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【悪魔崇拝者の男 part6】

ある時から狂っている自覚はあった。

でもそれを止める事は出来ないし止めようとも思わない。


「『とても』『機嫌がいいみたいね』」

「それはそうさ、ようやく君と一つになれる。 こんなに嬉しい事はないよ。 人生で一番幸せな日さ」


最後の儀式を執り行うにあたって彼女はこの廃屋敷を選んだ。勿論魔術的な条件が整っている場所だからとか、邪魔をされにくい森の中にある場所だからとかそういう理由はあるだろう。

でも僕には本当の理由が分かる。これは運命なんだ。


「覚えているかい、マリア。 ここは僕達が暮らす場所の候補の一つだったんだ。 あの時は君に猛反対されたっけ。 広すぎて落ち着かないって」

「『ええ』『覚えているわ』『残念だった?』」

「まさか。 君と暮らせるなら僕はどこだってよかった」


この儀式は僕らの二回目の結婚式になる。

眼前の愛しの彼女は純白のウエディングドレスを纏っている。彼女のために揃えたドレスが我が家ごと燃えてしまったので仕立て屋から丁重に頂戴したのだ。そのあまりの神々しさに神話の世界から抜け出してきた女神と見間違うほどである。筆舌に尽くし難い美しさだった。僕も彼女と釣り合うようにと正装を調達していたが全くの無駄だったように思えるほど見劣りしてしまう。


「ああ、マリア。 綺麗だよ。 ここから全部やり直そう。 何もかも忘れて。 幸せに暮らすんだ」

「『ありがとう』『あなたも』『かっこいいわ』『私達は』『ずっと』『一緒よ』」


彼女と見つめ合う。本当に綺麗な人だった。完全受肉の儀式は大量の魂を贄としなければならない。だからその準備で時間がかなりとられてしまった。

本当は彼女ともっと色々な事がしたかったのに。


彼女の顔を見ていると過去の幸せな記憶が蘇る。

二人が出会った教会。重症だった僕には君がお迎えの天使に見えたよ。ずっと心配そうに看病してくれたね。あの時の君の必死な顔が好きだった。

二人が結ばれた花園。戦いから帰って来るたびに君は困ったような笑顔で迎えてくれた。どんな強大な敵にも君のためなら立ち向かえた。あの時の君の嬉しそうな顔が好きだった。

二人が暮らした我家。君はどれだけ病が重くなっても気丈に振る舞っていたね。でもね、そんな君が死ぬのが怖いって泣いているのを僕は知ってしまったんだよ。あの時の君の泣き顔が今でも忘れられないんだ。

この世界は君との思い出が溢れすぎている。

何をしても何を考えても君の事が忘れられない。


「『偉大なる超越者よ。 供物は捧げられた。 弔いの鐘を止めよ。 その棺を開け放て。 この世界は君との思い出で溢れすぎている。 僕を永遠の君に捧げる。 君は誰よりも美しい』」


それは追憶の【断章】。これまで集めてきた魂を供物として上位者たる悪魔に捧げ、彼女とのかけがえのない日々の思い出を媒体として起こす邪悪な奇跡。類稀な才能を持った悪魔崇拝者とその才覚の全てを捧げた術式が、膨大な量の魂を消費し、純粋に死者を想う時、それは初めて可能となる。

怪物の現世への無期限顕現。生者の理を壊しかねない禁断の秘術。


「愛してるよ、マリア」

「『私もよ』『愛してる』」


見つめ合う二人を中心に淀んだ魂達が鼓動する。これは冒涜的な結婚式。世界は歪みこの世ならざるもの逹がやみくもに狭間で暴れ回り無差別な破壊を振り撒いていく。部屋には無数の幾何学模様が眼球のように浮かび上がり、幾多もの術式が壁を這いずりまわり蠢いている。



「おや─────」



言いかけた男を一本の矢が射抜いた。

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