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【怪物貴婦人 part4】

「総員!!戦闘態勢!!」


公爵の号令と同時に聖戦士達は身構える。

時刻は真夜中。冒険者の【狩人】達から構成された偵察班の報告。それにあった怪物の寝床らしき民家を軍団は包囲する。暗闇を照らす松明の光が夜の闇に無数に広がり此度の怪物狩りの異様な規模を物語っている。


「魔術師部隊!!攻撃開始!!!」


戦闘の合図。

十数名の魔術師達が一斉に【断章】を詠唱し世界の理に呼びかける。


『原初の魔法よ、我に応えよ。炎よ在れ。』


熟練の魔術師達による一切の乱れなき同時詠唱。巨大な術式が組み上がり魔法陣が展開される。放たれるは原初の魔法。単純ながら圧倒的破壊を顕現する火の魔法。全長ニメートル以上の巨大な火球が民家を目掛け発射される。


そして着弾。爆発音。あまりに呆気なく建物は吹き飛ぶ。炎は無慈悲に広がり住宅を包み込む。突然起こった大規模な発光源に周囲が一気に明るくなる。


「まだだ!手を休めるな!二発目用意!」


そして放たれる二弾目。着弾。破壊。

三弾目。四弾目。このあたりで事情を知らない参加者達は困惑し始めた。病的なまでの殺意。もしくは恐怖。そしてその感情の源を彼らは体験する事となる。


「これはこれは皆様。 集まっていただきありがとう。 まさかこんなに来てくださるとは。 碌なもてなしも出来ず申し訳ない」


劫火の中、突然一人の男が現れる。

異様。あれだけの破壊を受けて尚何事も無かったかのように立っている。そしてどこか芝居がかった言動。その不気味さが男の異様さを更に引き立たせる。暗闇の中でさえ分かる程美麗な立ち姿。状況が状況でなければそれはさながら御伽噺に出てくるような王子を思わせた。


「だが君達は実に運がいい。 紹介しよう。 天国から舞い戻った美の化身! 僕の愛する大天使にして妻! マリアだ!!」

「『あらやだ』『あなた』『恥ずかしいわ』」


呼ばれて背後の影から出てきたのは黒いドレスの貴婦人だった。陶器のような白い肌と黄金の髪。何かの冗談のように喪服用の衣服を着ているが隣の白装束の男と並ぶと違和感はなくそれどころか似合ってさえいる。


「『ごきげんよう』」

「見た目で油断するな! 戦士隊傭兵隊は防御態勢!! 魔術師隊は詠唱の開始!! 祈祷師隊は支援と解析を急げ!!」


因縁の相手の登場に公爵は素早く支持を出す。

瞬間。最前線の重装兵達の前に男女は移動していた。あまりの速さ。反応が遅れた彼らに怪物は容赦なく襲いかかる。踊る銀と赤。二人の兵士が鎧ごと同時に真っ二つに引き裂かれたのだ。


「『そして』『さようなら』」


戦士達が二人に一斉に斬りかかる。同胞の仇は目の前にいる。しかし、見えない壁に阻まれるように途中で止まる刃。まただ。この怪物を守るように見えない何かが常に本体を覆っている。


「戦士隊は後退! 物理攻撃の効果は薄い! 大楯隊を前にして後方に怪物を近付けるな! 魔術師隊は随時攻撃!!」


得体の知れない相手を前に公爵の指揮は完璧であった。前線に守りを固め怪物を釘付けにし遠距離攻撃で確実にダメージを与えていく。火球は着弾前に弾かれ決定打にはなっていないが、事実無敵を誇った怪物も初撃以外で有効打を与えられていない。


「『あなた』『どうしましょう』『手強いわ』『どうしましょう』」

「悩む姿も可憐だね。 心配ないさ、僕達も武器を使えばいいんだよ」

「『ないわ』『そんなもの』」

「あるじゃないか、ほら。 目の前に」

「『あらやだ』『本当ね』」


悪寒がした重装兵は構えるが突然脚を下から何かに掴まれて空中に持ち上げられる。戦士は抵抗するように暴れるが束縛はびくともしない。


「くそっ…! どうなって……!!」


言葉を終える前に哀れな戦士はものすごい速さで傭兵の集団に叩きつけられる。



「」



重装備の重量に怪物の恐ろしい程の握力による速さが加わり数人が巻き込まれて木っ端微塵になる。


「まずい…! 陣形が破られる…!! 祈祷師隊! あの女の正体は分かったか……!??」

「公爵様……あれ、何に見えてます???」

「どういう事だ!!!」

「肉塊が…… 目玉が…… 触手が…… あれはモンスターなんかじゃない…! モンスターなんかじゃないんだ…! あれは…! あれは…!!」

「おい! もう見るな! イカれちまうぞ!!」


別の祈祷師が慌てて目を覆うが術者は既に手遅れだったようで泡を吹きながら倒れ込んでしまった。

その目はあらぬ方向を向いており到底戦闘には復帰出来そうにない。怪物の方を見ると血によって濡れた触手のような部位が炎に照らされて影を作っている。


「駄目だ……! クソ! コイツもイカれちまった!」


気付けば祈祷師の何人かが被害を受けてしまったようで倒れ込んでいるもの、痙攣しているもの、穴という穴から血を流しながら嘔吐しているものまでいる。


我々は何を相手にしているというのだ。

陣形は崩れ始め死体が飛び交う。腕がもげる。頭が潰れる。悲鳴。食いちぎられる。爆発。広がる炎。死体が舞う。四肢が弾ける。叫び声。

恐ろしい速度で生が浪費されている。考えろ。考えなければ。


「全軍、攻撃態勢!! 守りを捨てよ!! 男だ! きっと男が術者だ! 女は無視して男を狙え!!」


捨て身の最終攻撃命令。部隊は崩壊寸前。これ以上被害が出れば敗走は確実。事実敗北を察した何人かの冒険者達は先に逃げ始めていた。


「やっと気付いたようだね」

「『あなた』『捕まっていてね』」


怪物は男をお姫様抱っこのように抱き抱えると見えない触手を利用して踊るように宙に飛んだ。


「『あの頃を思い出すわね』」

「ああ、君は恥ずかしがり屋だったから。 夜にこっそり二人で踊ったものだね」


鼻歌まじりに怪物は一気に魔術師部隊の真ん中に着地する。そしてその場でくるっと優雅にターンを決め魔術師達を吹き飛ばすとすかさず何人かを空中に持ち上げた。


「『生きたいなら』『魔法を』『続けなさい』」


魔術師達は悲鳴を上げ命乞いのように【断章】の詠唱を開始する。勿論今度は味方に向けて。

放たれる火球。焼き尽くす劫火。向かってくるものも逃げ出すものも等しく炎は焼き尽くしていく。







「踊ろうマリア」


しばらくしてそこには二人だけが立っていた。

勿論音楽はない。思い出の曲を頼りに二人は幸せそうに踊る。


「ああ、なんて幸せな気分なんだ」

「『私もよ』『あなた』『ずっとこうしていたいわ』」

「君が望むならなんだってするさ」

「『ありがとう』『愛してる』」

「僕もだよ。 愛してる。 例え地獄の業火に焼かれる事になっても」


死体が焼ける匂いの中、瓦礫の上で踊り続ける。

そう、まだ幸せだったあの頃のように。

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