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言わなければ良かった

「こ、こんにちは。ギルバート様」

 とりあえず挨拶を返すと、ギルバートの眉が少し顰められた。

『ギル様』と呼ばなかった件について何か言うのかと思ったが、ため息をつくだけだ。


「とりあえず、そこから出たらどうだ」


 その言葉に自身を見下ろしてみれば、茂みに下半身が埋もれ、上半身は枝と葉にまみれている。

 どう見ても、貴族令嬢のする格好ではない。

 庭師だって、こんなことにはならないだろう。

 さすがに恥ずかしくなって茂みを出ようとするのだが、何かに引っかかって上手く抜け出せない。


「あら? あら?」

「靴が引っ掛かっているんだろう。まっすぐ上に引っ張るといい」


 そう言われても何かに足を取られてしまい、片足ではバランスが崩れて上手く立てない。

 よろよろと揺れながらどうにか足を引き抜こうと頑張っていると、ギルバートのため息が間近に聞こえた。


「――力を抜け」

「え?」


 返答する間もなく、何かに持ち上げられてふわりと体が宙に浮く。

 ギルバートに抱えあげられたのだと気付いた時には、既に地面におろされていた。



「葉っぱだらけだな。何であんなところで茂みにはまっていたんだ?」

「――な、何をするんですか。女性に軽率に触れるのは、どうかと思います!」

 セアラが精一杯の文句を口にすると、ギルバートの頬があっという間に赤く染まった。


「触れるって――救助活動だ! 大体、婚約者なんだから、これくらい問題ないだろう」

「せめて一声かけてください! でも、ありがとうございました! 失礼します!」


 恥ずかしいやら怒りたいやらで、感情がぐちゃぐちゃだ。

 こういう時は、仕切り直したほうがいい。

 慌てて立ち去ろうとするセアラの手を、ギルバートがつかんだ。


「だから、軽率に触れるのはどうかと」

「セアラがここに呼んだんだろう。話もせずに行くつもりか」

「……呼んだ?」

 言われていることがよくわからず、首を傾げる。


「セアラが中庭の四阿(あずまや)に来るというから、待っていたんだぞ」

 何と、あの生徒達はギルバートを呼び出すのにセアラの名前を使ったのか。

 確かに口止めは忘れていたが、それにしたって酷い。


 つまりギルバートは、ここにセアラが来ることを知っていたわけだ。

 こうなると先の二人との会話も、わざと普段と変えている可能性すらあるではないか。



「……そういえば、アイリーンさんはどうしました?」

 先ほどまでギルバートと話をしていたはずの黒髪の少女だが、四阿どころか見渡す限り中庭にも姿が見えない。


「アビントン嬢なら、もう戻った」

「そ、そうですか」

 しかも、アイリーンとの会話を邪魔してしまったらしい。

 ……いや、別に物音を立てたわけでもないのだから、気付いたギルバートの方がおかしい気がする。


「あの。何故ここに私がいるとわかったんですか?」

「香りがしたから、見に来た」

「香り?」

「セアラがいつもつけている、柑橘とミントの香りの……」


 確かに、つけている。

 剣の稽古をしていた頃に汗の臭いがしないかと心配になり、つけ始めたものだ。

 爽やかできつくない香りが好みで、稽古をしなくなってからも何となくつけていたが……まさか、それを嗅ぎ分けるとは。


「……ギルバート様は、匂いフェチだったのですか?」

 柑橘かミントか、あるいは両方か。

 ともかく、偶然ギルバートの好みの香りをまとっていたせいで、見つかったわけか。


 これは今後の円滑な調査のためには、香水をやめるか変えるかしなければ。

 それにしたって、四阿からこの茂みはそれなりに距離がある。

 驚異の嗅覚と言わざるを得ないが、好きなものは特別ということだろう。


「違う。この香りはセアラが……いや、知っている香りだったから、わかっただけだ」


 知っていると嗅ぎ分けられるとなれば、下手な香水をつけてもすぐにばれてしまう。

 これは、今後は香水なしが無難か。

 だが剣の稽古を再開してしまったので、できればこのままつけていたい。

 実に難しい問題である。



「おい。どうかしたのか?」

「何でもありません。どうやら手違いがあったようです。それでは失礼します」

 今度こそ立ち去ろうと踵を返したのだが、再び手をつかまれる。


「ですから、軽率に……」

「怪我をしたのか?」

 ギルバートがじっと見ているのは、先日剣を鞘に入れそびれた時の傷だ。

 それほど深くはないが、まっすぐな赤い筋になっているので、結構目立っていた。


「これは、剣を鞘に入れるときにちょっと切っただけです。久しぶりだったので、力がうまく入らなくて……」

「――剣の稽古を、再開したのか」


 水色の瞳が驚きの声と共に見開かれる。

 それを見た瞬間、セアラの中に()()()の記憶がよみがえった。



『――俺よりも、セアラの方が強いから。守るなんて、言えないな』



 同じように水色の瞳を驚きに染めて、眉を顰めたギルバートはそう言った。

 あの日から、すべてが狂いだしたのだ。


「……あ、あの」


 ――言わなければ良かった。

 怪我を気にかけてくれて嬉しくて、ついしゃべってしまった。

 剣をとるセアラを、ギルバートは嫌っているというのに――。


「――失礼します!」


 ギルバートの手を振り払うと、そのまま四阿を飛び出して中庭を走り抜ける。

 セアラは必死に足を動かした。

 そうしなければ、とても涙をこらえることができなかったのだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] なんだか、主人公がナイスメンと結婚して幸せになる姿をギルバートくんは指咥えて端から眺めてれば良いよ…という気持ちになってきました。引き出物のバームクーヘンたべながら後悔するんですよ…バームク…
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