水魚の交わり
最後まで二人に救いはありません。
苦手な方は、backでお願いします。
何度手を貸し言い包めようとも助からず、月日に曜日、天候や季節を変えても変わらない。
何度悲劇を回避しても別の悲劇が起こり時が戻る。
人の命灯は、定められた時間でしか輝けぬが故に未来を変えたとしても潰えてしまうと言う事なのだろうか?
それでも、悪夢から目を覚ます度に模索し続けてしまう。
今度は……今度こそは、幸せな夢を見られると信じ続けて。
何度も訪れた死期を搔い潜り、初めての光景を目にした。
隣国に嫁いだアイツの妹姫様に子が産まれたとの知らせで祝いに行く道中、何時もの道は轍が深く車輪が荷の重さで沈んでしまって進めなくなってしまった為に迂回した其処は、左右を高い岩肌に囲まれた足場の狭い山道。
隣国への道は、2つしかなく今回は危険なルートを進むしか選択がなかった。
戦好きで喜々として先陣を駆ける死にたがりの3人が前を行き、次に傍付き兼アイツの剣と盾を任された俺がいてその数歩後ろにアイツと腕に覚えのある小姓2人が睨みを利かせている。
因みに、役に立たなくなった車は村に預け、祝いの品だけ予備の馬に括り付けたので幾分か質素な一団となってしまった。でも、あの姫様なら経緯も含めて笑ってくださるだろう……そのお姿が目に浮かぶ。
思わず零れてしまった笑みに同じ事を考えていたらしい知己の笑い声が聞こえて振り向くと、凄く幸せそうな顔で回りを見れば、その笑みを焼き付けた護衛達は俺と同じ―――自身の命はアイツより軽い。と、誇らし気な顔をしていた。
今日は早めに休んで明け方に一気に峠を越えようとアイツが言ったので、幕舎を設営して仲間と晩御飯を狩りに行こうかと声を掛けようとした時、山賊が乗り込んできた。
目立たぬように庶民の装いをしていたので行商人と間違えたのだろう。運の悪い奴等だ。
アイツが出るまでも無く蹴散らしていると何人かが俺に指で合図を送って来る。
―――暗殺、報復、殺害―――
何故、俺にだけ変換されてキコエルのだろう?
不思議に感じた瞬間、繰り返した出来事が点となり今、線となって繋がった。
どうして今まで思い出せなかったのだろう?
どの世界でも俺は疑問を持たず皆といてアイツの死を看取り続けた……。
自分の記憶を捻じ曲げる程、心地の良い空間だったんだろうな。
俺は山賊にだけ分かるように小さく横に首を振るとアッサリと去っていった。
夕御飯を食べて直ぐに自分の幕舎に下がり白の装束に着替えて筆を取った。
俺はアイツが滅ぼした国の生き残りの皇子で、居心地が良すぎて言い出せずにいた事。裏切りや貶めようと思った事は一度として無く皆が好きだった事。
書きたい事が沢山ありすぎて、サラサラと紙の上を滑っていく。
何時もアイツの為に命を落とす行為をするとアイツが代わりに死んで戻っていた。そうか、自分一人が死ねばアイツは助かるんだ。自害する事を勅命で禁じられていて思い至らなかったな。
書き終え、筆を置きながら溜息と笑いが零れた。
外は、何時の間にか宵闇に包まれている、時が来た。
焚火を囲み談笑する皆の声を空を切る音が切り裂いた。
―――何時までも、愛している―――
背から植えられた種が胸で芽吹き花を咲かす其処を確認しようと上げた手は愛でるように撫で擦りながら落ちた。
明朝、彼の死と手紙が見付かり騒ぎとなる。
戻れ……戻ってくれ!!何故、今度は戻らないのだ!!っと、王は白む空に慟哭を上げた。
王は、デジャブか予知夢だと思っていたけど、男が生き返らないことで時が戻っていたのか?っと、気付いてこの後神に……祈りませんw
個人の癖ですみません。
助けてくれない神になんて縋らないし彼の後も追わなければ、彼を思い続けて腑抜けもしません。
この後、何食わぬ顔でお祝いを持って行って、彼の国が発展するように手を貸して自分も皇帝としての役目を果たして立派な名君になります。