【暗殺者の女 after】
【ゲームをクリアしました。更生プログラムを終了します】
「………………………………………………」
「何だここは……? 何もない…… 」
「それに私は胸を貫かれた筈。 傷痕どころか痛みもない… 一体どうなってるんだ……?」
「お目覚めのようですね」
「───誰だ!」
「そう警戒しないでください。 ここは貴方がいたそれとは異なる法則で動く世界。 我々はここを特異点と呼んでいます」
「私の身体は何故治っている? お前は祈祷師か?」
「いいえ。 強いて貴方達の言葉で表現するなら創造主とでも言いましょうか。 少し取り乱しているようですね。 無理もない貴方は体感で三十二年間あの世界に居たのですから」
「さっきから世界、世界とここが別世界とでも言いたいのか!」
「覚醒直後で記憶に齟齬が発生しているようですね。 修正させていただきます」
「────────────」
「『長谷川杏子。二十九歳。独身。職業OL。
元交際相手の男子高校生にストーカー行為をしたとして警察から禁止令を受けるもその数日後に被害者を自宅に監禁。心中を迫るも悲鳴を聞いた住人により通報されその場で逮捕。少年は無事保護された』」
「……………………………………………」
「落ち着いて聞いてください。 貴方は正当な裁判を受けその極めて悪質な行為から有罪を言い渡されました。 判決は更生施設での無期限経過観察。 つまりは貴方が今まで現実だと思っていた世界はそれそのものが一つの仮想世界だったのです」
「すみません。 頭が混乱して… 何を言ったら良いのか………」
「気になさらないで下さい。 皆様最初は混乱されますから。 落ち着くまで歴史解説でもしましょうか。 ご存知我々の生活は恒久的な平和によってあらゆる分野で目覚ましい発展を遂げました。 特に脳科学の分野における進歩は革新的であり人の記憶や時間の体感を自由に操作する技術が発達しました。 そんな中、深刻な少子化と人権的観点から死刑制度が廃止され、囚人の管理費用が社会問題となりました。 どれだけ発達した文明と言えど社会というものからは罪人が生まれるものです」
「それであの世界というわけですね……」
「はい。 犯罪者と言えど人権は保障されます。 なので我々は貴方達に更生する場を与えました。 仮想空間に送り込む事で最低限の維持費で肉体を補完する事に成功したのです。 記憶を一時的に消去し、ある程度の恩恵を与え、それをどう使うかによって貴方達が真の意味で更生するかを観察させていただきました。 そしておめでとうございます。 あなたはその条件を達成したのです」
「……私はこの後どうなるんでしょうか?」
「落ち着いたようですね。 貴方には二つの選択肢があります。 一つはこのまま仮想世界で生きていく事。 その際はこの空間に関する記憶を削除させていただきます。 それからは人を殺めるのも犯すのも貴方の自由です」
「……もしかして見られてましたか?」
「ええ。 正直少しドキドキしちゃいました」
「すみません」
「話を続けましょう。 もう一つの選択肢。 それは仮想世界を捨て社会復帰をする事です。 勿論ある程度の移動制限や監視期間はありますがすぐに慣れるでしょう。 外の世界ではまだ三年しか経っていません。 充分やり直せるでしょう。 その際は仮想世界側の記憶を削除させていただきます。 一応国家機密になるので」
「あの、お聞きしたいのですが。 元の仮想世界に戻る場合、私の現実世界の肉体はどうなるんでしょうか?」
「脳髄以外は破棄します。 あちらの世界では不要ですから」
「………………………………………」
「口外しようとしても無駄ですよ。 どの道ここでの記憶は削除させていただきますから」
「……酷い政府機関ですね」
「最終的な判断は貴方に委ねられています。 ですが我々は貴方を高く評価しています。 死の間際、貴方は相手の感情を尊重する事の大切さに気付く事が出来ました。 それは他の誰でもなく貴方自身から自発的に生まれた感情なのです。 今の貴方ならきっと正しい選択が出来るでしょう」
「…………………………………」
「…………………………………」
「………決めました。 私は──────」




