を下げる。心の底からの謝罪。後のことは考えていなかった。暫くの沈黙。気まずい静寂。


「許しません」


青年が答える。当然だ。私は何を期待していたんだろう。覚悟は出来ていたつもりが何故か心が落胆する。


「でも、その誠意は受けとります。 あなたからそんな言葉が出てくるなんて思いませんでした。 僕達が昔みたいな関係に戻る事はないでしょう。 でも、一人の人間としてあなたを応援します。 これからの人生、どうか頑張ってください」


恐る恐る顔を上げると青年は手を差し伸べていた。


「ああ、ありがとう……! 私にとってすごく意味のある言葉だよ」


私は戸惑いながらも握手を交わす。

誠実に生きていこうと、その時心に誓ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ