まさかの花嫁候補三人目です
「ギルバート様。こんなところでお会いできるなんて、嬉しいですわ」
眩い金の髪を揺らし、少女が微笑む。
対してベンチに腰掛けた芥子色の髪の少年の表情は硬い。
ここは学園の中庭にある四阿。
セアラは公爵令息の婚約者という肩書をめいっぱい活用して、ギルバートとマージョリーを二人きりにすることに成功した。
頼まれた生徒達は困惑した様子ではあったが、見事に指示をこなしてくれたようだ。
さすがはノーマン公爵令息の婚約者。
エリオット子爵令嬢ではこうはいかない。
一体何と言って二人を呼び出したのかは知らないが、結果良ければすべて良しである。
ギルバートの表情は硬いが、その場を動く気配はない。
マージョリーが向かいに座って笑みを向けると、ギルバートはため息をついた。
「コックス侯爵令嬢。何か用があるのか?」
「いいえ。ギルバート様がこちらにいらっしゃると伺ったので、ご挨拶しようと思いましたの」
ちなみに、セアラは四阿からは死角になる茂みに身を潜めている。
枝がチクチクと痛いが、二人の様子を見定めなければ調査にならない。
ここは忍耐だ。
剣の稽古と同じで、忍耐もまた鍛錬のひとつなのだ。
顔にかかる葉っぱを手で払いのけながら、セアラはじっと耳を澄ました。
「用がないなら、もういいだろう」
ギルバート、まさかのどこかへ行け宣言。
これには上品なマージョリーの顔も一瞬ひきつる。
「わたくしは、ギルバート様と一緒にいて、お話しできるだけで幸せですのに。……誰かさんと違いまして」
おお、めげない!
素晴らしい強靭な精神!
これはなかなかポイントが高い。
しかも何か意味深だ。
どうやらその言葉が気にかかったらしく、ギルバートは眉を顰めつつもマージョリーの方に顔を向けた。
「どういう意味だ?」
「たいしたことではありません。わたくしなら、ギルバート様のおそばを離れるような真似はしないということですわ」
更に意味深だが、どうやらギルバートには伝わっているらしい。
二人だけで通じる言葉……悪くない気がする。
これはいい感じ、なのだろうか。
「……君は、あれとは違う」
「そうですわね。いつまでも同じものにこだわる必要もないと思いますが」
「あれでないなら、必要ない」
そう言うと、ギルバートは視線を庭の奥に移してしまった。
長居は愚策とばかりに、マージョリーは美しい礼をして立ち去った。
会話の内容はいまいちわからない部分もあったが、二人だけで通じ合っているような気もしないでもない。
ただ、思った以上に甘さが存在しないのが不思議だった。
「……巨乳美少女に微笑まれても無反応だなんて。ギル様は貧乳派なのでしょうか?」
それはそれで意外な収穫ではあるが、ただでさえ条件が厳しいのだから胸のサイズくらいは妥協してほしいものである。
「あら、ノーマン様。どうかなさいましたか?」
マージョリーの姿が消えてほどなくすると、今度は黒髪の少女がやってきた。
丸投げしたというのに、生徒達の二人を連れ出すタイミングが素晴らしすぎる。
よく考えれば、不機嫌そうにしながらもギルバートが四阿に残り続けている時点で凄い。
一体何と言って彼らを呼び出したのか、是非とも聞いてみなければ。
「ああ、アビントン嬢か」
マージョリーの時とは違って、少し表情が柔らかい。
やはり男性は華やかな美少女よりも、控えめで清楚な雰囲気の美少女を好むのだろうか。
「私の名前、ご存知だったんですね。あの方以外には興味がないのだと思っていました」
「名前くらい、憶えている」
「では、フルネームはわかりますか?」
「……いや」
言い負かされて黙るギルバートというのも新鮮だ。
これは、なかなか親しげな気がする。
ただ、『あの方』というのがよくわからないが、誰のことだろう。
「アイリーン・アビントンと申します」
「そうか」
あまりに短い返答に、セアラは手近な枝を思わず折りそうになる。
好意の有無はともかく、可愛らしい女性が名前を教えてくれたのだから、もう少しいい反応があるのではないだろうか。
「それで、最近はどうですか? 上手くいきましたか?」
「……いや。避けられている気がする」
アイリーンは可愛らしいため息をつくと、四阿のベンチの端に腰掛けた。
「やはり、もうおやめになった方が」
「それはそうだが」
「もっと素直になればよろしいのです。きっと、上手くいきます」
「わかってはいるのだが……」
……なんだろう。
気安いし親しげではあるが、方向性が思ったものと違う。
男女の色恋というよりは、姉弟の相談という雰囲気だ。
大体、避けられているというのは何だろう。
アイリーンに相談するくらいなら別人だろうが、マージョリーとの会話からすると彼女ではなさそうだ。
となると、第三の人物がいるということになる。
それが『あの方』だろうか。
「……理想の花嫁候補三人目。盲点でした」
確かに、あの二人はセアラが選び抜いた人材だ。
美しく優秀で素晴らしい女性ではあるが、ギルバートの意見は取り入れられていない。
それにしても、ここまで来て別人に白羽の矢が立つとは。
理想の花嫁斡旋人として、不甲斐ないばかりだ。
「……こうなったら、三人目が誰なのかを調べて。それから――」
「――そんなところで何をしているんだ、セアラ」
突然頭上から降ってきた声にびくりと肩を震わせると、ギルバートが水色の瞳でセアラをとらえていた。
総合日刊、異世界恋愛ランキング入りに感謝を込めて、本日も2回更新です。
このあと、活動報告でキャラクターのイメージで作ったアバターを公開します。
「竜の番のキノコ姫 ~運命だと婚約破棄されたら、キノコの変態がやってきました~」同時連載中。
よろしければ、こちらもご覧ください。






