【暗殺者の女 part10】
そして運命の夜。
時刻は真夜中。肌を刺すような寒さの中遂には雪が降り始めていた。悪徳の街の北側に位置する森林地帯。私はそこに立つ廃屋敷を見据えていた。
教団からの情報と龍脈等の魔術的な観点から目標がここに潜んでいる事は間違いないだろう。
私の精神状態は至って冷静だった。
少なくとも外見上の変化はない。強いて変わった事があるとするならばいつも纏っている漆黒の革鎧の他に髑髏の意匠が施された仮面を装着している事であろう。
暗殺教団には術者の心因的な動揺を排除するための幾つもの外法が存在する。その中でも最上位に位置する呪物がこの【夜父の面】というアイテムである。
この仮面で顔を覆ったものはその時から心を失う。本来未熟な暗殺者に支給されるものでありその強力な効果の反面、精神を汚染され廃人化する危険性のある曰く付きのものだ。
少年を失い動揺した私はあの時結局一歩も動けなかった。殺める事以外に生きる事の意味を見出せなかった。そんな私にとって彼を奪われた悲しみはあまりに深かった。その心を崩壊させてしまうほどに。
だから私は仮面に身を任せた。
結局のところ魂の捧ぎ手としての使命しか残らなかった。すべてはくだらない気の迷いだったのだ。
私の心も。こんな気持ちも。必要のない無駄な物ばかりだ。
生きる意味なんて最初からこれしかなかったではないか。
また元の生活に戻るだけだ。私に愛などいらない。
そんな単純な事が何故分からなかったのだろう。
氷のように冷徹な心で暗殺者として準備に取り掛かった。仇討ちだなどとは考えない。ただ死神の刃としての役割を果たすだけだ。
「『我は汝の眷属にして御業の代行者』『偉大なる我が父タナトスよ』『今宵も御身に贄を捧げる赦しを与えたまえ』」
スキル【冷静】を適用。
精神的な負荷を軽減した。
スキル【平静】を適用。
感情の変化に制限がかかるようになった。
スキル【心縛】を適用。
悲しみ等の心的要因による影響を軽減した。
スキル【消音】を適用。
もの音を立てにくくなった。
スキル【気配消失】を適用。
相手に存在を悟られにくくなった。
スキル【沈黙】を適用。
自身に無音状態を付与。
スキル【生命探知】を適用。
生命を遮蔽物越しに知覚できるようになった。
スキル【感覚敏化】を適用。
自身の五感が鋭くなった。
スキル【破壊工作】を適用。
罠を設置する速度が上昇した。
スキル【夜霧の射手】を適用。
天候による悪影響を矢が受けなくなった。
スキル【黒き抱擁】を適用。
隠密レベルが防御力に反映されるようになった。
スキル【影の祝福】を適用。
死を司る神タナトスの加護を得た。
そして私は暗殺者に戻った。
それはなんて事のない過ち。久しく浮ついた話が無かったので動揺した、その程度の事象。
だからこれは私なりの強がり。
あの男を私の手で始末して君との関係に決着をつける。
でももし私に我儘が許されるのなら。
どうか神様。この気持ちを恋と呼ばせてください。




