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【悪魔崇拝者の男 part5】

楽園のような場所であった。

季節は冬にさしかかろうというのにその野原の一帯だけは不自然に雑草が若々しく緑に生い茂りたんぽぽさえ群生している。少し考えればその不自然さに異界のような恐怖さえ感じる筈の場所。

少年はそこで花を摘んでいた。まだ幼さの残る顔立ちから子供が無邪気に遊んでいるようにも見えるがよく見ると必死に集めた花を編み合わせようとしている。


「君、こんな朝早くから何をしているんだい?」

「……花冠を作ってるんです」


後ろから声をかけられた少年はよほど夢中なのか振り返らずに答える。


「小さかった頃、落ち込んだ時に姉がよく作ってくれたんです。 元気が出るようにって。 もう咲いてないかとも思ったんですがここを見つけられて本当に良かったです」

「なるほど、そういう事か。 ここは特別な場所でね、大切な人との思い出を補完するために下級の停止魔法を応用して作ったんだ。 草も花も枯れることはない。 偽物かもしれないけど僕にとっては大切な空間なんだ」


少年が顔をあげると一人の青年が立っていた。

顔立ちこそ整ってはいるものの顔色は悪く目元には深いクマが刻まれており逆光でその表情は見えない。


「あのっ…! 勝手に入っちゃってごめんなさい! 知らなくって!」


怒らせたかと思い慌てて謝罪する少年。


「いいんだ。 実は良い肥料が最近沢山手に入ったばかりでね。 それに花園は広い。 花冠ぐらい好きなだけ作るといい。 代わりと言ってはなんだが僕にもそれの作り方を教えてくれないかい?」


予想外に温和な対応をされ動揺しつつも少年は安堵し快諾した。二人は丁寧に花を編み込む作業を進めながら会話する。


「お兄さんは魔術師の方なんですか?」

「元、になるかな。 少し遅かったけど本当に大切なものに気付いてね。 今は引退した身さ」

「なるほど…?」

「君は誰にその花冠を送るんだい? 話に出たお姉さんかな?」

「いえ、違います。 でも大好きな人です。 少し乱暴だけどかっこよくて…悩みとか辛い事とか全部吹き飛ばしてくれる人なんです。 でもよく分からないけど落ち込む事もあるみたいで……だから元気になって欲しくて」

「こんな小さな王子様に心配されるなんてその子が羨ましいな。 きっと喜んでくれるさ」


和気藹々と談笑する二人。気付けば時間は過ぎていき二つの花冠が完成した。


「思いの外楽しかったよ。 妻へのプレゼントも出来たしね。 ありがとう。 そろそろ帰ってくるはずなんだ。 彼女は子供好きでね。 是非紹介させてほしい」

「でも吃驚させようと何も言わずに出て来ちゃったので……早く帰らないと……」

「そんな事言わずに、ね? ほら、噂をすれば帰ってきた」


男の視線を追うと遠方から女性のシルエットが見えてきた。黒いドレスを上品に着こなす麗しい貴婦人。山道だというのに体の軸が一切ブレる事なく進む様子はまさに優雅の一言であった。


(あれ?でもなんだろう?この人何だか懐かしい感じがするような……)


「おかえり、マリア。 儀式に都合の良い場所は見つかったかい?」

「『ただいま』『あなた』『ええ』『見つかったわ』」

「それは良かった。 マリア、これは君の為に作ったんだ。 気に入ってくれると良いけど」

「『ありがとう』『あなた』」


男が妻に花冠を被せると彼女はニッコリと上品に笑う。それはまるで一枚の絵画のごとく麗しい笑みだった。冠もまるで天使の輪のようである。


「『あら?』『あなた』『とてもいい匂いがするわ』『なぜでしょう』」


突然こちらに気付いた女性が顔を近付ける。美しい異性の女性に年相応の緊張をする少年だったが何か様子がおかしい。可憐な容姿とは裏腹にこちらを見つめる目はまるで獲物を見つけた獣のように鋭い。


「『分かったわ』『私の』『中の』『誰かの』『知り合いね』『会いたがってるわ』『会いたがってるわ』!!!」


気付けば訳もわからず少年は逃げていた。

奴隷として生きてきた彼の本能が反射的にこの場から逃げ出す事を選択する。恐怖心から振り返る事なく全力で走る。ただただ必死に足を動かす。


「────あっ!」


視界にここにいるはずのない見知った人物が映る。自分を探しに来てくれたのだろうか。こちらに向かって何かを必死に叫んでいる。少年は手を伸ばす。

ごめんなさい、と謝罪の言葉を口にしようとする。


そして少年は肉片となり飛び散った。

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