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【暗殺者の女 part13】

感情が溢れ出す。君がいない。君ともう会えない。それだけの事なのに何でこんなに苦しいんだろう。虚無感が私を襲う。封じていた筈の哀しみが再び溢れ出し気付けば大粒の涙が頬をつたっていた。


「まさか暗殺者が女性だったとは。 君にはつくづく驚かされる」


ゆらりと男が近付く。立ち上がらなければ。反撃しなければ。何のために?何のために私は闘っている?いや、そもそも何のために私は生きている?

死にたい。消えてしまいたい。生きているのがつらい。

少年を失った私は任務を果たせるような状態になかった。敵討ちだと理由をつけ廃人同然の状態から仮面を用いてまで半ば強引に復帰した。そのざまがこれだ。私は何がしたかったんだ。脆弱な心が剥き出しになっていく。


「深い、深い悲しみが君を苦しめているんだね。 可哀想に。 僕達を殺しても何も変わらないというのに。 さあ、楽にしてあげよう」

「『えぇ』『わかったわ』」


最後の気力を振り絞り私は短刀を力なく怪物に振るう。それは攻撃と呼ぶにはあまりに弱々しかった。脅威とさえ感じていないのか怪物は構える事さえせず短刀を受ける。手応えなどあるはずもない。明らかに無駄な攻撃。


「『今』『会わせて』『あげる』」


貴婦人が微笑む。不可視の触手が左腕を掴む。万力のような握力に腕が軋み身体が宙を浮く。圧倒的な死の予感を前に自然と手足は震えていた。久しぶりに感じる恐怖という感情。もはや怪物に抵抗する術はない。


「かえせ…  あの子を…… 私の初恋をかえせ……!!」


死を前にして尚叫ぶ。それは怒声というには儚すぎた。泣き声というには激しすぎた。薄く開いた瞳から涙が溢れ出す。情けなくて、悔しくて、許せないと泣いている。何より非力な自分自身を恥じている。


「初恋? そんなちっぽけな恋心で僕達の愛に勝てるとでも思っていたのかい?」


それは自身の愛に対する絶対的な自負。

信仰と名誉、文字通りすべてを愛する者のために捧げた男だからこその言葉だった。


「────ちっぽけだと?」


その言葉が哀しみに沈んだ筈の心に火をつける。


「この気持ちをちっぽけと言ったな」


それまで心に溜まっていた澱みがまるで可燃物が引火していくかのように別の感情に変わっていく。

それは一種の怒り。この意味の見出せない人生でようやく手に入れた大切なもの。それを否定する人間を生かしてはおけない。


「────許さない」


それは燃えるように鮮烈な想い。

愛と誇り、文字通りすべてを失った私に残された最後の意地。


「許さない!!!!!!!!」


失いたくない。

彼に抱いたこの恋心だけは。

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