【暗殺者の女 part6】
「本来であれば外の者があの方に直接面会するのは禁じられております。 とはいえ緊急事態である事もまた事実。 必ず指示には従う事を条件に会話をお許しくださいました。 何卒慎重に言葉をお選びくださいませ。 なんせあの方は本当の意味での死を司る神なのですから」
一人の女性が教徒に案内され教会の中を歩いていく。初老と言っても差し支えない年齢であるものの歩く際の所作は美しく育ちの良さを感じさせる。
「命など惜しくはありません。 私にはここに来た使命があるのです」
女性の名前はソフィー。現在街で大量殺戮を繰り返す青年を長年世話してきた女中である。
彼女は【暗殺者】に依頼をするためにここに来た。
死を司る神を信仰する邪教。その深部がこんな街中の教会にあった事に内心驚いていた。
「ここからは貴女一人でお進みください」
気付けば教徒は消えており廊下を進んだ先には懺悔室が設けられていた。それは罪の告白をするための小部屋である。懺悔をする者とそれを聞く者の間には仕切りが設けられとおり顔は見えないようになっておりその内容は外では秘匿する決まりである。
「他言無用…という事でしょう」
女性は今一度覚悟を決め小屋の中に入り座る。中は何の変哲もない懺悔室でありとてもこれから殺し屋に会うとは想像も出来なかった。
「要件を聞こう」
それは何の前触れもなかった。人の気配が一切しなかったのだ。女性は心底驚いた。入る前反対側の部屋には確かに誰もいなかった筈だ。
「貴方が暗殺者様ですね」
「……………」
答える必要はない、そういう事だろう。確かにその通りだ。どれだけ言葉で説明されるよりもその洗練された動作の静けさには説得力があった。
「貴方に頼みたいのは旦那様…今まさにその手を汚している私の主の暗殺です。 奥様を失ってから旦那様はまさに悪魔に取り憑かれたかのようにおかしくなりました。 禁忌に手を染めた彼は遂にあの恐ろしい怪物を生み出してしまったのです。 まだ公にはなっていませんが百人規模の軍隊ですらあれを止める事は出来なかった」
公爵率いる聖戦士達の敗北は混乱を避けるため一般には口封じがされた。だがその出来事の規模の大きさから隠し切るのは難しく一部の者達へ噂は広がっていた。
「怪物退治は専門外だ。ほかを当たれ」
「お待ちください! 確かに怪物を倒す事は通常不可能です。 あれはこの世の理から外れている言わば自然災害のようなもの。 例え千人、万人の兵を集めても結果は同じでしょう」
「待て。 あれは魔物ではないのか?」
暗殺者が疑問を口にする。それもその筈この世界には人間と魔物その二つしか存在しないという事になっている。他には中間の亜人がいるぐらいでそれ以外の存在は確認されていない。
「あれは悪魔との契約によって生み出された存在。 人間の武器では殺す事はおろか傷付ける事さえ出来ないでしょう」
少し間を置いて覚悟を決めたように女性は重い口を開く。
「……ですが術者の旦那様は別です。あの怪物に気付かれる事なく旦那様を殺害する事が出来ればその時点で契約は無効となる。
あの怪物も現世に存在を維持できない。
それが出来るのは暗殺者様、貴女しかいないのです」




