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第11話

 翌日エレシアは困っていた。とっさに布を持ち帰ってしまったがどうしたものか。誰に相談したらいいかも分からない。


 その時、店の扉が開きカルロが入ってきた。


「カルロ様!」

「アマリア嬢、そんなに私に会いたかったんですか? いえ、今のは冗談です。聞かなかったことにしてください。グレン様に叱られてしまう」

「グレン様はご一緒ではないのですか?」

「残念ながら。ちょっといろいろあって忙しい身ですから」

「あの、カルロ様……。お忙しいのは重々承知しているのですが、少しお時間いただけませんか?」


 もちろん、と承諾して席に着く。


 話とは何だろうか。まさか愛の告白? まぁないだろうけど、もしそんなことあったらグレンはどうするかな。それはそれでちょっと面白そうだ。

 と内心わくわくしていたが、おずおずとやってきたエレシアの表情を見てそんな事態ではないことを悟った。


 エレシアは早めに店を閉じ、カルロの正面に座る。


「あの、カルロ様は魔獣を見たことはありますか?」


 会話の意図が読み取れず、ただうなずく。

 「実は見ていただきたいものがあって——」とエレシアが取り出したものを見て、カルロは思わず眉をひそめる。エレシアは昨日教会での経緯をカルロに話した。カルロは眉間にしわを寄せたままそれを聞いていた。


「昨日からずっと持っているんですか?」

「はい。いえ、あまり手元にあるのは嫌だったので、極力離れたところにおいてました」

「申し訳ないですがちょっとついてきていただけますか?」


 カルロは少し何かを考えた後そう言って、脱いだ上着で布をはさんで店を出て速足で歩いていく。普段から女性をエスコートし慣れているカルロらしくなく、エレシアは早歩き、いやほとんど小走りでついて行く。グレンの屋敷に着くとそのまま執務室の奥にある鍵付きの部屋へエレシアを通す。


「エレシア嬢、急かして申し訳ございません。今何かお持ちしますのでひとまずお座りください」


 軽く息が上がっているエレシアに椅子をすすめ、先ほどの布を箱に収めた後、何かを奥から持ってくる。それを見てエレシアはぎょっとする。


「どうして……」


 教会でしか見たことがないものがそこにはあった。


「ご存じの通り浄化の水晶です。ひとまず両手でしっかり持ってください。できれば先ほど布を入れていたポケットの上のあたりで。そう、そうです。グレン様は今ちょっといろいろあってベゾンシュタク王国に行ってるんですが、そろそろ戻ると思います」


 まさか非合法に手に入れたものではないだろうが、下手して水晶を割ったりでもしたらエレシアがどうにかして償えるものとは到底思えなかった。

 カルロは少し落ち着いたのか険しい表情が消え、両目にいたずらっ子みたいな光をともし始めた。グレンの結婚相手(希望)の向かいに座り、使命感に満ちた顔で言う。


「よければグレン様が戻られるまでここでお待ちになりませんか? ずっとお店に行けず残念がっていたので、エレシア嬢のお顔を見たら安心すると思います。口数が少ないだけで決して怖い方ではないんですよ」


 グレンが残念がっていたと聞いて、エレシアはふいに嬉しくなった。


「えぇ、優しい方なのは存じております。あの、先ほどの布は?」

「えーと、詳しくはお話しできないのですが瘴気を帯びているようです。魔獣の瘴気は触れると人に悪い影響を及ぼすと言われているのです」


 グレンは魔獣退治も対応しているから水晶を所有しているのかもしれない、とエレシアは納得する。ふと、チチェリ王国に来る途中で魔獣に遭遇した時のことを思い出す。あの時の無責任な態度がどうしてもその後のグレンと結びつかなかったが、魔獣の瘴気から乗客を守ろうとしてくれていたんだと分かり嬉しくなった。


——やっぱりグレン様はお優しい方だわ。


「あ、グレン様が戻られたようですね。ここで少しお待ちください」


 そう言ってカルロが出迎えに行く。


 しばらくして激しく扉が開かれグレンが入ってくる。驚いているエレシアから水晶を奪い取って、両手をつかんで異常がないか確かめる。


 久しぶりのグレンは、本当に忙しかったようで疲れた表情をしていた。黒い瞳でまっすぐにエレシアを見つめ「大丈夫か」と問いている。


「だ、大丈夫です。特に具合が悪くなったりもしていません」

「そうか」

「グレン様、エレシア様がびっくりされています」


 カルロはそう言ってグレンをエレシアから引きはがす。執務室へ追い出した後、エレシアに小声で言う。


「布をポケットに入れてたことは言わないようお願いします」


 エレシアはポケットがある太ももの辺りを見て思わず赤くなる。




 念のため着ていた服を処分するためエレシアが別室で着替えている間、カルロたちは持ち込まれた布を検分していた。布に瘴気がこもっているのは間違いない。エレシアが言うとおり、水晶にこの布がかかっていたなら、水晶の浄化作用が削がれていたのだろう。その結果浄化が遠くまで行き届かず、谷に流れ込むように南領に瘴気が溜まっていたと推測できる。


 問題は一体誰がそんなことをしたかだ。

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