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【暗殺者の女 part5】

「あ、おかえりなさいっ」

「────。 ああ」


教会の自室に戻るや否や鈴の音のように爛々と挨拶をされ思わず苦悶の表情を浮かべてしまう。問題というのは放っておいても解決しないものでとりあえず自室に連れ込んだはいいもののこれからどうするか見当もつかない。

いっそ私の恐ろしさに逃げてしまえばよいのだ。コイツは何故こうまで私に懐いている?私がその気になれば一瞬で絶命から死体処理まで終わるというのに。もういっそ始末してしまおうか。何事も無かったように明日から暮らすんだ。心など私にはいらない。私は魂の捧ぎ手なのだ。私には崇高な使命があるのだ。

しかし。しかし、だ。隠れ家として教会に住み着いてからずっと孤独に暮らしてきた。シスター達に正体を気付かれないようにするのは容易かったが必要以上に関わる事をあえて避けてきた。結果友人はいないし勿論同居人もいない。

だからほんの少し。帰るのを待っていてくれる相手がいるのが嬉しかったのだ。


「……部屋が片付いたな」


気付くのに遅れたがお世辞にも綺麗とは言えなかった自室が見違えるほど綺麗になっていた。机に乱雑に置かれていた依頼の資料は丁寧に棚に整頓され、足の踏み場の無いほど散乱していた衣服は洗濯に出されたのか消えている。正直に感心した。


「はいっ 奴隷なので掃除は得意なんです。 しないとぶたれるので……」


自分より遥か歳下の相手に家事をさせて恥ずかしくないとは言えず決まりが悪そうに顔を背ける。私は殺し屋だ、社会性などあってたまるか。死体の掃除は得意なのだが。


「ここはぶたれる事がないから好きです。 食べ物も美味しいし。 こんな生活ずっと出来たら幸せだなって…」

「あまり調子に乗るな。 お前が何を勘違いしているのかは知らんが私は……」

「はい、殺し屋さんですよね」

「……そうだ」


言葉を先回りされてしまいバツが悪くなる。コイツと話していると調子が狂う。何の躊躇もなく好意を向けてくる癖に殺される覚悟だけは出来ているようなツラをしている。それが私を無性に腹立たせる。


「食べ物のお礼のつもりです。 あそこでは殺せない事情があったんですよね…?」

「……………」


何か勘違いをされている。そもそもコイツもしや殺される前提で逃げなかったと言うのか?それこそ異常だ。生物として歪んでいる。何故私をここまで動揺させるのかが分かった。この少年は死を恐れていない。いや、寧ろ終わりがある事を救いだとさえ考えている。それが気に食わないのだ。


「ナイフで殺すなら服とか脱いだ方がいいでよね? 折角借りた服を汚すのは嫌で…」

「………ああ、全部脱げ」


奴隷の少年はゆっくりと緊張しつつ上着を脱いでいく。部屋に招く際水浴びをさせたおかげか色白く瑞々しい肌が妙に生めかしい。痛ましい虐待の傷が裸だと多少目立つが食事の改善で当初よりはマシになった気がする。これが若さか。少年は脱いだ衣服を畳んでまとめており、よく躾けられているのがうかがえる。


「それではお願いします。殺してください」

「………………………」


どうしたものか。一言で言えばやりづらい。

いや、もうなんだか疲れてしまった。早く殺してしまいたい。この動揺を終わらせたい。

だが明らかに自分の中で殺意とは別の感情が邪魔をしている。情欲だ。どうせ死ぬのだ何をされても文句はないのではないか?所詮身寄りのない奴隷だ。責任も何もないのではないか?

それに……


「いいか? 私はお前のような奴が嫌いだ。 人は例外なく命の終わりがある。 限られた時間の中で足掻く様が美しく尊いのだ」

「あのっ、えっ、ちょっと……?」


少年を軽く押し倒すと驚くほど華奢な身体は綺麗にバランスを崩す。そこに私は覆い被さって身動きが取れないように固定する。そしてその勢いのまま自身の唇を少年のそれに重ねる。唇同士が触れ合う感覚も束の間更に舌を入れ熱いディープキスをする。


「ぷはっ……!」

「ほら、足掻け。 どうした? 死ぬのが怖くないんだろう? 抵抗しないともっと酷い目にあうぞ? それとも喜んでるのか? 無理やりされるのが癖になってるんじゃないか? ええ?」


どのみち放っておいても死にそうなやつだ。

それなら私は好きにさせてもらう。

未知の快楽に耐えられないのだろう。少年は涙目になりながらも抵抗しようとするがそれも無駄に終わる。当たり前だ。邪教仕込みの房中術にガキが抵抗出来るわけもない。毎度意地らしく抵抗してくるのもかえって愛らしい。


その行為は暫く続いた。

気に食わなかったコイツだが気付けば二人で仲良くベッドに入っているので男女というものは分からない。幼い少年との過ちが認められず自暴自棄になっていた私も次第にこの状況に開き直ってしまい暫く世話をする事に決めた。


「次また殺してくださいなんて舐めた事言ってみろ。 この程度じゃ済まさないからな」

「優しいんですね」

「私が言うのもなんだがどうかしてるぞお前」

「お似合いって意味ですか?」

「………………黙れ」


馴れ初めはどうあれこれまでの日々では感じえなかった何かに私は少し嬉しく思うのだった。

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