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【暗殺者の女 part7】

「何故お前が暗殺を依頼する? 街から逃げるのは容易いはずだ。 狙われているのか?」

「いえ……旦那様が私を狙う事はありません。 絶対に」


女は断言する。強い否定の言葉。暗殺者は違和感を覚えた。ここまで儀式について詳細を知るものを何故生かしておく?合理的に考えれば真っ先に始末するはずだ。何故主人が使用人にそこまで情をかける?


「暗殺者様、どうか少しこの哀れな老人の昔話を聞いてはくださいませんか?」


女は語り始める。


「まだ若かった頃、私はとある地方貴族家に仕えておりました。 貴族と言っても所謂没落貴族です。 そのせいか先代の旦那様は気難しく機嫌が悪い時は折檻の名目で犯される事さえありました。 小娘をかばう者もおりません。 生きる事に希望が持てず死ぬ事すら考えました」

「……………………」


暗殺者は黙って聞く。使用人とは言っても主人との身分的格差は絶対的な者だ。抵抗など出来る筈がない。


「そんな時、旦那様が生まれます。 旦那様は汚れなく、獣しかいない世界で唯一あの方だけが人のようでした。 心の支えである彼を女として好きになるのに時間はかかりませんでした。 だからこそ家出を決意され共に行こうと誘われた時どれだけ嬉しかった事か……」


幸せそうに女は目を細めた。地獄のような日々の中差し伸べられた手にどれだけ彼女が救われたか分かる。


「ですがそれは許されない恋。 私は諦めようとしました。 それに彼に尽くす事が出来る喜びさえあれば私には充分だったのです」

「……だがその男が恋をしてしまった、と」

「…………………………」


女はしばらく間を置いた後、悲しみとも怒りともつかない複雑な表情を浮かべ続けた。


「……彼は私のものです。 私が最初に想いを寄せた筈なのに…… ですが神に誓ってこの気持ちは殺して生きてきました。 奥様が亡くなった時、内心安堵しました。 ようやく彼女を始末しようとする不徳な誘惑から解放されたと。 ですが旦那様が奥様を諦める事はなかった…… 

私は死後も彼の寵愛を受けるあの女が許せないのです……!」


女は懺悔室で己の罪を告白する。喉から手が出るほどの渇望。禁じられた想い。愛される者への羨望。憎しみ。嫉妬。それらがすべてここにきて溢れ出した。


「三千万ゴールドあります。 明日の深夜旦那様が集めた魂を贄にアレをこの世に定着させる最後の儀式を行う筈です。 その時怪物は一時的に活動を停止し旦那様は無防備になります。 どうか暗殺者様この依頼を引き受けていただけないでしょうか?」

「…………怪物の術式、悪魔との契約内容、知っている内容を今からすべて教えてもらおう」

「おお! それでは引き受けてくださるのですね! 神よ…! 感謝いたします…!」


正式に暗殺の契約が結ばれた。

暗殺者は終始感情を見せる事はなくただ淡々と女から必要な情報を引き出した。

最後に女が暗殺者にロザリオを差し出す。


「これは何だ?」

「奥様が死の間際まで祈っておいでになったロザリアです。 何かの役に立つかもしれません。 是非当日はお持ちください」


悪魔に十字架が効くものか。

暗殺者は内心呆れながらそれを受け取った。

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